現在、東京都写真美術館で開催されているのは、
“深瀬昌久 1961–1991 レトロスペクティブ”という展覧会。
1960-70年代の日本写真界を牽引した写真家、
深瀬昌久(1934~2012)の国内初となる大回顧展です。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
深瀬昌久という名前を聞いて、
“深瀬昌久・・・??生瀬勝久なら知ってるけど”
そう思った方も、いらっしゃることでしょう。
かくいう自分も、この展覧会を通じて初めて彼の名を知りました。
しかし何を隠そう、深瀬昌久は、1960-70年代において、
東松照明や荒木経惟さん、森山大道さんとともに写真界の中心にいた人物。
1974年には、ニューヨーク近代美術館のグループ展と、
東京国立近代美術館での“15人の写真家展”に参加しています。
それほど重要な写真家であるだけに、東京都写真美術館は開館時より、
深瀬を新規重点作家の一人に位置づけて、作品を熱心に収集してきました。
つまり、今展はまさに、満を持しての深瀬昌久展というわけです。
ちなみに。
現在、ヨーロッパやアメリカの写真研究者を中心に、
1960-70年代の日本写真に注目が集まっているそうで。
その中でも特に関心を集めているのが、深瀬昌久なのだとか。
この展覧会を通じて、深瀬昌久が日本でもブレイクする可能性は大。
写真ファンならずとも抑えておきたい展覧会です!
今展の目玉は何と言っても、深瀬が妻を被写体にした
「洋子」シリーズのうちの《無題(窓から)》15点一挙初出品でしょう。
こちらは、1年間毎日、画廊に出勤する妻・洋子を、
4階の自宅窓から望遠レンズで撮影し続けたものです。
勤め先に向かう何気ない姿を撮ったものばかりと思いきや、
普通の洋子に混じって、オラつく洋子や金八先生風(?)の洋子も。
ポートレートというよりは、パフォーマンスの記録写真のよう。
完全に洋子のオンステージ、洋子劇場(?)といった印象でした。
実際、洋子は深瀬にとってのミューズだったようで、
多くの深瀬作品に登場し、彼女にしかできない姿をたびたび披露しています。
例えば、深瀬の実家が営む写真館の古い写真機で、
両親や弟妹ら一家を撮影した「家族」シリーズのうちのこちらの2点。
一見すると、何の変哲もない家族写真のようですが、
よく見ると、画面左に立っている洋子だけ、なぜか上半身裸です。
それが他の家族は、よっぽど気まずかったのでしょうか。
左側の写真では、洋子以外が後ろを向いていました。
上半身裸の洋子と言えば、
深瀬の初の写真集『遊戯』の中にも。
右に映っているのが、洋子。
左に映っているのは、その母です。
ということは、深瀬にとって義理の母。
どういうお願いの仕方をすれば、こんな写真が撮れるのか。
義理の母が、文字通り、一肌脱いでくれたとして、
義理の父はこの時、一体どういう心境だったのだろうか。
いろいろ気になってしまう一枚でした。
なお、洋子と離婚した後の深瀬は、
のちの代表作となるカラスを被写体としたシリーズや、
自身の身体の一部をあえてフレームインさせて風景を撮影した、
まさに、セルフィーの先駆けともいうような「私景」シリーズなどを発表しています。
ところが、1992年に銀座ニコンサロンで「私景」シリーズを発表したその数か月後に、
深瀬は行きつけのバーの階段から泥酔し転落、重度の後遺症を負ってしまいました。
以降、2012年に亡くなるまで、二度とカメラのシャッターを切ることはなかったそうです。
もし、その事故が無かったら、
荒木経惟さんや森山大道さんと並んで、
きっと精力的に活動を続けていたことでしょう。
ちなみに。
今回紹介されていた深瀬の数々のシリーズの中で、
個人的に一番惹かれたのは、愛猫を撮影した「サスケ」シリーズです。
どの写真も、インスタに投稿されそうな、
いかにもな猫写真という感じではありませんでした。
さすがは、深瀬昌久。
猫を撮っても、自分の個性が出まくっていました。
とはいえ、洋子に代わって、サスケも、
モデルとして最高のパフォーマンスをたびたび披露。
とりわけ印象的だったのが、こちらの一枚(写真手前)です。
網戸にしがみつくサスケ。
一瞬、猫ではなく、ヤモリかと思いました。
名が体を表したのでしょうか、身体能力が高すぎにもほどがあります。
猫版の『SASUKE』があったなら、サスケが完全制覇を達成したことでしょう。
┃会期:2023年3月3日(金)~6月4日(日)
┃会場:東京都写真美術館 2階展示室
┃https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-4274.html