現在、水戸芸術館現代美術ギャラリーで開催されているのは、
“立花文穂展 印象 IT'S ONLY A PAPER MOON”という展覧会。
美術やグラフィックデザイン、編集といった多様な領域を横断するように、
作品を制作しているアーティスト、立花文穂さんの美術館では初となる個展です。
製本業を営む家に生まれたという立花さん。
その影響もあり、身近に存在した紙や、
印刷物、文字、本をテーマに制作を続けています。
なお、会場の冒頭に飾られていたのは、
独特の活字で組まれた『いらっしゃいませ』でした。
活字というと、明朝体とゴシック体が思い浮かびますが、
実は、戦前までは、もっとたくさんのフォントがあったのだそう。
それらの中には、個性的なフォントもだいぶあったそうですが、
戦時中の金属供出により、明朝体とゴシック体以外は一掃されてしまったのだとか。
その危機を乗り越え、なんとか残った活字も、
今やデジタル印刷が主流ゆえ、街の中からどんどん消えています。
そんな活字や印刷を素材に、作品を制作している立花さん。
そういう意味では、立花さんは、
活字や印刷を素材にする最後の世代のアーティストなのかもしれません。
そして、またそんな立花さんの作品を鑑賞する僕らは、
活字や印刷にまだ馴染みがある最後の世代の鑑賞者なのかもしれません。
100年後、200年後の鑑賞者は、
立花さんの作品を観たところで、
「活字??印刷??」と、首を傾げているかも。
活字離れや印刷業の減少のニュースは、
ネット記事などで幾度となく目にしていましたが、
この展覧会を通じて、より強く実感させられた気がします。
ちなみに。
近年、立花さんは活字だけでなく、
筆を持ち、書のような作品も制作しているとのこと。
会場では、それらの近作も紹介されています。
と、それらの中に、
ひと際インパクトのある「た」の文字がありました。
こちらは、近作ではなく、初期作。
それも超初期作。
なんと幼稚園時代に書いたものなのだそうです。
力強いにもほどがあります。
正直なところ、あらゆる展示品の中で、
一番印象にのこっているのは、この「た」の字かもしれません(笑)
全体的には、紙の作品が多くを占めていましたが、
会場の一角には、こんなインスタレーション作品もありました。
ピアノやギターとともに設置されていたのは、
立花さんご本人が所有している活版印刷機。
会期中、不定期にこの活版印刷機を「楽機」として、
運転中の音をサンプリングマシーンのように演奏(操作)し、
ギターやピアノの演奏者とライブを行うのだとか。
どんなセッションになるのか、興味津々です。
ちなみに。
なぜか、会場の入り口近くに
吉本興業の大崎会長から届いた花がありました。
なんでも、立花さんは2007年より、
自ら責任編集とデザインを担当する媒体、
その名も、『球体』を発行しているのだそう。
この『球体』は、あまりにも印刷に対してこだわりが強いため、
2刊を発行したところで、最初の出版社がドロップアウトしてしまったのだとか。
そこで手を差し伸べたのが、ヨシモトブックス。
3号から5号までは、ヨシモトブックスから出版されたそうです。
なるほど。それで、大崎会長と関りがあったのですね。
なお、そんな『球体』3号の表紙は、
世界のナベアツさんが飾っていました。
3だけに。
それでは、本日のブログはこの辺りで。