現在、渋谷区立松濤美術館で開催されているのは、
“SHIBUYAで仏教美術―奈良国立博物館コレクションより” です。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
SHIBUYAで仏教美術。
ポップでキャッチーな展覧会タイトルなので、
仏教美術ビギナーのための軽い感じの内容かと思いきや・・・。
ガチもガチ!
超本格的な仏教美術の展覧会でした。
それもそのはず。
今回展示されている作品はすべて、
日本トップクラスの仏教美術コレクションで知られる奈良国立博物館の所蔵品!
左)《釈迦五尊十羅刹女像》 鎌倉時代(14世紀)
右)《釈迦如来像》 鎌倉時代(14世紀) ともに奈良国立博物館蔵 (展示は4/9~5/8)
実は意外なことに、奈良国立博物館(以下、奈良博)のコレクションが、
このようにまとまった形で、東京で公開されるのは今回が初めてなのだそう。
東京国立博物館でも、奈良博コレクション展は開催されたことがないそうです。
それだけに。
奈良博さんは、今回の展覧会のために、
これでもかと大盤振る舞いをしてくれたとのこと。
国宝の《牛皮華鬘》を筆頭に、
国宝 《牛革華鬘》 平安時代(11世紀) 奈良国立博物館蔵 (展示は4/9~5/8)
重要文化財に指定されている《両界曼荼羅》、
重要文化財 《両界曼荼羅》 鎌倉時代(13世紀) 奈良国立博物館蔵 (展示は4/9~5/8)
さらに、安倍晴明とゆるキャラのような妖怪たちが描かれ、人気の《泣不動絵巻》など、
《泣不動絵巻上巻(部分)》 紙本着色 室町時代(15世紀) 奈良国立博物館蔵 (上巻の展示は4/9~5/8。5/10~は下巻を展示)
奈良博が誇る仏教美術の名品の数々が上京しています。
なお、それらの中には、国宝の《辟邪絵》も。
国宝 《辟邪絵》 5幅のうち3幅 平安~鎌倉時代(12世紀) 奈良国立博物館蔵 (展示は4/9~5/8)
《辟邪絵》に描かれているのは、
悪鬼を退治する神や空想上の生き物。
もともとは1つの絵巻物だったそうですが、
益田孝(益田鈍翁)によって切断され、現在は5幅の掛軸となっています。
今回の展覧会では、その5幅すべてが展示されるそう(前期で3幅、後期で2幅)。
《辟邪絵》全5幅が揃って、奈良博以外で展示されるのも、今回が初めての機会なのだとか。
若干、“空也上人展”の影にやや隠れている印象もありますが。
“SHIBUYAで仏教美術” もどうぞお見逃しなきように!
ちなみに。
奈良博といえば、仏像。
もちろん仏像も充実しています。
《地蔵菩薩立像》 鎌倉時代(13世紀) 奈良国立博物館蔵
重要文化財 《薬師如来坐像》 奈良時代(8世紀) 奈良国立博物館蔵
中でも特に注目したいのが、
こちらの《如意輪観音菩薩坐像》です。
重要文化財 《如意輪観音菩薩坐像》 平安時代(9~10世紀) 奈良国立博物館蔵
六臂の如意輪観音彫像といえば、
大阪の観心寺に国宝に指定されているものがありますが。
こちらはおそらく、それに次ぐ古さの像とされています。
自分の腕であるはずなのに、
他人の腕であるかのような不思議な印象を受けました。
まるで二人羽織をしているかのような。
あと、如意輪の持ち方(?)を観ていたら、
「マサにガスだね」のCMの田村正和を思わず連想してしまいました。
また、その他で印象的だった展示品が、こちらの掛軸です。
左) 《刺繍種子阿弥陀三尊像》 鎌倉時代(14世紀)
右) 《刺繍釈迦阿弥陀二尊像》 鎌倉時代(13~14世紀) ともに奈良国立博物館蔵 (展示は4/9~5/8)
どちらも絵画のように思えますが、
実はどちらも刺繍で作られています。
それだけでも驚きだったのですが。
種子(=仏教の諸尊を梵字一文字で表したもの。「しゅじ」 と読む)の部分にご注目。
《刺繍種子阿弥陀三尊像(部分)》 鎌倉時代(14世紀) 奈良国立博物館蔵
使われているのは黒い糸ではなく、人の髪の毛なのだそう。
この当時、女性は仏門に入る際に剃髪し、その髪の毛を取っておきました。
そして、亡くなった時や、あるいはその前に、
その髪の毛を使って、このような繍仏を作らせていたのだとか。
自分の髪の毛を使って、自分を救済する。
セルフヘアドネーションでね(←?)。
それからもう一点印象的だったのが、こちらの《三鈷杵》(画面手前)。
組法具のうち右手前が 《三鈷杵》 平安時代(12世紀) 奈良国立博物館蔵
三鈷杵とは、金剛杵の一種で鈷の数が3つのものを指します。
一見すると何の変哲もない三鈷杵ですが、
こちらはあの文豪川端康成が、かつて所有していたもの。
どこで手に入れたかは不明だそうですが、
川端康成はこの三鈷杵を、文鎮として愛用していたそうです。
しかし、ある時、目の効く客人に、
貴重な三鈷杵だと指摘され、大切に保管するようになったそうです。
そして、川端は別の金剛杵を買って、また文鎮代わりにしたのだとか。
いや、もう普通に文鎮買えばいいじゃん。