現在、千葉市美術館では “前川千帆展” と同時開催で、
“江戸絵画と笑おう” というコレクション展も開催されています。
(注:館内の写真撮影は、特別に許可を頂いております。)
こちらは、千葉市美術館のコレクションの中から、
『笑い』 を切り口に、江戸絵画を紹介する展覧会です。
(江戸絵画だけでなく、明治時代の戯画もあります)
展覧会のタイトルやコンセプトが、
親しみやすくて、ポップな感じゆえ。
さらに、夏休み期間ということもあって、
子ども向けの展覧会なのかと思いきや。
喜多川歌麿、英一蝶、葛飾北斎、河鍋暁斎、
さらには、琳派の祖である俵屋宗達をはじめ、
出展作家は、日本美術史に名を残すスーパースター揃いでした。
日本美術で 「笑い」 といえば外せないこの方も、当然エントリーされています。
ゆるい禅画でお馴染みの仙厓さんです。
こちらは、《鐘馗図》。
フルスイングで鬼を真っ二つにした瞬間が描かれています。
ものすごく緊迫した手に汗握る場面、
アクション映画でいうとクライマックスシーンなはずなのですが。
ほのぼのとした空気すら感じられました。
さすが仙厓さん。
また、ほのぼのといえば、琳派屈指のほのぼの絵師。
中村芳中の作品も出展されています。
見ごたえたっぷり。かつ、ほっこり。
作品があまりにも充実していて、
思わず笑ってしまうレベルでした!
名前はポップなのに、中身は高級。
ここ最近増殖している食パン屋と同じスタイルです (←?)
さてさて、『笑い』 がテーマとはいっても、「アハハ」 ではなく、
「にやり」 や 「うふふ」 がキーワードとなっていた今回の展覧会。
大笑いできる作品こそなかったですが、じわじわくる作品は多々ありました。
例えば、《八代目市川団十郎の死絵(涅槃図)》。
こちらは、当時絶大な人気を誇った歌舞伎役者、
八代目市川団十郎が亡くなった際に作られた死絵のうちの1枚で、
嘆き悲しむ女性ファンたちの姿が涅槃図風に描かれています。
そんな女性ファンたちに交じって、嘆き悲しむ猫が一匹。
そんな風に泣くんかい!
死絵という悲しいフォーマットの中で、
少しでも笑いを取りたいという浮世絵師魂にグッとくるものがありました。
浮世絵師魂が伝わってきた作品は、もう1点。
歌川国芳の 《亀喜妙々》 です。
亀喜妙々 (ききみょうみょう)。
文字通り、奇妙な作品です。
画面には大量の人面亀。
『鬼滅の刃』 で大量の人面蜘蛛が出てくるシーンがありますが、あれを彷彿とさせます。
こちらは、幕府により役者絵に禁止令が出された際に、
だったら、亀の顔を役者の似顔絵にして売ってやろうと、制作されたもの。
甲羅をよく見ると、家紋になっているなど、
なかなか芸風の細かい作品となっています。
ただし、やはり当時の人々にもキモがられたそうで、
版元の予想に反して、まったく売れなかったのだとか。
そりゃそうだ。
江戸の浮世絵だけでなく、明治時代の浮世絵もいくつか紹介されていましたが。
その中で印象に残っているのは、
歌川広重の門人・昇斎一景による 《東京名所三十六戯撰 高なわ》 です。
高なわ。
今でいう、高輪ゲートウェイ駅あたりを描いた浮世絵です。
さて、この浮世絵が出版されたのは、明治5年3月とのこと。
日本初の鉄道が開業したのは、明治5年10月。
つまり、描かれている電車は、
想像して描かれたものというわけです。
運転席が2両分の客車を引っ張りつつ、
さらに、別の2両分を押していくという斬新な運転スタイル。
この発想はなかった。
さて、最後に紹介したいのは、
個人的に一番笑けてきた作品です。
タイトルは、《墨絵 子供遊図》。
よく言えば素朴、悪く言えば稚拙な画風。
意味不明な余白の取り方。
同じ服を着た10人の子供が横一列に並ぶという謎過ぎるシチュエーション。
「こんな変な絵、誰が描いてんねん!」
と、作者の名前を確認したら、伝徳川家光とありました。
まさかの将軍様!
時代が時代なら、この絵を観て笑ったら、首が飛んでいたことでしょう。
しかし、笑ってはいけないと思えば思うほど、笑けてくる。
リアル笑ってはいけない状態でした。