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Channel: アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】
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茶の湯の陶磁器 ~“景色”を愛でる~

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現在、日本橋の三井記念美術館では、

リニューアルオープン記念の第2弾として、

“茶の湯の陶磁器 ~“景色”を愛でる~”が開催されています。

 

(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)

 

 

こちらは、リニューアルオープン記念一発目の展覧会同様に、

三井記念美術館の柱ともいうべき陶磁器のコレクションを紹介するもの。

第1弾では、絵が描かれている陶磁器がテーマでしたが、

今回の第2弾では、陶磁器の『銘』にスポットが当てられています。

 

陶磁器の形状や文様にちなんだ銘もあれば、

その所有者にちなんで名づけられた銘もあります。

中でも、銘を決めるうえで、とりわけ重要な要素が“景色”です。

古来より、茶人たちは器の外側や内側に“景色”を見出してきました。

 

例えば、 斗々屋茶碗 銘かすみ》

 

《斗々屋茶碗 銘かすみ》 1口 朝鮮時代・16世紀 室町三井家旧蔵

 

 

決して、かすみをモチーフにして、

制作された茶碗ではないのですが。

確かに、全体的に枇杷色な茶碗の一部に、

薄青色に変化した釉薬が、ふわっと浮かび上がるさまは、

まるで霞がたなびく朝のような光景を連想させます。

 

 

また例えば、《玄悦茶碗 銘まきたつやま》

 

 

 

一般的な茶碗に比べると、立ち上がる角度が急で、

ヘラ削りが高台にとどまらず、茶碗の真ん中くらいまで続いています。

この器形と景色から、スギやヒノキなどが生い茂る山、

『まきたつやま(真木立山)』という銘が付けられたそうです。

「え、どこに山が??」と思われた方もいらっしゃることでしょうが、

それはもう、茶人としては、「そこに山があるから」としか答えようがないのでしょう。

 

 

ともあれ、今展では、さまざまな“景色”を持つ、

茶道具の名品の数々が惜しげもなく一挙公開されています。

 

 

 

それらの中には、国宝の《志野茶碗 銘卯花墻》や、

 

国宝《志野茶碗 銘卯花墻》 1口 桃山時代・16~17世紀 室町三井家旧蔵 (注:展示は7/9~8/7)

 

樂家初代長次郎による重要文化財《黒楽茶碗 銘俊寛》

 

重要文化財《黒楽茶碗 銘俊寛》 長次郎作 1口 桃山時代・16世紀 室町三井家旧蔵 (注:展示は7/9~8/7)

 

 

さらに、足利義政が愛蔵した大名物《唐物肩衝茶入 銘遅桜》も。

 

《唐物肩衝茶入 銘遅桜》 大名物 1口 南宋時代・12~13世紀 室町三井家旧蔵 (注:展示は8/9~9/19)

 

 

なお、この「遅桜」という銘は、

天下の名物として知られていた肩衝「初花」に対して

義政が名付けた銘とされています。

もし、「初花」よりも早く世に知られていたならば、

この茶入が天下第一の名物となっていただろうとして、

藤原盛房の「夏山の青葉交りの遅桜 初花よりもめつらしき哉」という、

和歌から引用して、この銘を付けたのだそうです。

ちなみに、このように和歌がイメージされる銘は、「歌銘」と呼ばれるのだとか。

 

実は、国宝の《志野茶碗 銘 卯花墻》も、

「やまさとのうのはな かきのなかつみちゆき ふみわけし ここちこそすれ」の和歌が由来。

こちらもまた、歌銘だったのですね。

 

 

展覧会では、さまざまな銘が紹介されていましたが、

個人的に一番印象に残っているのは、《備前徳利花入 銘雨後月》

 

 

 

背面の景色にインスピレーションを得て、

「雨後月」という銘が付けられたのではないかとのこと。

そう言われてみれば、そう見えるような気も。

 

また、こんな銘もありました。

 

 

 

自然釉の景色の力強さの中に、

機構自然とした気品が感じられるとのことから、

《伊賀耳付花入 銘業平》と名付けられています。

在原業平といえば、『伊勢物語』に登場する平安時代の超イケメン。

いや、この花入は・・・・・イケメンなのか?

全然シュッとしていません。

むしろ、その真逆でモッチャリしています。

もしかしたら、銘は言ったもの勝ちなのかもしれません。

 

・・・・・・・と思ったら、こんな銘も。

 

 

 

《信楽不識形大水指 銘山猫》です。

表千家七代の如心斎によって、

「山猫」と命名されたことはわかっているそうですが、

キャプションによると、“由来はよくわからない”とのこと。

例えがしっくりきておらず、

今ひとつピンとこない銘というのも、

たまには、あるものなのですね(笑)

 

「山猫」とは逆に、ストレートな銘もありました。

 

 

 

古田織部所持との伝来がある茶碗《大井戸茶碗 銘須弥》です。

その別銘は、「十文字」。

好みの大きさではなかったとか、

おそらくそんな理由で、一度4分割し、

好みのサイズにしたものを再度継いでいます。

上から見ると、金継ぎの形状が十文字に。

これ以上でもこれ以下でもない銘です。

ちなみに、個人的には、色合い的に、

スペインの画家ミロのシュルレアリスム絵画を想起しました。

新たな別銘として、「銘ミロ」を提案したいところです(←?)。

 

 

実際に、景色が描かれているわけではないものの、

しばらく見つめていたら、それらの景色が浮かび上がってきた・・・ような気がします。

夜空に月が輝く夜景もあれば、

雪景色や雨あがりの景色もあり。

イマジネーショントリップを楽しむ展覧会でした。

星星

 

 

ちなみに。

陶磁器に景色が見える気がしないという方もご安心を。

 

 

 

円山応挙や川端玉章による、

景色を描いた絵画も併せて展示されています。

どなたでも、安心して景色を楽しめる展覧会です。

 

 

 

 

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