今年2022年は、日本を代表する舞台美術家、
朝倉摂(1922~2014)の生誕100年目の節目の年。
それを記念して、練馬区立美術館では、
現在、“生誕100年 朝倉摂展”が開催されています。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
彫刻家・朝倉文夫の長女として谷中に生まれた朝倉摂。
父の教育方針により、学校へは一切通わず、
自宅に招かれたさまざまな分野の教師から教えを受けたそうです。
そんな彼女が、まず最初に進んだのは、日本画の道。
17歳の時に、伊東深水に学び始めました。
展覧会の前半では、そんな朝倉摂の絵画作品が紹介されています。
実はこれらの絵画作品は、摂の生前には、
彼女の意向もあって、あまり公開されていなかったとのこと。
今回の大規模な回顧展で初めて、まとまった形で紹介されているそうです。
初期は、師である伊東深水譲りの、
モダンな女性像を描いていた摂ですが。
その後は、ピカソに大きく影響を受け、
キュビスム風にスタイルを変化させます。
その頃に描かれた作品の一つが、
今展のメインビジュアルにもなっている《群衆》。
どことなく、ピカソの《アヴィニョンの娘》を彷彿とさせる作品です。
全身が真っ青な人は、サロンパスのCMも彷彿とさせますね。
女性たちちの顔はハッキリと描かれていませんが、
よく見ると、中央にいる女性の左胸に何やら顔らしきものが。。。
もしや人面瘡!?
何気なく、彼女の胸元に目線を向けたら、
コイツに「どこ見てんのよ!」と怒られるかもしれません。
・・・・・と、それはさておき。
1950年半ば以降、摂の作風はさらに変化を遂げます。
炭坑や漁村の労働者や60年安保闘争といった、
社会的問題を取材し、ルポルタージュ絵画を描くようになりました。
この頃の作品で、特に印象に的だったのが、
ベルナール・ビュッフェ風の線描を取り入れたという《日本1958》。
林立する送電線が、異様な存在感を放っています。
そして、それ以上に存在感を放っているのが、画面中央の人物。
全身裸なのに、顔はキツネのお面で隠しています。
あきらかに異様な恰好なのに、
不思議と、悪い印象はありません。
むしろ、ヒーローや救世主であるかのような印象を受けました。
庵野秀明監督に実写化してもらいたいくらいです(←?)。
さてさて、展覧会ではもちろん、
舞台芸術家としての朝倉摂にもスポットが当てられています。
その生涯で携わった演劇の数は、なんと約1600本!!
本展ではその中でも代表的な演目のポスターや舞台模型の数々が紹介されていました。
蜷川幸雄や唐十郎、井上ひさし、野田秀樹さんといった、
日本演劇界のレジェンドやビッグネームたちが続々と登場。
演劇ファンにはたまらない展覧会となっています。
さらに、展覧会のラストでは、
摂が手掛けた挿絵の仕事の数々が紹介されていました。
実は、絵本『うりこひめとあまんじゃく』や、
『たつのこたろう』の挿絵を描いていたのは、朝倉摂。
さらに、松本清張の傑作『砂の器』、
その新聞連載の挿絵を担当していたのも、朝倉摂です。
「過去を振り返るのは大嫌い」と、
朝倉摂は、生前よく口にしていたのだとか。
そんな彼女の過去を振り返ったら、
想像したその何倍もスゴいものでした。
水曜日のダウンタウン風に紹介するならば(?)、こんな感じでしょうか。
戦後に活躍した女性芸術家に焦点を当てた展覧会が、
ここ数年、立て続けに開催され、話題となっていますが。
この展覧会もそれらと並ぶくらいに見ごたえがありました。
最後に。
個人的にどうしても気になってしまった挿絵をご紹介。
1970年に世界文化社から出版された『アルプスの少女ハイジ』の挿絵です。
アニメ版のハイジと違って、
明るい性格ではなさそうです。
きっと、インドア派。