今年の芸術の秋に、江戸東京博物館が開館20周年記念特別展として開催するのが・・・
“維新の洋画家 川村清雄” という美術展。
・・・・・・・・・・。
芸術の秋なのに。
開館20周年記念特別展なのに。
何ともパッとしない感じの美術展です。
そもそも、 『川村清雄』 の名を知っている人は、どれくらいいるのでしょうか?
おそらく、よほど美術に興味がある人を除いては、
「川村清雄って、誰?何している人??」
と、芸術家であることすら知られていないのではないでしょうか。
ちなみに、僕は、かろうじて・・・
(注:展示は11/13~12/2)
こちらの篤姫の肖像画としてお馴染みの 《天璋院像》 を描いた画家として知っていました。
・・・でも、所詮それくらいです。
「そんな知名度の低い画家を真っ向から取り上げた美術展に、どうして期待が出来ようか!」
と、正直、この美術展を開催する江戸東京博物館のセンスを疑っていたのですが。
実際に美術展を観賞した後の率直な感想は、
「そんな知名度の低い画家を、あえて真っ向から取り上げた美術展を開催してくれてありがとう!」
に、コペルニクス的に転回しました。
こんな素晴らしい美術展を見抜けなかった、むしろ自分のセンスを疑います。
今回の展覧会のポイントは、何と言っても、
《川村清雄の渡航安全を祈願した守札》 や、 《川村清雄印刷局辞令》 など、
川村清雄に関する歴史資料が、美術展の全出展作品の、実に半分を占めている点。
知名度が、まだまだ低い川村清雄。
そんな川村清雄だけに、多くの歴史資料を併せて展示することで、
「この美術展をきっかけに広く知ってもらいたい!」 という、江戸東京博物館の熱い想いを感じました。
川村清雄の意外な交友関係の数々や、日本の最初期の洋画家としての生きざまなど、
美術展を通して、知られざる川村清雄像が明らかになっていくさまは、単純に面白く。
「どうして、こんなにエピソードが豊富な画家が、今まで知名度が低かったのだろう?」
と、首を傾げたくなるほどでした。
個人的に印象に残っているエピソードは、徳川家派遣留学生時代に、渡欧した先で、
当時7歳の津田梅子を看病することになり、麻疹をうつされて大変だったというもの。
意外なところで、歴史上の人物同士が出会っているのですね。
また、川村清雄がヴェネチア留学時代に、もっとも感銘を受けた画家というだけで、
ティエポロの 《聖ガエタヌスに現れる聖家族》 が、ヴェネツィア・アッカデミア美術館から緊急来日!
『ウチくる!?』 の登場ゲストのような扱いで来日してもらって申し訳ないくらいです (笑)
もちろん、歴史資料やエピソードばかりが紹介されているわけではありません。
今回の川村清雄展には、彼の代表作や初公開作品を含む約100点の絵画も展示されています。
最大の恩人である勝海舟の追悼作品として描き、
終生手元に置いていたとされる 《形見の直垂(虫干)》 をはじめ、
パリ留学時に訪ねたコローの影響が見られる 《貴賤図(御所車)》
そして、この美術展のために、オルセー美術館から初里帰りを果たした 《建国》
などなど、そのラインナップの充実ぶりは、
まさに最大規模の川村清雄回顧展に名に恥じないものです。
ただ、これは、あくまで僕の個人的な感想ですが。
川村清雄の作品は、いろんな作風にチャレンジしていることもあって、
当たり外れが大きいような気がします (笑)
イイと思う作品は、いつまでも眺めていたくなるくらいに素晴らしくて、
そうでもない作品には、とことん興味が湧かないという。
全部が全部、感動する作品というわけではないのが、川村清雄美術のミソです。
ちなみに、僕が、いつまでも眺めていたくなった作品を、いくつかご紹介いたしましょう。
まずは、 《滝》
川村清雄本人曰く、
「雪舟も応挙も滝を描いているが、これは、洋画の手法ならではの滝の絵である」
とのこと。
確かに、油絵の具を力強く塗り重ねることで、滝の迫力を表現した洋画ならではの絵でした。
雪舟の滝の絵も、応挙の滝の絵も素晴らしいのですが、あちらはサイレントの世界。
一方、清雄が描いた 《滝》 には、瀑布の音が響き渡っています。
なんなら、水しぶきも感じます。
流れ落ちる滝の壮絶なパワーを、
さらに圧倒的なパワーで、無理やり絵の世界に押し込めたかのような一枚。
続いて、 《徳川家茂像》
