つい先日まで、東京オペラシティアートギャラリーにて、
書家で美術家であった篠田桃紅の没後1年となる大規模回顧展が開催されていましたが。
この夏、菊池寛実記念 智美術館でも、
篠田桃紅の回顧展が開催されています。
その名も、“篠田桃紅 夢の浮橋”。
菊池寛実記念 智美術館といえば、
日本では珍しい現代陶芸を専門とした美術館。
それだけに、陶芸家ではない篠田桃紅の展覧会とは異色のような印象を受けますが。
実は、智美術館と篠田桃紅は非常に関わりが深く。
美術館のエントランスや地下へと続く螺旋階段の壁面に彼女の作品が設置されています。
また、美術館の創設者である菊池智と、
篠田桃紅は長年に及ぶ交流があったのだそう。
そんな縁もあり、これまでに2度、
篠田桃紅の展覧会が開催されています。
没後初となる今回の3度目の篠田桃紅展では、
「ガイジンが運営する日本で最も古いアートギャラリー(※原文ママ)」こと、
ザ・トールマン コレクションが所蔵する作品を中心に紹介するもの。
普段は陶芸作品が置かれている展示空間に、
50点を超える篠田桃紅作品が展示されています。
それらの展示品の中には、
菊池智と篠田桃紅の交流を示すアイテムも。
こちらの着物と帯は、菊池智が実際に愛用していたものとのこと。
その配色やデザインは、篠田桃紅のアドバイスによるものだそうです。
また、着物をよく見ると、ところどころに文字が書かれています。
これらの字を書いたのはもちろん篠田桃紅です。
ちなみに、書かれているのは『想』『遊』『語』の3字。
字のチョイスにもなんだかセンスを感じます。
なお、数ある出展作品の中で、特に見逃せないのが、
今回のメインビジュアルにも使われている《朝ぼらけ》という作品。
つい最近まで個人蔵だったそうで、今回初公開となる作品です。
1960年に描かれたという初期の作品で、
篠田桃紅の作品には珍しく、キャンバスに描かれています。
和紙に墨で描かれた作品は、
墨がすっと画面の奥に染み入って、
どこか内に秘めた印象を覚えますが。
こちらの《朝ぼらけ》は墨が宙に浮いているような。
不思議な印象を受けました。
続いて見逃せないのは、《夜明け》という作品。
こちらは、1967年にニューヨークの画廊、
ベテイ・パーソンズ・ギャラリーで発表された作品とのこと。
ベテイ・パーソンズ・ギャラリーは、
ポロックやデ・クーニング、マーク・ロスコといった、
抽象表現主義の画家を多数輩出した一流画廊です。
そこで個展を開くというのが、当時の芸術家にとって一つのステータスでした。
桃紅はそんなベテイ・パーソンズ・ギャラリーで個展を何度も開いています。
展覧会では、ベテイ・パーソンズと桃紅の2ショット写真も紹介されていました。
目をつむってしまったベティとは対照的に、しっかりとカメラを見据えている桃紅。
実に堂々としたものです。
個人的に印象に残っているのが、《いしぶみ》という作品。
桃紅が100歳の時に描いた作品です。
とても100歳の女性が描いたとは思えないほど、どの線にも力強さを感じました。
一つ一つの太い線は、まさに碑のよう。
彼女の長い美術家人生を積み重ねたかのような。
集大成ともいうべき作品でした。
それからもう一点印象的だったのが、《昔日の朱》という作品です。
桃紅の作品の前に立つと、
時に、筆の動きが感じられます。
左から右に。上から下に。
画面上に線が引かれる光景が、
目の前で再現されるような錯覚に陥ることもあります。
こちらの《昔日の朱》を目にした瞬間にも、
赤い線が画面の下から上からシュシュッと、
引かれるさまが、脳内で再生されました。
ネットフリックスのCMみたいな感じで。