注:この取材は緊急事態宣言が発出される前に行いました。
東京から車で約3時間半。
長野県小布施町にある北斎館を訪れてきました。
“栗と北斎と花のまち” 小布施。
北斎は83歳の時に初めて小布施を訪れて以来、
晩年までたびたび、この街を訪れていたそうです。
江戸時代に、ましてや当時の80代の人間が、
東京から何度も小布施に足を運んでいただなんて。
車でも遠さを感じてしまっただけに、
改めて北斎のバイタリティに驚かされました。
そんな小布施町にある北斎館では、現在、
“てくてく、ふらり、のんびり 旅する浮世絵” という展覧会が開催されています。
名所絵の名手といえば歌川広重、というイメージが強いですが。
実は北斎も数多くの名所絵を残しています。
そんな北斎による名所絵や旅人の姿を描いた浮世絵にスポットを当てた展覧会です。
80歳を過ぎても、小布施まで足を運んでいた北斎が、
日本全国を旅するようになったのは、意外と遅咲きで50代半ばからだったそう。
北斎はとりわけ富士山が好きだったようで、
現在の静岡県や山梨県にも足繫く通っていたのだとか。
今展では、そんな富士山好きの北斎による傑作 《冨嶽三十六景》 シリーズを中心に、
北斎が74歳の時に発表した 《諸国瀧廻り》 シリーズや、
日本全国の変わった橋を描いた 《諸国名橋奇覧》 シリーズなどが紹介されていました。
展覧会として、特に個人的に印象に残っているのが、
《諸国瀧廻り》 シリーズを展示したコーナーでの演出です。
耳を澄ますと、何やら 「チョロチョロチョロ・・・」 という水の音が聞こえてきました。
“もしかして、どこかで水漏れしてる??”
とあたりを見回してみると、こんなキャプションを発見!
なぁ~んだ!演出だったのか・・・・・・・って、
だったら、もっと滝っぽい効果音を流してくれよ!
「チョロチョロチョロ」 じゃなくて、「ゴォゴォゴォ」 的な!
あと、印象的だったといえば、こちらのキャプションも。
この瀕死の状態が気になりすぎて、
キャプションの内容はおろか、作品そのものも頭に入ってきませんでした。
さてさて、企画展もさることながら、
やはり北斎館で見逃せないのは、肉筆画コレクションです。
サバの上にアワビを乗せる構図が斬新な 《あわび、さば、えび》 や、
可愛く描こうという気が一切感じられない 《猫》、
江戸時代のものとは思えないくらいに今なお色鮮やかな 《東海道旅行》 など、
印象的な肉筆画は数多くありましたが、
中でも一番のお気に入りは、こちらの 《椿と鮭の切り身》 です。
どういう取り合わせなん?
シュルレアリスムの絵画よりも、
シュールな取り合わせに思わず脱帽してしまいました。
もしかしたら、塩ジャケがしょっぱいので、
食べると、唾 (つばき) が出るというダジャレなのかも。
ちなみに。
肉筆画コーナーには、北斎の弟子たちの作品も。
当たり前ですが、北斎と比べてしまうと、
どの弟子の作品も物足りなさを感じてしまいました。
こちらの大山北李なる弟子の作品にいたっては、物足りなさどころか。。。
あなた、本当に北斎の弟子ですか?
一日入会体験的な感じだったのでは??
同じ大山姓として、何か気恥ずかしくなりました。
さてさて、北斎館のラストに待ち構えているのは、
北斎館が誇る至宝、いや、長野県が誇る至宝というべき祭屋台天井絵です。
祭屋台は、北斎唯一の立体造形物とされる作品で、
その天井部分には、北斎が肉筆で描いた絵が2面飾られています。
ただし、現在、祭屋台の天井に飾られているのは、精巧なレプリカ。
実物は、より近くで鑑賞できるように、
祭屋台からおろされた状態で展示されています。
「男浪」 も 「女浪」 も迫力満点!
「男浪」 は、一昨年にすみだ北斎美術館で鑑賞していますが、
祭屋台とともに本場で目にしたほうが、やはり感動もひとしおでした。
また、「鳳凰図」 と 「龍図」 も圧巻。
「鳳凰図」 は、すみだ北斎美術館での展示以来、二度目まして。
「龍図」 は、はじめましてなのですが、
何かどこかで会ったことがあるような妙な親近感を覚えました。
じーっと見ていたら、なんとなく、
あくまで目元の雰囲気がなんとなくですが、わが父親に似ているような。
と、なにはともあれ。
肉筆画と祭屋台天井絵を観るためだけに、
小布施の北斎館を訪れる価値は十分にあり!
これを機に、僕も北斎のように、
小布施にたびたび通うことになりそうです。