奈良県にある三輪山ゆかりの仏像などを紹介する展覧会、
“特別展 国宝 聖林寺十一面観音 ―三輪山信仰のみほとけ” が、
現在、東京国立博物館の本館特別5室で開催されています。
展覧会の目玉は何と言っても、
奈良県以外では初公開となる国宝 《十一面観音菩薩立像》。
国宝 《十一面観音菩薩立像》 奈良時代・8世紀 奈良・聖林寺蔵
あのフェノロサやあの和辻哲郎が激賞したことで知られる仏像です。
さらに、あの白洲正子には・・・・・
「世の中にこんな美しいものがあるのかと、私はただ茫然とみとれていた。」
(白洲正子 『十一面観音巡礼』)
と言わしめたほど。
日本を代表する仏像、いや、日本を代表する彫刻作品です。
もともとは三輪山を御神体とする大神神社にあった、
大神寺 (のちの大御輪寺) にまつられていたそうですが。
明治政府の神仏分離の政策によって、
1868年に聖林寺へと移され、現在までその地で安置されています。
実は以前、国宝ハンターとして聖林寺を訪れ、
国宝の 《十一面観音菩薩立像》 にお会いしているのですが。
聖林寺行きのバスの便が少なかったうえに、
その日が異様に寒かったため、テンションがガタ落ちした記憶しかなく・・・。
そういう意味では、はじめましてのような、
新鮮な気持ちで鑑賞することができました。
お顔立ちの美しさもさることながら、
特に美しく感じたのが、右手のポージングです。
国宝 《十一面観音菩薩立像》 右手(部分) 奈良時代・8世紀 奈良・聖林寺蔵
力が入っているわけでもなく、
かといって、力が抜けきっているわけでもなく。
繊細で絶妙なバランスの手つきでした。
所作の美しさが際立っていました。
また、何よりも美しいのが、全体のプロポーション。
実は、この国宝 《十一面観音菩薩立像》 は、
《ミロのヴィーナス》 と比較されることが多くあります。
正直なところ、聖林寺で拝見した際には、
そこまでヴィーナスを感じることはなかったのですが。
今展では、360度ぐるりと鑑賞できるため、背後に回ってみたところ・・・
国宝 《十一面観音菩薩立像》(部分) 奈良時代・8世紀 奈良・聖林寺蔵
背中から腰にかけてのラインの美しさに目を奪われました。
まさにヴィーナスライン!
《ミロのヴィーナス》 と比べられるのも納得です。
さて、背後から仏像を鑑賞していたところ、
もう一つ、気づいてしまったことがありました。
それは、十一面観音の十一面たる頭上面に関すること。
あれ、背面のいくつかが足りないような・・・??
国宝 《十一面観音菩薩立像》 頭上面(部分) 奈良時代・8世紀 奈良・聖林寺蔵
どうやら長い年月の中で、正面の1つと、
背面の2つの頭上面が消失してしまったのだとか、
正確には、八面観音菩薩ですが、
これからも十一面観音菩薩でよろしくお願いいたします。
ちなみに。
今展では、国宝の 《十一面観音菩薩立像》 の他にも、
同じく神仏分離政策により、大神神社から移された仏像が紹介されています。
そのうちの1つが、現在は法隆寺に安置されている 《地蔵菩薩立像》 です。
国宝 《地蔵菩薩立像》 平安時代・9世紀 奈良・法隆寺蔵
この仏像を作った仏師はおそらく、
衣文の表現を特に得意としていたのでしょう。
複雑な衣服の襞を軽やかに再現しています。
その流れで、のどの部分も衣文のようにしてしまったのかも。
ブルドックくらいに、首元がだるだるしていました。
それから、奈良の正暦寺が所蔵する 《日光菩薩立像》、
および 《月光菩薩立像》 も大神神社から移されたものです。
左から 《月光菩薩立像》《日光菩薩立像》 いずれも平安時代・10~11世紀 奈良・正暦寺蔵
これらの仏像が再会を果たしたのは、
大神神社からそれぞれの新天地に旅立って約150年ぶりとのこと。
それゆえ、展覧会会場はちょっとした同窓会状態でした (←?)。
ちなみに、《日光菩薩立像》 と 《月光菩薩立像》 は、
一般的には、左右対称に作られることが多いそうですが。
正暦寺の 《日光菩薩立像》 と 《月光菩薩立像》 は、両方とも同じポーズをしています。
しかも、よく見ると、《日光菩薩立像》 はちょっとぽっちゃり、
《月光菩薩立像》 のほうは、一回りシュッとしているように見えます。
ダイエットチャレンジのビフォーとアフターのよう。
┃会期:2021年6月22日(火)~9月12日(日)
┃会場:東京国立博物館 本館特別5室
┃https://tsumugu.yomiuri.co.jp/shorinji2020
┃※今後の状況により会期・開館時間等は変更する場合がございます。