現在、千葉市美術館で開催されているのは、
“大・タイガー立石展 POP-ARTの魔術師” という展覧会です。
(注:展示室内の写真撮影は一部可能。この記事に使用している写真は特別に許可を得て撮影したものです。)
ある時は、立石紘一。
ある時は、立石大河亞。
またある時は、タイガー立石。
3つの名前を使い分け、美術、漫画、絵本、イラストと、
さまざまな分野で活躍したアーティスト・タイガー立石の大規模な回顧展です。
展覧会の冒頭に飾られていたのは、《ネオン絵画》。
こちらは、若き日の立石が読売アンダパンダン展に出展しようと計画したものの、
その読売アンダパンダン展自体が終了してしまい、未完に終わったという作品です。
立石の死後、資料をもとに再制作されたものなのだとか。
その色味といい、その雰囲気といい、
『ケンミンショー』 のセットに使われていそうな感じがしました。
ちなみに。
《ネオン絵画》 を出展予定の前年の読売アンダパンダン展に、
若き日の立石が出展したのが、こちらの 《共同社会》 という作品です。
画面全体に貼り付けられているのは、
大量の流木と、大量の壊れたおもちゃ。
このインパクトの強い作品で鮮烈なデビューを果たしたそうですが、
その翌年に発表された 《立石紘一のような》 では、作風がガラッと一変しています。
以降、どこかシュルレアリスムを彷彿とさせるような、
まさに “立石ワールド” としか形容できない独自の絵画を次々に発表していきました。
と、前衛芸術家として活動する一方で、
1965年からは 「タイガー立石」 というペンネームで漫画を描くように。
やがて、新聞や漫画雑誌での連載を持つまでになります。
漫画の内容はナンセンスもナンセンス。
しかし、このナンセンスっぷりが、
当時の子どもたちに大ウケだったそうで。
ナンセンス漫画家として人気を博していたそうです。
なお、彼の漫画によく登場するのが、
「コンニャロ」 や 「ニャロメ」 というフレーズ。
ニャロメといえば、赤塚不二夫の漫画のキャラを思い出しますが。
実は、赤塚不二夫と立石は交流があり、
その縁から、あの猫のニャロメというキャラが生まれたのだそうです。
もしも、立石がそのまま漫画を描き続けていたら、
赤塚不二夫と並ぶくらいの国民的漫画家になっていたかもしれませんが。
立石は、「これ以上やると (漫画の) 深みにはまる」 と、
あっさり人気漫画の地位を捨て、イタリアのミラノへ移住してしまいます。
その辺りから描くようになったのが、
立石の代名詞ともいうべき 「コマ割り絵画」 シリーズ。
絵画と漫画を融合した立石ならではの絵画シリーズです。
言語を一切使うことなく、視覚に訴えかけたこの画風はイタリアで大ウケ!
イタリアの一流デザイナーや一流建築家のオファーを受け、
イラストやデザイン、宣伝広告などを数多く手がけるようになります。
しかし、売れっ子になると、
イヤになってしまうのが、タイガー立石という男。
立石、イタリアの仕事やめるってよ。
立石、帰国するってよ。
ということで、13年ぶりに日本に帰国。
帰国後数年ほど東京で生活し、
1985年から晩年までは、千葉県で精力的に作品を制作し続けました。
その千葉時代に描かれた作品の中でも、
特に代表作とされるのが、「大河画三代」 と命名された3点の大作。
右から、《明治青雲高雲》、《大正伍萬浪漫》、《昭和素敵大敵》 です。
明治、大正、昭和をテーマに、それぞれの時代を代表する著名人やアイコン、
トピック、カルチャーがこれでもかというくらいに画面いっぱいに描き込まれています。
ナンセンスあり。パロディあり。
小ネタも満載なので、隅から隅まで見逃せません。
虎は死して皮を残し人は死して名を残すということわざがありますが、
タイガー立石は死して名も残し、「大河画三代」 というとんでもない作品を残していたようです。
この超大作を観るためだけでも、
千葉市美術館を訪れる価値は大いにありました。
なお、「大河画三代」 とは別に、帰国後の作品で個人的に好きなのは、
縄文土器や埴輪、青銅器といった古代のモチーフと近未来の世界が融合した作品群です。
誰も見たことがないオリジナルな世界観であるにも関わらず。
まるで実際にこんな光景がどこかにあったかのような、妙な説得力がありました。
「大河画三代」 と併せて、いつまでも観ていられる作品です。
ちなみに。
今回の大・タイガー立石展では、
油彩作品以外にも、軸装された作品や、
陶器で作られた立体作品も紹介されています。
つくづく多才な芸術家であったことを実感させられます。
この立体作品は、デ・キリコ、岡本太郎といった、
国内外の著名な芸術家たちをモチーフにしたものなのだそう。
一瞬、昨年よりコロナ関連で、
ワイドショーによく出ている二木先生かと思いましたが。
よくよく見たら、セザンヌでした。