この春、すみだ北斎美術館で開催されているのは、
“しりあがりサン北斎サン -クスッと笑えるSHOW TIME!” という展覧会。
すみだ北斎美術館では、2018年以来、
3年ぶりとなるしりあがり寿さんとのコラボ展です。
(注:緊急事態宣言の発令を受け、4月25日から5月31日の予定で臨時休館しています。延長の可能性あり)
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
展覧会の冒頭に飾られていたのは、こちらの2枚。
溪斎英泉が描いた北斎の肖像画と、
しりあがり寿さんが描いた自画像です。
左)しりあがり寿 《しりあがり寿肖像画》 🄫しりあがり寿 すみだ北斎美術館蔵(通期)
右)溪斎英泉 《北斎肖像画》 国立国会図書館デジタルコレクション(通期)
パッと見、別人のように思えますが、しりあがりサンのほうは、
実は、北斎の肖像画に鼻メガネとベレー帽を被せただけのもの (笑)
であるにも関わらず、なぜかしりあがりサンに見えるから不思議なものです。
展覧会は、3章仕立て。
まず第1章では、北斎の代表作 《冨嶽三十六景》 をもとに、
しりあがりサンが大胆にパロディした 《ちょっと可笑しなほぼ三十六景》 が展示されています。
左)しりあがり寿 《ちょっと可笑しなほぼ三十六景 ホワイトクリスマス》 🄫しりあがり寿 すみだ北斎美術館蔵(通期)
右)葛飾北斎 《冨嶽三十六景 礫川雪ノ旦》 吉野石膏コレクション すみだ北斎美術館寄託(前期)
元ネタを知らなくても、十分に楽しめますが。
すみだ北斎美術館での展覧会だけあって、
基本的には、作品の横に、北斎によるオリジナル作品も展示されています。
見比べてみたほうが、面白さは倍増しました。
個人的には、芸人の血が騒いでしまい、それぞれの作品の前で、
ついつい “自分だったら、こんな風にアレンジするかな” と考えてしまう羽目に。
それゆえ、普段よりも鑑賞時間も倍増してしまいました。
「隅田川関屋の里」 の駆ける馬を、
葛飾北斎 《冨嶽三十六景 隅田川関屋の里》 すみだ北斎美術館(前期)
メリーゴーランドから逃げる馬に置き換えるなど、
しりあがり寿 《ちょっと可笑しなほぼ三十六景 メリーゴーランドからの逃走》 🄫しりあがり寿 すみだ北斎美術館蔵(通期)
『見立て』 の妙が冴えわたる作品が多かったですが。
個人的に思わず唸ってしまったのは、
「相州七里浜」 をパロディした作品です。
元ネタとなる 「相州七里浜」 は・・・・・
葛飾北斎 《冨嶽三十六景 相州七里浜》 すみだ北斎美術館(前期)
《冨嶽三十六景》 の中では、かなり地味な印象の作品。
しかも、地味な上に、要素も少ないので、
ボケられる (?) 余地がほとんど見当たりません。
こんな難問のお題に対して、しりあがりサンが出した答えがこちらです。
しりあがり寿 《ちょっと可笑しなほぼ三十六景 スマホで拡大》 🄫しりあがり寿 すみだ北斎美術館蔵(通期)
元ネタと合わせて、2コマ漫画に。
芸人にはない、漫画家ならではの発想です。
心の中で 「IPPON!」 と声をあげてしまいました。
同様に、「本所立川」 の・・・・・
10秒後を描いた作品も素晴らしかったです。
しりあがり寿 《ちょっと可笑しなほぼ三十六景 十年後》 🄫しりあがり寿 すみだ北斎美術館蔵(通期)
ちなみに。
《ちょっと可笑しなほぼ三十六景》 は、
ほぼ3年前の展覧会で発表されたシリーズですが。
今展に合わせて新たに制作された作品も披露されていました。
《冨嶽三十六景》 をゴルフのあるあるの光景にアレンジした、その名も 「ゴルフ十八景」 です。
《冨嶽三十六景》 とゴルフ。
あまりにかけ離れすぎていて、
“さすがにそれは無理やりすぎるのでは?” と思いきや。
不思議なほどマッチしていました。
しりあがり寿 《Green Tree》 🄫しりあがり寿 すみだ北斎美術館蔵(前期)
しりあがり寿 《並木の合間》 🄫しりあがり寿/Taiheiyo Club すみだ北斎美術館蔵(通期)
違和感なさすぎ。
フジサンケイレディスクラシック・・・ならぬ、
富士山景浮世絵クラシックといったところでしょうか。
続く第2章は、「よりぬき北斎さん」 と題し、
北斎の 《東海道五十三次》 や 《諸国瀧廻り》 シリーズを元にした、
しりあがりさんの新作の数々が紹介されています。
しりあがり寿 《諸国瀧廻り アトラクション》 🄫しりあがり寿 すみだ北斎美術館蔵(通期)
しりあがり寿 《東海道 彩色摺 五拾三次 いしべ 名曲》 🄫しりあがり寿 すみだ北斎美術館蔵(前期)
何よりも驚かされたのが、
しりあがりサンのネタの引き出しの多さ。
これだけの数のボケ (?) を思い付くなんて、尋常ではありません。
ただ、東海道を描いたシリーズに関しては、
葛飾北斎 《五十三次江都の往かい 大磯》 すみだ北斎美術館蔵(前期)
葛飾北斎 《東海道五十三次 大磯》 すみだ北斎美術館蔵(前期)
本家・北斎もだいぶ笑いを取りに行っていました。
普通にクスっとしてしまい、キャプションに目を向けると、
しりあがりサンの作品ではなく、北斎サンの作品であることしばし
どっちがしりあがりサンで、どっちが北斎サンなのか。
途中から軽く混乱してきました。
今回、しりあがりサンの作品と並べることで、
初めて北斎サンのギャグセンスを実感できたような。
実に新鮮な発見でした。
展覧会を締めくくる第3章では、
北斎の浮世絵をアレンジした平面作品にとどまらず。
フランスでも発表された映像作品や、
しりあがり寿 《Voyage de Hokusai(北斎の旅)》 🄫SHIRIAGARI Kotobuki作家蔵
🄫Zadig Productions en association avec Arte France-Arte Creative(通期)
「もしも北斎が現代のアパレルとコラボしたら・・・」
そんな発想から制作された作品などが紹介されていました。
しりあがり寿 《赤富士マスク》《ちょいコラボTシャツ 少しラクガキ2》 🄫しりあがり寿 すみだ北斎美術館蔵(通期) 展示協力:(株)ヤギ
とりわけ印象的だったのは、疫病退散の願いを込めて、
北斎が制作した 《朱描鍾馗図》 を元にした 《コロナ退散 2021》 です。
左)葛飾北斎 《朱描鍾馗図》 すみだ北斎美術館像(前期)
右)しりあがり寿 《コロナ退散 2021》 🄫しりあがり寿 すみだ北斎美術館蔵(通期)
マスクをした鍾馗様がコロナを踏みつけています。
しかも、ただ絵をアレンジしただけでなく、
表具もコロナ仕様となっているのもポイント。
テキスタイルブランドのヤギが開発した、
抗ウイルス加工を施した生地素材が使われているのだとか。