現在絶賛開催中のアーティゾン美術館の5階展示室では、
“Transformation 越境から生まれるアート” が同時開催されています。
新型コロナウィルスの流行により、
耳にする機会が多くなったフレーズ。
それは、越境。
しかし、人や情報などの越境は、
何も21世紀に始まったわけではなく、
19世紀末から始まっていたそうです。
そんな越境によるTransformation(=変化) を切り口に、
19世紀半ばから第二次大戦後までにかけてのヨーロッパ、
日本、アメリカの美術を紹介していようというのが今回の展覧会。
なお、今展では、その越境による変化のサンプル例として、4人の作家が紹介されています。
まず1人目は、幸福の画家ことルノワールです。
ルノワールら印象派の画家が活躍した19世紀のフランス。
芸術家の制作を取り巻く環境に、ある大きな変化が訪れていました。
それは、過去の美術に関する情報が、圧倒的に増加したこと。
1861年には、初めてのヨーロッパ美術全集にあたり、
全14巻からなる 『全流派画人伝』 の刊行もスタートしています。
当時の画家たちはこうした出版物により、過去はもちろん、
海外の美術の情報に触れることができるようになったのでした。
また、ルーヴル美術館のコレクションが拡充したのも、19世紀のこと。
画家たちは、美術館に足しげく通い、制作の糧としたのでした。
ルノワールもその一人。
ルーヴル美術館で模写を受ける許可を受け、
ルーベンスによる 《神々の会議》 を模写した作品が現存しています。
なお、こちらの模写作品は、ルノワールから、
その弟子の梅原龍三郎の手に渡り、のちに国立西洋美術館に寄贈されたもの。
越境を経て、現在は日本で大切にされているのですね。
さて、ルノワールに続いて紹介されていたのは、
明治期にヨーロッパへと渡った洋画家、藤島武二。
西洋美術の本場に越境したことで、
彼は何に気が付き、何を得たのかに迫っています。
また、このセクションでは藤島の作品以外に、藤田嗣治の作品と、
日本画家・小杉放庵がその名を名乗る前、小杉未醒時代の作品も紹介されていました。
ピュヴィス・ド・シャヴァンヌの影響を、
もろに受けて描いたと思われる作品とのこと。
イタリアの初期ルネサンスの壁画のようでもあり。
どこかオリエンタルな空気も漂っており。
まさに多国籍な1枚です。
なお、展覧会後半でそれぞれ紹介されているのが、
フランス美術に影響を受けたドイツ人画家パウル・クレーと、
第二次大戦直後にパリに移った中国出身の画家ザオ・ウーキー。
クレーとザオ・ウーキーの作品を中心に、
彼らと交流のあった画家たちの作品が紹介されています。
それらの中には、本展が初公開となる作品も。
前々回の展覧会で新収蔵品を出し切ったと思いきや、
まだまだアーティゾン美術館には、隠し玉が存在しているようです。
ちなみに。
展覧会の後半部で、個人的に一番印象に残っているのは、
ジャン・アルプによる 『夢ともくろみ』 という挿絵本のうちの3枚。
お腹が空いていたからでしょうか。
一瞬、「日高屋」 のお店のロゴに見えました。
無性に、バクダン炒めが食べたくなりました。