この夏、サントリー美術館では、
“ざわつく日本美術” という展覧会が開催されています。
そのキャッチーな展覧会名に、開幕前から、
業界関係者がざわついた話題の展覧会です。
どんな “ざわ…ざわ…” が待ち受けているのか。
早速、会場の中に入ってみましょう。
さて、展覧会の冒頭でいきなり待ち受けていたのは、
今展のメインビジュアルでもある5代目尾上菊五郎の役者絵です。
現代人の僕らからすれば、
特に違和感を覚えることはないでしょうが。
西洋錦絵としてこの絵が制作された明治8年頃は、
日本の庶民の間では、まだそこまで西洋絵画が根付いておらず。
当時の最新技術である砂目石版を採用して、大々的に売り出すも、
人物の描写が生々しすぎると人々に受け入れられず、不評に終わったそうです。
そんな明治の人々をざわつかせた作品を、
今展では、パネルで周囲を囲み、殊更強調しています。
しかも、パネルのうちのいくつかは、
観客の動きに合わせて、視線も動く、
ホーンデッドマンションの肖像画と同じ仕様になっていました。
ざわ…ざわ…
明治時代にも、人々をざわつかせ、
令和の世になって、再び人をざわつかせ。
まさかこんなことになっているとは、
5代目尾上菊五郎が一番ざわついてることでしょう。
5代目尾上菊五郎によるプロローグのあとは、
「うらうらする」 のコーナーが待ち受けていました。
こちらでは、やきものの裏側に注目したり、
こぎん刺しや掛け軸をあえて裏返しで展示したり、
普段はあまり注目されない、
または、見ることができない、
作品の “裏の顔” を紹介しています。
いつもは見られないものが見られるというのは、
何か背徳感めいていて、ドキドキするものがありました。
さてさて、「うらうらする」 のコーナーの後は、
長い歴史の間で様々な理由で切断された作品を紹介する 「ちょきちょきする」 や、
硯箱や蓋物をあえて離して展示する 「ばらばらする」 などのコーナーが続きます。
切り口が面白く、かつ解説もわかりやすく。
さらに、国宝や、重要文化財も惜しげもなく出展されていて・・・
非常に見ごたえのある興味深い内容ではあったのですが、
“ざわつく” というキーワードとは、そんなに結びつかなかったような。。。
ざわつき目的 (←?) で訪れた僕としては、
もう少しざわつきたかったなァというのが、率直な感想です。
展覧会のチラシやポスターに、
『これは、「見る」 を愉しむ展覧会だ。』 というコピーが使われていましたが、
ならば、“「見る」 を愉しむ展覧会” という展覧会名にした方がしっくり来た気がします。
ちなみに。
出展作品の中で、ざわつけたものを挙げるならば、
まずは、江戸時代に作られたこちらの 《道成寺縁起絵巻》 でしょうか。
道成寺縁起とは、白河から熊野詣にやってきた美形の僧・安珍に一目ぼれした清姫が、
なんやかんやあってストーカー化し、最終的に道成寺で安珍を鐘ごと焼き殺したというお話です。
この救いようもないバッドエンディングのお話は、
なぜか昔から人気があるようで、多くの絵巻が作られています。
サントリー美術館が所蔵する 《道成寺縁起絵巻》 もそのうちの一つ。
一般的な道成寺縁起絵巻が、
清姫がクライマックスで大蛇に変身するものが多い中で、
サン美所蔵のは、グラデーションのように徐々に清姫がモンスター化していくのが特徴的。
だいぶ早い段階で、髪の毛が逆立っています。
でんじろう先生に静電気の実験をされたかのように。
続いて、ざわついたのは、
西川祐信による 《美人図》 です。
衝立に描かれた絵にご注目。
ここに描かれている男性は、その衣装から、
中国を代表する詩人、陶淵明と考えることができるそうです。
そんな陶淵明の目線の先には、女性の腰ひもがあります。
実は、この絵は、陶淵明の 『閑情賦』 という詩の一説をもとにしているのだとか。
陶淵明はその詩の中で、思いを寄せる女性に対し、こんなことを言っていたそうです。
「もし、私が裳 (=スカート) だったら、
帯となって、あなたのたおやかな細い腰を締めてあげたい」
・・・・・・キモっ。
最後に紹介したいのは、こちらの絵巻。
《袋法師絵巻》 です。
描かれているのは、とある高貴な女主人の寝所。
そこに、エロ法師が侵入し、一夜を共にするのですが、
そのことがバレてしまうのを恐れ、法師を袋に隠してしまったのだとか。
法師は、袋の中で一部真顔を覗かせています。
こっちみんな!!
ちなみに。
この後、隣の局に住む別の女性が、
私も私も、と袋に入ったエロ法師を所望し、
袋入りの状態のエロ法師と、ことをなしたそうな。
・・・・・どういう状況だよ。
ないと思います!