現在、板橋区立美術館で開催されているのは、
“さまよえる絵筆-東京・京都 戦時下の前衛画家たち” という展覧会です。
これまで、板橋区立美術館では何度も、
昭和初期の前衛美術をテーマにした展覧会が開催されていきましたが。
こちらは、その最新作。
戦時下の前衛画家たちにスポットを当てた展覧会となっています。
今展でもっとも重要なキーワードとなるのが、『古典』。
古典と前衛美術。
なんだか矛盾するような印象を受けましたが。
確かに、その切り口で作品を観てみると、
福沢一郎の 《女》 は、初期ルネサンスの画家マザッチオの 《楽園追放》 のオマージュですし。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
靉光の 《静物(雉)》 は、エル・グレコと古典的な静物画を足したような作風ですし。
後年、日本を代表する抽象画家となる難波田龍起にいたっては、
戦時下においては、古代ギリシャや古代ローマ的なモチーフを描いていた模様。
ド直球に古典的です。
なぜ、戦時下の前衛画家たちは、
古典をテーマとした作品を描いたのか。
その理由はこれまで、
「前衛的な絵画は弾圧されるので、政府に目を付けられないよう、古典的な絵画を描いていた」
というような消極的な感じでとらえられていたそうですが。
この展覧会では、あえて積極的に、
古典的なモチーフに挑んでいたのでは?というスタンスで、
前衛の画家たちの作品や活動を紹介しています。
前衛画家はやはりどこまでも前衛的だった。
そんなことを発見できる展覧会です。
ちなみに。
古代ギリシャや古代ローマをモチーフにしていた難波田龍起ですが、
その後、興味は、海外の古典から日本の古典へとシフトしていきます。
仏像をモチーフにしたり、さらには、埴輪をモチーフにしたり。
同じくのちに抽象画家として活躍するオノサトトシノブも、
小野里利信と漢字表記だった初期の頃には、埴輪をモチーフにした作品を描いていました。
どうやらこの頃、美術雑誌などでも、
よく埴輪が取り上げられていたのだそう。
戦時下に謎の埴輪ブームがあったのですね。
また、今回の展覧会では、東京だけでなく、
京都の前衛画家にもスポットが当てられています。
日本画家が中心を占める京都では、
前衛画家は東京以上に異端の扱いを受けていたのだそう。
そんな京都を代表する前衛画家の一人が、北脇昇です。
さすがは京都の画家だけに (?)、
京都の龍安寺の石庭をモチーフとした作品も発表しています。
そして、もう一人が小牧源太郎。
「仏画的なもの」 をテーマにした絵を多く描いた、
一度観たら忘れられない強烈な個性の持ち主です。
展覧会のラストで紹介されていたのは、北脇昇が発案企画し、
小牧源太郎ら京都の前衛画家たちが集団制作した 《浦島物語》 。
北脇は自分を含めて14人の画家に担当の場面を割り振った上で、
「誘惑」「親和」 といったキーワードと、主題と背景の色も指定したのだそう。
それらをもとに画家はおのおの絵を描き、
14人全員で 『浦島物語』 を完成させようというものです。
企画としては、なんとも面白そうな気がしますが、
いかんせん前衛の画家に任せてしまったせいで・・・・・。
あまりにも物語の原形をとどめてない仕上がりに。
おいっ、どこが浦島物語やねん!!!
浦島太郎や亀を出せーーー!!!
・・・と、心の中で、おいでやす小田ばりに絶叫ツッコミをしてしまいました。
前衛にもほどがあります。