現在、国立西洋美術館で開催されているのは、
“憧憬の地 ブルターニュ ―モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷”という展覧会。
(注展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
英仏海峡と大西洋に突き出た半島で、
フランス北西部に位置するブルターニュ地方。
かつてはブルターニュ公国という独立国だったそうで、
独自の文化を持つことから、フランス国内の「異郷」とも呼ばれる地域です。
交通網が発達したことも手伝い、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、
各国の芸術家たちがブルターニュ地方を訪れ、多くの作品を制作しました。
そんな芸術家たちにインスピレーションを与えた土地、
ブルターニュに着目した初となる展覧会が、今回の展覧会です。
まだ連作というスタイルを確立する前に、
10週間ほどブルターニュの地に滞在していたモネや、
クロード・モネ《ポール=ドモワの洞窟》 1886年 油彩/カンヴァス 茨城県近代美術館
ブルターニュ地方南西部の小村ポン=タヴェンに滞在したゴーガン、
ポール・ゴーガン《海辺に立つブルターニュの少女たち》 1889年 油彩/カンヴァス 国立西洋美術館 松方コレクション
ブルターニュ地方に別荘を建て、毎年夏をそこで過ごしたドニなど、
モーリス・ドニ《花飾りの船》 1921年 油彩/カンヴァス 愛知県美術館
ブルターニュ地方に関わり深い芸術家の作品約160点が、
国内の美術館や個人コレクション約30か所から国立西洋美術館に大集結。
さらに、オルセー美術館からも特別に数点出展されています。
それらの来日作品は、国内所蔵の作品よりもちょっとだけ展示壁が豪華です。
もちろん、国立西洋美術館の所蔵品も多く出展されていました。
それらの中には、シャルル・コッテやリュシアン・シモンといった、
ブルターニュを拠点とした画家の一派「バンド・ノワール」の画家たちの作品も。
バンド・ノワール。
直訳すると、黒の一団。
なんだか、ビジュアル系バンドっぽいネーミングセンスです。
バンド・ノワールとは、クールベのレアリスムや、
オランダ絵画などの影響を受けて、黒っぽい画面の絵を描いた画家グループ。
今回紹介されていた彼らの作品の中で、
ひときわ目を惹くのが、コッテによる大作《悲嘆、海の犠牲者》です。
幅約3.5mの大きな画面に描かれているのは、
嵐で命を奪われた漁師の死を悼む人々たちの姿。
クールベの《オルナンの埋葬》を彷彿とさせるものがあります。
これまで、国立西洋美術館には何十回と通っていますが、
バンド・ノワールの画家の作品を常設展で観た記憶はないような。
おそらく、久しぶりに公開されているものと思われます。
ブルターニュの地で生まれた美術作品が意外と多かった、という事実に加えて、
バンド・ノワールの作品を西美が所蔵していたことを知れたのも、今展の収穫です。
これを機に、バンド・ノワールに注目が集まるかもしれませんね。
今展ではさらに、国立西洋美術館の展覧会としては珍しく、
渡仏した際にブルターニュにも滞在していた黒田清輝をはじめ、
黒田清輝《ブレハの少女》 1891年 油彩/カンヴァス 石橋財団アーティゾン美術館
日本人作家たちの作品も一章を割いて多く紹介されていました。
その中で個人的に印象に残っているのは、
ブルターニュを「眞に此の単調な寂寞な土地」と、
旅行記の中で軽くディスった小杉未醒(放菴)による《牛》という一枚。
牛の上半身が妙に伸びているような。
頭と体が直角に曲がっていて不自然なような。
観れば観るほど、不安になってくる作品です。
牛の後ろで体育座りをして落ち込んでいる(?)男性も気になるところ。
牛の尋常でない姿を目の当たりにして、現実逃避しているのかもしれません。
他にも、ブルターニュに少なくとも5回は訪れているルドンの《風景》や、
ポン=タヴェンでゴーガンと芸術論を交わしたというベルナールの水彩画など、
パッと見は地味ながらも、妙に心を惹かれる。
あとから、じわじわ感動が押し寄せてくるタイプの作品が多々ありました。
最後に、個人的に一番印象に残った作品をご紹介いたしましょう。
ゴーガンやベルナールと交流のあった画家、
アンリ・モレによる《ロケルタの風景》という一枚です。
描かれているのは、ブルターニュ地方にあるロケルタ要塞。
海兵隊の砲撃演習の様子が描かれているそうです。
しかし、どう見ても、真面目に演習しているのは奥の人たちだけ。
画面手前の人々からは、やる気が感じられません。
寝そべってるヤツもいるし。
いつの時代にも、どの国にも、サボる輩はいるものなのですね。
┃会期:2023年3月18日(土)~ 6月11日(日)
┃会場:国立西洋美術館
┃https://bretagne2023.jp/