都内屈指の隠れ家系美術館・菊池寛実記念 智美術館で、
現在開催されているのは、“畠山耕治 青銅を鋳る”という展覧会。
現代陶芸専門の美術館としては、開館以来初となる金属作家の個展です。
実は、智美術館と畠山さんの関係は深いそうで。
何を隠そう、館外に設置されたこの看板の・・・・・
金属の枠を制作したのが、畠山さんなのだとか。
また、展示室内にある金属製のこの壁も、畠山さんが作ったものなのだそうです。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
かれこれ10年近く、智美術館に通っていますが、
そもそも、これらが金属作家による作品だとは思ってもみませんでした。
さて、不勉強ながら、この個展を通じて初めて、
畠山耕治さんの名前と、その作品を知りました。
日本以上に海外での知名度が高いアーティストとのことで、
その作品は、V&A博物館やフィラデルフィア美術館をはじめ、
そうそうたる美術館のパブリックコレクションに加えられているそうです。
そんな畠山さんの作品が、こちら↓
一見すると、ただの金属の箱です。
いや、二見しても三見しても、
ただの金属の箱のようにしか思えません。
正直なところ、これなら頑張れば、
誰にでも作れるような気がしてなりません。
だって、金属の板を6枚作って、それらを溶接すればいいのですから。
しかし、実は、この箱の作品、
そう単純に作られたわけではありません!
畠山さんは、日本では数少ない鋳金作家。
つまり、この箱は鋳金で制作されているのです。
鋳金とは、溶解した金属を型に流し込んで成形する技法のこと。
こちらの作品は箱の形をしているので、
当然、外側だけでなく、内側にも型が必要となります。
その外側と内側の隙間に熱々の金属を流し入れ、
冷えてから型を外すことで、作品は完成となるわけですが。
当たり前ですが、型は透明でないため、
内部の様子は開けてみるまでわかりません。
完璧な状態で金属を流し込むのには、熟練の技術がいります。
同じ厚みの金属の板を組み合わせただけ、
ただの箱のように見えているのは、相当に至難の業なのです。
実は超絶技巧なのに、超絶技巧さを感じさせない。
それこそが、畠山作品の凄みです。
なお、畠山さんの手にかかれば、
このような形状も鋳金で制作可能なのだそう。
飛び出している部分はもちろん、
そのパーツだけ、後から溶接したわけではありません。
こういう型を内側と外側それぞれ作って、
そこに金属を流し入れて完成させているのです。
という、理屈はわかるのですが、
つまりのところ、どうすれば、それが実現するのか、
常人の頭では、まったくもって理解できません!
ちなみに。
こちらの作品も、どうやって型を作ったのか、
考えれば考えるほど、頭がバグること請け合いです。
器の外側のビラビラ(?)は、
当然のごとく、後から付け足したものではありません。
それをどのように鋳造で実現させたのも謎ですが。
それ以上に謎なのが、口の部分です。
縁に円形の輪っか状のものが付いています。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
どうやったら、この形を鋳造で作ることができるのか。
東大王の超難問よりも難易度が高いです。
なお、ここまででも十分なほど、
畠山さんの作品のスゴさが伝わったとは思いますが。
実は、ここまで紹介した作品は、
1990年代の畠山さんの初期の作品群です。
2000年代に突入してからの畠山さんは、
形状だけでなく、表面の表情にもよりこだわるように。
さまざまな薬品や熱などで、
金属に化学変化を起こすことで、
芸術的な着色の表現も追及するようになったのです。
展覧会の後半では、金属の表面とは思えない、
顔料で着色したような色鮮やかな金属工芸たちに出会えます。
これらすべてが金属の色だなんて!
まるで魔法にかけられているような。
不思議な感覚に陥る展覧会でした。
世の中には、まだまだ知られざる作家、
知られざるアート作品、工芸品があるのですね。
こういう出会いがあるから、美術館巡りはやめられません。