現在、千代田区立日比谷図書文化館では、
”『稀書探訪』の旅”という展覧会が開催されています。
ANAに乗った時のお楽しみ(?)機内誌『翼の王国』。
その中で特に人気を博していた連載が、
フランス文学者・鹿島茂さんの『稀書探訪』です。
19世紀のイラストレーターによる挿絵本や、
19世紀を中心とする地誌・風俗画、風刺画の入った新聞など毎回1冊ずつ、
実際に鹿島さんが蒐集したフランス古書を軽妙な語り口で紹介していました。
2007年4月号から2019年3月号まで、
実に12年間にわたって紹介した本の数は、計144冊。
それらの希少なフランス古書が、会場で一挙公開されています。
フランス語はまったくわかりませんでしたが、
当時のパリで流行していたファッションを、
地方や外国に伝えるために制作されたファッション・プレートや、
当時人気を博していたイラストレーターたちによるカリカチュア、
さらには、日本人らしき人物の写真が掲載された新聞など、
観ているだけも十分に楽しめる代物が多々ありました。
また、全ての本にではないものの、
『稀書探訪』のテキストの一部も添えられています。
一見すると、ただの古い外国の本ですが(←コラッ!)。
鹿島さんのディープな解説を読んでから、
本を観てみると、途端に魅力的に映るから不思議なものです。
例えば、こちらの『上流階級と中流階級』なるファッション・プレート。
鹿島さん曰く、ファッション・プレートの最高峰は、
彫師・刷師のジョルジュ=ジャック・ガッティーヌと、
イラストレーターのルイ=マリ・ランテのコンビによるものとのこと。
どうしてもそのコンビのファッション・プレートを手に入れたかった鹿島さんは、
1990年のとあるオークションに出品された際に、約800万円で落札に成功したのだとか。
しかし、その直後、フランス国立図書館が、
名乗りをあげたため、横取りされる格好になってしまったのだそう・・・。
その際に、横取りを免れたのが、
ガッティーヌとランテのコンビによるもう一つのファッション・プレート、
この『上流階級と中流階級』だったそうです。
個人vsフランス。
想像を絶する戦いです。
ちなみに。
1冊を手に入れるのに約800万円をかけた、
とだけ聞くと、お金持ちの道楽のような印象も受けますが。
コレクター歴40年。
支出が収入に追い付かなくなり、
自己破産寸前まで追い込まれたこともあったのだとか。
なぜ、そこまでフランスの古書を集めるのか。
鹿島さんが言うには、
「収集という名のデーモンに心身を乗っ取られていたからと答えるほかはない。」
とのこと。
鹿島さんはフランスだけでなく、
デーモンとも戦っているのですね。