加島美術が展開する神楽坂の次世代型アートギャラリー、
√K Contemporaryおよび、その地下にあるSpace√Kの2会場で、
現在開催されているのは、“堀江栞 声よりも近い位置” という展覧会。
加島美術が今もっともプッシュする次世代日本画家、堀江栞さんの個展です。
1992年生まれの女性作家の個展。
それだけの事前情報しかない状態で、
会場を訪れたところ、いい意味で、裏切られました!
技術は高いわ、モチーフは独創的だわ、
一度向き合ったら目が離せないほどの引力があるわ。
とてもアンダー30の作家とは思えないほど世界観が確立していました。
すでにベテランの風格が漂っています。
Space√Kに飾られていた作品の中で、ひときわ目を惹かれたのが、
キリンの骨格をモチーフにしたというこちらの 《さまようⅡ》 という作品です。
ミステリアスなモチーフそのものにも、もちろん惹き付けられたのですが。
それ以上に惹きつけられたのが、その独特な背景です。
それ自身が、一つの抽象画のような。
不思議な味わいのある背景でした。
真っ黒でもなく、真っ白でもなく、このモチーフには、この背景しかありえない。
この作品に限らず、堀江さんの描く作品の背景には、そんな絶対的な説得力がありました。
さて、旧作を中心に展示したSpace√Kとは対照的に、
√K Contemporaryのほうでは、近作や新作を中心に展示されています。
2015年に五島記念文化賞美術新人賞を受賞し、
副賞の海外研修でパリに滞在したという堀江さん。
その滞在を経て、モチーフにある変化が。
それまでは描いていなかった人やぬいぐるみにも取り組むようになったのだそうです。
彼女が描く人やぬいぐるみは、
どこか寂しげで、どこか不穏な空気が漂っています。
何かを訴えかけているようで、
何も訴えかけていないようで、
やっぱり何かを訴えかけているようで。
どこかもどかしさを感じるものがありました。
数ある人物をモチーフにした絵画の中で、
特にインパクトがあったのが、《後ろ手の未来》 と題されたこの1枚です。
うつろな表情を浮かべる若者たち。
よく見ると、皆同じ衣装を身にまとっています。
彼ら彼女らは個性をはく奪されたのか?
それとも、それに抗っているのか?
その答えをもとめて、作品と向き合っていたら、脳内で突然あの曲が再生されました。
堀江さんが描く人物たちは、
声なき声をあげているのかもしれません。
さてさて、どちかといえば、
「ズーン」 とか 「ムーン」 といった擬音が似合いそうな、
重たい印象のある作品ゆえ、堀江さん自身もそういうタイプの人なのかと思いきや。
ご本人は、謙虚で礼儀正しく、
笑顔の多い飾らないお人柄で、ホッとしました。
堀江さんと少しだけお話させて頂いたのですが。
特に印象的だったのが、心から描きたいと思ったものを、
存在として形に残すために、自分との距離を縮めるように、
ひたすら黙々と描き続けているとお話されていたことです。
その姿勢は、どこか仏師に通ずるような。
そう言われて改めて彼女の描いた人物を観てみると、
どこか仏像のような達観した表情のように思えてきました。
ちなみに。
堀江さんは、生き物の中では、
特にハシビロコウがお好きなのだそう。
動かない鳥としてブームになる前から、好きだったとのことで、
2010年にすでに 《凛然》 という作品で、ハシビロコウをモチーフにしています。
イケメンかつワイルド。
なんとなく危険な香りも漂っています。
『龍が如く』 に出てきそうなハシビロコウ。