生涯にわたって、ダンサーをリスペクトし、
バレエやミュージカルといった主題を描き続けたロバート・ハインデル。
没後15年以上経った今なお根強い人気を誇っています。
そんな彼が日本で初めて紹介されたのが、
1992年に日本橋高島屋で開催された展覧会でした。
つまり、今年2022年はハインデルが日本デビューして30年目の節目の年。
それを記念して、現在、代官山ヒルサイドフォーラムでは、
“MODERN REALISM ロバート・ハインデル展”が開催されています。
(注:館内は写真撮影禁止です。特別な許可を得て撮影しています。)
出展作品は、約60点。
それらの中には、個人コレクターが所蔵する貴重な作品も多く含まれています。
中でも特に貴重なのが、こちらの《ウォール》という1点。
あまりにも貴重なので、この1点だけ、
作品の前に結界が設置されています。
作品と鑑賞者の間に、見えないウォールがありました。
と、それはさておき。
この作品を所蔵していたのが、こちらの人物↓
芸術¥に対して、とりわけバレエや舞踏に対して、
深い関心と造詣のあった高円宮憲仁親王(1954~2002)です。
殿下以外にも、ハインデルのファンは多く、
そのうちの一人には、これまたやんごとなきこんな人物もいます。
ハインデルの魅力は何と言っても、
ダンサーの美しさが、一目で感じられる点にあるでしょう。
それは肉体の美しさであったり、動きの美しさであったり。
まるで決定的瞬間を捉えた写真であるかのように、
いや、写真以上に、美しい一瞬が画面に閉じ込められています。
ダンサーを主題にしていることから、
“現代のドガ”とよく称されているハインデル。
しかし、今回改めて、彼の作品と向き合ったところ・・・・・
ドガというよりは、フランシス・ベーコンに近いものを感じました。
『キャッツ』を題材にしたこちらの絵は、
背景の色彩が、まんまフランシス・ベーコンです。
実際、ハインデルはベーコンを終生敬愛していたのだそう。
ベーコンの訃報を知った際には、
あまりのショックで体調を崩してしまったほどだったそうです。
それを踏まえた上で彼の作品を観てみると。
ダンサーの美しさを描きたかった以上に、ベーコンと同じく、
人間の本質といったものを描きたかったのではないかと思えてきました。
というわけで、これからはハインデルのことを、
“現代のドガ”ではなく、“現代のベーコン”と呼びたいと思います。
・・・・・あ、でも、ハインデルは、
ベーコンと30コくらいしか歳が変わりませんね。
じゃあ、“アメリカのベーコン”と呼ぶことにします。
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なんか、それだと、アメリカ人が大好きな、
カリカリベーコンを連想しちゃいそうですね。
最後に、今の社会情勢だからこそ見ておくべき1点をご紹介いたしましょう。
《サダム リビジティッド》です。
1990年8月。
イラクがクウェートに侵攻しました。
そのニュースに心を痛めたハインデルは、
制作中だったこの作品の中央に暗色の帯状の線を引きました。
これは、戦地をイメージした色なのだそう。
さらに、その上下の床の色は、砂漠をイメージしたものに変えたのだとか。
中央の女性は生気がなく、男性ダンサーが必死に支えているかのよう。
そして、周囲には悲しみを全身で表現した人物が亡霊のように配置されています。
やはりこの作品からも、ただダンサーの美しさではなく、
人間の本質を描こうとしたことがひしひしと伝わってきました。
本能に訴えかけてくるものがあるハインデルの作品。
血沸き肉躍る展覧会です。