初見は、 「なんだ徳川家茂を描いた絵か」 と、特にそれ以外の感想を持てませんでした。
しかし、背景に注目すると、
単なる肖像画とは違う独特の表現がなされているのに気づきます。
現代の作家で言うと、有本利夫のような。
古い芸術で言うと、ルネサンスの壁画のような。
ともあれ、和風ではないことは確かです。
そんな背景と徳川将軍のコラボレーション。
ある意味、シュルレアリスムな作品です。
《江戸城明渡の帰途》 は、思わず声を上げたくなる作品。
無血開城を終えて帰途に就く勝海舟の背後には、斬りかかろうとする旧幕府軍将官の姿が。
しかし、のんきな勝は、その危険には、全く気付いていません。
思わず、 「勝、うしろー!」 と叫びたくなります。
最後は、慶応義塾大学が所蔵する 《福澤諭吉肖像》
・・・・・一万円札の時よりも、ちょっと疲れていらっしゃるような。
一万円札の時を、絶好調とするならば、
この肖像画の福沢さんは、6400円くらいでしょうか。
と、いろいろな作品を紹介してきましたが。
やはり、今回のベスト1は、何と言っても、 《建国》
パリの美術館に、 “日本” を象徴する絵を納める。
そんな大事業を、川村清雄がやってのけたことに、純粋に驚きますし、
そんな大事業に挑んだ時、川村清雄は70歳後半だったということに、さらに驚かされます。
絵としても、日本代表に相応しい一枚で、
この作品がオルセー美術館に所蔵されていることは、日本人として誇らしい気持ちになります。
ただ、気になったのは、モチーフや作風は、完全に日本なのですが。
画面右上の勾玉が、トリコロールカラーだったり、
画面下に描かれている3本の紐が、イタリアの国旗の色だったり。
「あっ、ヨーロッパを、意識しちゃいましたね (笑)??」 という箇所も、チラホラ。
川村清雄のお茶目な面も垣間見える作品である。
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“維新の洋画家 川村清雄” という美術展。
・・・・・・・・・・。
芸術の秋なのに。
開館20周年記念特別展なのに。
何ともパッとしない感じの美術展です。
そもそも、 『川村清雄』 の名を知っている人は、どれくらいいるのでしょうか?
おそらく、よほど美術に興味がある人を除いては、
「川村清雄って、誰?何している人??」
と、芸術家であることすら知られていないのではないでしょうか。
ちなみに、僕は、かろうじて・・・
(注:展示は11/13~12/2)
こちらの篤姫の肖像画としてお馴染みの 《天璋院像》 を描いた画家として知っていました。
・・・でも、所詮それくらいです。
「そんな知名度の低い画家を真っ向から取り上げた美術展に、どうして期待が出来ようか!」
と、正直、この美術展を開催する江戸東京博物館のセンスを疑っていたのですが。
実際に美術展を観賞した後の率直な感想は、
「そんな知名度の低い画家を、あえて真っ向から取り上げた美術展を開催してくれてありがとう!」
に、コペルニクス的に転回しました。
こんな素晴らしい美術展を見抜けなかった、むしろ自分のセンスを疑います。
今回の展覧会のポイントは、何と言っても、
《川村清雄の渡航安全を祈願した守札》 や、 《川村清雄印刷局辞令》 など、
川村清雄に関する歴史資料が、美術展の全出展作品の、実に半分を占めている点。
知名度が、まだまだ低い川村清雄。
そんな川村清雄だけに、多くの歴史資料を併せて展示することで、
「この美術展をきっかけに広く知ってもらいたい!」 という、江戸東京博物館の熱い想いを感じました。
川村清雄の意外な交友関係の数々や、日本の最初期の洋画家としての生きざまなど、
美術展を通して、知られざる川村清雄像が明らかになっていくさまは、単純に面白く。
「どうして、こんなにエピソードが豊富な画家が、今まで知名度が低かったのだろう?」
と、首を傾げたくなるほどでした。
個人的に印象に残っているエピソードは、徳川家派遣留学生時代に、渡欧した先で、
当時7歳の津田梅子を看病することになり、麻疹をうつされて大変だったというもの。
意外なところで、歴史上の人物同士が出会っているのですね。
また、川村清雄がヴェネチア留学時代に、もっとも感銘を受けた画家というだけで、
ティエポロの 《聖ガエタヌスに現れる聖家族》 が、ヴェネツィア・アッカデミア美術館から緊急来日!
