現在、千葉県が誇る『写実の殿堂』ホキ美術館では、
“いろいろ 色の魔法一色から見える写実展”という展覧会が開催されています。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
ホキ美術館ではこれまで、
作家やジャンルを切り口にした展覧会が、数多く開催されてきましたが。
今展は、開館以来初となる「色」に着目した展覧会です。
展覧会の冒頭に飾られていたのは、
スコットランド在住の原雅幸さんによる新作。
《Endwick Watarの滝》です。
描かれているのは、エジンバラから西へ、
車で約1時間くらいの距離にある山岳地帯の滝とのこと。
滝の激しい水の動きは、風景画としてバランスが強すぎるため、
あえて、滝に影を落とすことで、その存在感を調整しているのだそうです。
と、ついつい作品ばかりに目が行ってしまいますが。
作品脇のキャプションにもご注目くださいませ。
何やら、一般的な展覧会では見かけないものが添えられていますね。
こちらは、いわゆる色見本(カラーガイド)。
絵の中に用いられている特徴的な色を、
色見本(カラーガイド)を使って紹介しています。
ちなみに。
ホキ美術館とDIC川村記念美術館推しの、
千葉県生まれのアートテラーの自分としては、
DICの色見本が使われていて、なんか胸アツでした。
特にコラボというわけではないのですが、なんとなくコラボのようで。
と、それはともかく。
色に注目した展覧会というのは、
ホキ美術館以外では、そこまで珍しくない気もします。
しかし、ホキ美術館の写実絵画コレクションを、
色という切り口で観てみるというのは、実に新鮮でした。
頭ではもちろん、絵だということはわかっているのですが、
やはり実物を目にしてしまうと、
どうしても写真やモニターの映像のように感じられてしまいます。
しかし、その横に色見本があることで、
これが絵の具で描かれた絵であることを、
改めて、実感することができました。
また、作品と向き合っている時は、
まったく違和感を覚えない色遣いでも、
紹介された色見本を観て、「えっ?」と思われされることも。
特にそれを感じたのが、森本草介さんの《牡丹》という作品です。
色見本を見るに、どう考えても、
実際の牡丹の色とかけ離れている気がします。
しかし、実際の作品は、ご覧の通り↓
どこからどう見ても、牡丹です。
写実画家の皆さまは、モチーフの形に関しては、
基本的には、そっくりそのまま描いているのでしょうが。
色に関しては、そのまま忠実に描いているというわけではないのですね。
人間の目で観た時に、より自然に感じられる色遣いというのがあるのでしょう。
この展覧会を通じて、写実絵画の奥深さをまた一つ知ることができました。
なお、本展では、原雅幸さんの新作以外にも、
五味文彦さんらの新作も初披露されていました。
こちらは、小尾修さんの新作《咆哮》。
2019年に、千葉県に台風が直撃し、
甚大な被害がもたらされたのは、記憶に新しいところです。
その嵐が過ぎ去った数日後、小尾さんは、
根こそぎ倒された大きなクルミの木々を目にしたのだそう。
その姿は、まるで天に向かって咆哮する龍のようだったとか。
自然の脅威を覚えると同時に、自然の美しさも感じる作品でした。
また、「白で全身コーディネートしがち」、
そんなあるあるでお馴染み(?)の藤田貴也さんの新作も。
タイトルは、《Namine》。
モデルの雰囲気が、なんとなく、
あのテニス選手に似ていたので、
一瞬、《Naomi》と空目してしまいました。
女性の髪や手の表現もさることながら、
服の素材の質感の描き分けが素晴らしかったです。
特に目を見張ったのが、白デニム。
適度に履きこなされている感じが、見事に再現されていました。
どうでもいいですが、
それにしても、ポケットが若干大きめですよね。
ちなみに。
展覧会はギャラリー1、2を使って開催されていますが、
それ以外のギャラリーでも、もちろんホキ美術館のコレクションが展示されています。
それらの中に、大矢英雄さんのフレスコ画《夏至を待つ日》も。
個人的には、ホキ美術館のコレクションの中で、
この作品が一番カラフルだと思っているのですが、
残念ながら(?)、“いろいろ”展には選ばれなかったようです。
人選いろいろ。