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Channel: アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】
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歌枕 あなたの知らない心の風景

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季節はすっかり夏ですね。

夏と言えば、個人的に思い出すのが、テレビの心霊特集です。

宜保愛子に、織田無道に、心霊写真に。

子どもの頃は、夜一人でトイレに行けなくなるのを覚悟で恐る恐る観ていました。

特によく見ていたのが、お昼にやっていた『あなたの知らない世界』。

いつも観ている『笑っていいとも!』そっちのけで観ていましたっけ。

 

 

と、余談はそれくらいにしまして。

この夏、サントリー美術館で開催されているのは、

“歌枕 あなたの知らない心の風景”という展覧会。

サブタイトルに若干、心霊特集感はありますが、

心霊とは一切関係なしの、怖さとは無縁の展覧会です。

 

(注:館内の写真撮影は、特別に許可を頂いております。)

 

 

今展のテーマは、ずばり『歌枕』。

 

確か、古語の授業で習ったはずだけど、

それが何だったのかは思い出せないという方が大半でしょう。

僕もそうでした。

 

歌枕とは、和歌によって特定のイメージが結びつけられた土地のこと。

古来、日本人は、感動や感情を和歌に込めて表現していました。

その中で歌人たちに多く詠まれたのが、日本の美しい風景。

もともとは実際に目にしたものを詠んでいたのでしょうが、

それらの風景が何度も詠まれるにつれ、次第に歌人の間で広く共有されるように。

ついには、実際にその土地に行ったことがなくても、

特定のイメージが思い浮かべられるようになったそうです。

こうして誕生したのが、歌枕。

いうなれば、「日本人の心の風景」です。

例えば、百人一首のうちの一首。

 

『これやこの 行くも帰るも 別れつつ 知るも知らぬも 逢坂の関』

 

このに登場する「逢坂の関」が歌枕です。

 

また例えば、『万葉集』に納められた和歌。

 

『田子の浦ゆ 打ち出でて見れば 真白にぞ 富士の高嶺に 雪は降りける』

 

この中に登場する「田子の浦」が歌枕です。

 

 

会場では、そんな歌枕が登場する古筆切も展示されていますが。

 

 

 

展覧会のメインとなるのは、

歌枕が描かれた絵画や工芸品です。

 

 

 

日本美術のモチーフとして、

よく描かれる吉野や龍田川。

 

 

 

桜の名所、紅葉の名所として、

それぞれお馴染みの吉野と龍田川ですが、

そのイメージを広く一般的にしたのが、歌枕です。

 

また、絵画として描かれる宇治の光景は、

川にかかる橋に、柳と水車の組み合わせがデフォルト。

 

 

 

これもまた歌枕によって広まった宇治のイメージです。

他にも、武蔵野や富士といった、

日本美術に欠くことができない光景も、

歌枕が定着させたイメージといえましょう。

もし、歌枕がなかったら、これらの土地が、

モチーフになることはなかったのかもしれません。

和歌と日本美術の意外な関係や、

和歌にメディアとしての側面があったことを学ぶと当時に、

古来の日本人の想像力の豊かさを実感させられました。

日本人にとって、実に興味深い展覧会でした。

星星

 

 

ちなみに。

和歌をテーマにした展覧会とだけ聞くと、

なんとなく、地味な印象を受けるかもしれませんが。

 

 

 

会場はいつも以上に華やか。

紅白歌合戦やFNS歌謡祭くらいに、

華やかなセットが組まれていました。

 

 

なお、出展作品の中で個人的に印象的だったのが、

尾形乾山による重要文化財《白泥染付金彩薄文蓋物》

 

 

 

一見すると、ジャクソン・ポロックの抽象画のようですが。

こちらは、武蔵野をモチーフにしたものとのこと。

縦横無尽に引かれている線は、

武蔵野をイメージするススキを表しているそうです。

歌枕の武蔵野を、まるでロックアレンジしたような。

デスメタルver.のような武蔵野でした。

 

 

最後に、余談も余談ですが、

歌枕について考えていて、ふと思ったのですが。

「茅ヶ崎」は、砂まじりで、

「襟裳」は、春は何もなく、

「長崎」と聞くと、今日も雨なのだろうと思ってしまう。

これもまた現代の歌枕なのかもしれません。





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