『ウチくる!?』 の登場ゲストのような扱いで来日してもらって申し訳ないくらいです (笑)
もちろん、歴史資料やエピソードばかりが紹介されているわけではありません。
今回の川村清雄展には、彼の代表作や初公開作品を含む約100点の絵画も展示されています。
最大の恩人である勝海舟の追悼作品として描き、
終生手元に置いていたとされる 《形見の直垂(虫干)》 をはじめ、
パリ留学時に訪ねたコローの影響が見られる 《貴賤図(御所車)》
そして、この美術展のために、オルセー美術館から初里帰りを果たした 《建国》
などなど、そのラインナップの充実ぶりは、
まさに最大規模の川村清雄回顧展に名に恥じないものです。
ただ、これは、あくまで僕の個人的な感想ですが。
川村清雄の作品は、いろんな作風にチャレンジしていることもあって、
当たり外れが大きいような気がします (笑)
イイと思う作品は、いつまでも眺めていたくなるくらいに素晴らしくて、
そうでもない作品には、とことん興味が湧かないという。
全部が全部、感動する作品というわけではないのが、川村清雄美術のミソです。
ちなみに、僕が、いつまでも眺めていたくなった作品を、いくつかご紹介いたしましょう。
まずは、 《滝》
川村清雄本人曰く、
「雪舟も応挙も滝を描いているが、これは、洋画の手法ならではの滝の絵である」
とのこと。
確かに、油絵の具を力強く塗り重ねることで、滝の迫力を表現した洋画ならではの絵でした。
雪舟の滝の絵も、応挙の滝の絵も素晴らしいのですが、あちらはサイレントの世界。
一方、清雄が描いた 《滝》 には、瀑布の音が響き渡っています。
なんなら、水しぶきも感じます。
流れ落ちる滝の壮絶なパワーを、
さらに圧倒的なパワーで、無理やり絵の世界に押し込めたかのような一枚。
続いて、 《徳川家茂像》
初見は、 「なんだ徳川家茂を描いた絵か」 と、特にそれ以外の感想を持てませんでした。
しかし、背景に注目すると、
単なる肖像画とは違う独特の表現がなされているのに気づきます。
現代の作家で言うと、有本利夫のような。
古い芸術で言うと、ルネサンスの壁画のような。
ともあれ、和風ではないことは確かです。
そんな背景と徳川将軍のコラボレーション。
ある意味、シュルレアリスムな作品です。
《江戸城明渡の帰途》 は、思わず声を上げたくなる作品。
無血開城を終えて帰途に就く勝海舟の背後には、斬りかかろうとする旧幕府軍将官の姿が。
しかし、のんきな勝は、その危険には、全く気付いていません。
思わず、 「勝、うしろー!」 と叫びたくなります。
最後は、慶応義塾大学が所蔵する 《福澤諭吉肖像》
・・・・・一万円札の時よりも、ちょっと疲れていらっしゃるような。
一万円札の時を、絶好調とするならば、
この肖像画の福沢さんは、6400円くらいでしょうか。
と、いろいろな作品を紹介してきましたが。
やはり、今回のベスト1は、何と言っても、 《建国》
パリの美術館に、 “日本” を象徴する絵を納める。
そんな大事業を、川村清雄がやってのけたことに、純粋に驚きますし、
そんな大事業に挑んだ時、川村清雄は70歳後半だったということに、さらに驚かされます。
絵としても、日本代表に相応しい一枚で、
この作品がオルセー美術館に所蔵されていることは、日本人として誇らしい気持ちになります。
ただ、気になったのは、モチーフや作風は、完全に日本なのですが。
画面右上の勾玉が、トリコロールカラーだったり、
画面下に描かれている3本の紐が、イタリアの国旗の色だったり。
「あっ、ヨーロッパを、意識しちゃいましたね (笑)??」 という箇所も、チラホラ。
川村清雄のお茶目な面も垣間見える作品である。
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