飛行機で広島市上空に 『ピカッ』 という文字を描いたり。
岡本太郎の 《明日の神話》 の余白部分に、
福島第一原発を想起される絵をゲリラ的に取り付けたり。
これまでに幾度となく世の中をお騒がせしてきた、
アーティスト・コレクティブ、Chim↑Pom (チンポム)。
今年で結成17年となる彼らの初期の作品から最新作まで。
約150点を一挙に紹介する初の本格的回顧展が、森美術館で開幕しました。
その名も、“Chim↑Pom展:ハッピースプリング”。
Chim↑Pomの展覧会ですから、
当然一筋縄ではいかないだろうと覚悟していましたが。
入口に入る前から、すでにいつもの森美術館とは様子が違っていました。
実は、こちらは 《くらいんぐみゅーじあむ》 という最新作。
作品でもあり、託児所でもあり。
実際に子供を預けることができるので、
子育て世代の人も、気兼ねなく美術鑑賞を楽しめるそう。
エリイさんを含むメンバーや同年代の友人が、
子育て世代となったことから着想されたとのこと。
初期には、メンバー1人の背中に残り5人がニードルでこっくりさんをしてタトゥーを入れる作品や、
エリイさんがピンク色の液体を飲んでひたすら嘔吐し続ける映像作品を制作していたChim↑Pom。
それだけに、《くらいんぐみゅーじあむ》 を観て、
なんかいろいろと大人になったのだなぁと感慨深いものがありました (笑)
と、それでは、いよいよ展覧会の会場へ。
一歩入ると、そこはまるで地下室のような空間が広がっていました!
六本木ヒルズとは思えないアングラ感。
高層階にいるはずなのに、
地下にいる気がしてなりません。
この不思議な空間に、解体されたビルの瓦礫などで作った 「ビルバーガー」 や、
Chim↑Pomの代表作 《スーパーラット》、
その最新版となる 《スーパーラット ハッピースプリング》 などが雑多に展示されています。
そんな展示空間をしばらく進んでいくと、
何やら上に上がれそうな階段が現れました。
導かれるように上っていくと、そこには・・・・・
アスファルトで舗装された空間がありました!
これまでに参加した展覧会で何度となく、
アスファルトで舗装された道を出現させてきたChim↑Pom。
今回のは、その最大スケールを誇ります。
美術館の中にこれほど圧倒的な空間を作ってしまったとは!
Chim↑Pomもスゴいが、森美術館もスゴい。
久しぶりに森美術館の本気を観た気がしました。
正直なところ、あまりにも冒頭の2層構造の展示がインパクトが強すぎて、
その後に控えていた作品が、インパクトという点では、少し弱く感じてしまったほど。
とはいえ、それらの中で特に印象に残っているのが、《PAVILION》。
広島市に全国から送られてきた大量の折鶴をピラミッドのように積み上げた作品です。
内部にも入れるようになっており、
大量の折鶴に囲まれるという貴重な経験ができます。
この作品が制作されたのは、2013年。
旧日本銀行広島支店での個展で初めて発表されました。
例の 『ピカッ』 の一件で、大きく批判を受け、
予定されていた広島県現代美術館での個展は中止に。
しかし、その後、Chim↑Pomのメンバーは、
広島市の人々と何度も対話を重ね、広島での個展を実現させたのです。
また、展覧会には、こんな作品も。
タイトルは、《レッドカード》。
2011年10月から2ヶ月間、メンバーの一人である水野さんは、
東京電力福島第一原発の作業員として収束活動に従事したのだそう。
そして、その稼いだ賃金を、のちに予定されていた個展の資金に充てました。
この作品は、その作業中に、人目を盗んでセルフタイマーで撮影したものだそうです。
とかく炎上した件ばかり目を向けられがちなChim↑Pomですが、
広島でのその後の活動しかり、3・11が起きた後の迅速な対応しかり、
その行動力は、やはり並々ならぬものがあります。
作品によっては、好き嫌いがあるでしょうが。
作品のことは嫌いになっても、
Chim↑Pomのことは嫌いにならないであげてください。
ちなみに。
今回出展されていた作品の中で、
個人的に好きだったのは、《オレオレ》。
オレオレ詐欺が深刻な社会問題となる中で制作された作品です。
Chim↑Pomがハローページから無作為に選んだ相手に電話をかけ、
「あ、オレオレ」 といって子どもや孫を装い、口座番号を聞き出そうとします。
そして、口座番号を教えてくれた人に、
メンバー全員が1000円ずつ出し合ったそのお金を振り込むというもの。
オレオレ詐欺ならぬ、オレオレお金配贈り。
なお、60件目の電話でちゃんと成功したそうです。
口座番号を教えっちゃった人。
相手がChim↑Pomで良かったですね。