現在、森美術館で開催されているのは、
“地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング”という展覧会です。
今展のキーマンとなるのは、
オノ・ヨーコさんのアートブック『グレープフルーツ』。
その中には、オノさんによる指示文、
インストラクションが多々掲載されています。
本展のタイトルになっている・・・・・
「地球がまわる音を聴く」もそのうちの一つです。
さてさて、パンデミック以降、
僕らの生活は一変してしまいました。
その中で改めて、心身ともに健康である状態、
「ウェルビーイング」について考えた人も多いことでしょう。
今展は、国内外のアーティストたちの作品を通じて、
「ウェルビーイング=よく生きる」
参加作家は、オノ・ヨーコさんを含む16名。
その中には、2015年の高松宮殿下記念世界文化賞を受賞した、
ドイツ出身で国際的に活躍する彫刻家、ヴォルフガング・ライプも。
ライプは「生命とは何か?」を問い続けているアーティスト。
手前に見えているのは、彼の代表作の一つです。
床面に映える黄色は、顔料ではなく、一面に敷き詰められた花粉。
しかも、自らの手で採集した花粉です。
その名も、《ヘーゼルナッツの花粉》。
毎春、花粉症に苦しむ自分としては、
花粉は憎き存在でしかないのですが。
スギ花粉でないのも手伝って、
純粋に美しいと感じることができました。
ちなみに、会場には他にも、
ライプの代表作が展示されています。
一見すると、ただの白い大理石ですが。
実はその表面にうっすらと牛乳が注がれており、
表面張力でもって、かすかに盛り上がっています。
その名も、《ミルクストーン》。
花粉のも牛乳にも、かなりデリケートな作品です。
吹き飛ばしたり、吹きこぼしたりしないよう、
近づいて鑑賞する際には、息を殺す必要があります。
逆ウェルビーイングな作品です。
他にも印象的な作家は多々いますが、
すべてを紹介しているとキリが無いので、
泣く泣く絞って、紹介したいと思います。
まずは、「なおす」をテーマに制作している青野文昭さんから。
本展で出展されているのは、巨大なインスタレーション作品、
《僕の町にあったシンデンー八木山越路山神社の復元から2000~2019》です。
こちらは、青野さんが生まれ育った街に、
かつて存在していた神社をまるごと再生させたもの。
タンスや棚で作られた空間のあちこちに、
怪しげなオブジェクトが多々置かれていました。
神社というよりも、お化け屋敷のよう。
他の作品を鑑賞している時よりも、
この空間は妙に涼しげに感じられました。
体感、-2℃。
そういう意味では、この夏にピッタリの作品かもしれません。
続いて紹介したいのは、金沢寿美さんのインスタレーション作品。
黒いカーテンのようなものに、
何やら銀河や星々のようなものがきらめいています。
一見すると、ただの夜空(?)のように思えますが、さにあらず。
実は、その正体は、約300枚の新聞紙。
その中で気になった部分だけを残し、
あとはひたすら10Bの鉛筆で塗りつぶしたものです。
その名も、《新聞紙の上のドローイング》。
この地道な作業を日々続けるなんて・・・。
考えるだけで、ゾッとします。
それと比べたら、なんて自分は楽に生きているんだ!
逆説的に、ウェルビーイングになれる作品でした。
逆説的ウェルビーイングといえば、
「あたりまえのこと」をテーマに制作を続けた堀尾貞治も。
彼は1985年から2018年に亡くなるその前日まで、
さまざまな物体に、絵具を1日1色毎日塗り重ねていたそう。
壁に展示されていたのは、そのほんの一部です。
なお、その一角には、アトリエを再現したスペースも。
その中でひときわ異彩を放つ不思議な物体がありました。
彼は、毎日色塗りをする際に、
パレットの上にも一塗りしたそうで。
こちらは、まさにその“積み重ね”です。
長い年月が経つと、道具に生命が宿って、
付喪神になるという言い伝えがありますが。
この物体も、もはや何かしらの生命体のようでした。
ちなみに。
堀尾貞治の向かいに展示されていたのは、
ミニマルかつ細密な堀尾昭子さんの作品群です。
同じ「堀尾」という苗字なので、ピンと来た方もいらっしゃるでしょう。
2人は、ご夫婦。
壁を隔て、一つ屋根の下で、
ともに作品を制作をしていたそうです。
その作風や制作スタイルは真逆も真逆ですが、
長年連れ添ったお二人の作品ゆえ、不思議と調和していました。
夫婦仲良く過ごす。
それが一番のウェルビーイングであることを教えられました。
・・・・・・・絶賛独身中ですが。
最後に紹介したいのは、
速攻でウェルビーイングになれるかもしれない作品。
モンティエン・ブンマーの《自然の呼吸:アロカヤサラ》です。
こちらは、内部に入れる体験型作品です。
見上げると、そこには人間の肺の形をした彫刻が吊るされていました。
ただ、そんなことよりも、気になるのは内部に立ち込めた強烈な香り。
健康ランドの薬湯みたいな香りが立ち込めています。
これらは、特別にブレンドされたハーブの香りとのこと。
この空間の内部で呼吸をすることで、
鑑賞者は瞑想することができるのだそうです。
もちろん合法なハーブなので、ご安心を。