2021年11月に丸紅の本社ビルに開館した丸紅ギャラリー。
現在、その開館記念展第4弾として、
“染織図案とあかね會―その思いを今につむぐ―”が開催されています。
(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
「いや、まだ開館記念展やってんのかい!」
と、ツッコみたいところですが。
丸紅コレクションの3本柱となるのが、絵画・染織品・染織図案。
これまでの開館記念展では、そのうちの絵画と染織品を紹介してきました。
そう、3本柱の最後の一つ、染織図案にスポットを当てるのが今回の展覧会。
つまり、これが最後の開館記念展というわけです。
丸紅が所蔵する染織図案コレクションは、実に約600点!
なぜ、それほどの染織図案を有しているのでしょうか?
話は、丸紅株式会社がまだ丸紅商店だった1920年代に遡ります。
本格的な東京進出を計画していた伊藤忠三(当時副社長)は、
自信のあった呉服商品のサンプル約1000枚を持って上京しました。
それを、三越百貨店の仕入部部長に見せたところ、
「良いと思ったものは3枚、すぐ売れそうなのは1枚しかない」と断言されてしまいます。
東京の人に受け入れられる染織図案ではなかった。
そう、ショックを受けた伊藤は、
「染織図案のブラッシュアップが必要だ!」という結論に辿り着きます。
そして、京都支店を中心に染織図案研究会を発足させました。
その研究会の名前が、展覧会名にもある“あかね會”です。
あかね會に参加したのは、当時最前線で活躍していた芸術家たち。
丸紅商店は毎年、染織品や着物のための、
オリジナルの染織図案を参加者たちに考案してもらいました。
そして、その図案をもとに、職人たちが着物や帯などの染織品を制作。
毎年開催される「染織逸品会」で新作として披露するスタイルを確立しました。
今展では、そんなあかね會によって生まれた染織図案が、
前後期それぞれ24点ずつ、併せて48点が紹介されています。
あかね會に参加した芸術家の中には、
竹内栖鳳や西村五雲、土田麦僊といった日本画だけでなく。
洋画家の藤島武二や、
漆芸家の六角紫水といった、
多ジャンルの作家が含まれています。
珍しいところでは、こんな人物もあかね會に参加。
さて、突然ですがここでクエスチョン!
この装飾図案の作者は誰でしょう?
正解は、東郷青児。
言われてみれば、色味は東郷青児を彷彿とさせるものがあります。
代表作の一つ《超現実派の散歩》っぽい色味ですよね。
意外なところでは、こんな芸術家もあかね會に参加していました。
彫塑家の朝倉文夫です。
あかね會との関りは深く、全部で19点もの図案を考案していたのだとか。
朝倉文夫は一貫して、自然主義的写実を標榜し、
彫塑作品を制作し続けた人物として知られていますが。
彼の考案する図案は、それとは真逆の抽象的なものばかり。
この展覧会を通じて、朝倉文夫の意外な一面が見れました。
なお、朝倉の考案した染織図案の中で、
個人的にささったのは、こちらの《積木模様》。
かわいいとは思いますが、この柄の着物は、
東京どころか関西でも売れないような気がします。
着物というよりも、旅館の浴衣の柄のような。
また、参加した芸術家の中には図案家も。
やはり、そこは彼らのフィールドだからでしょう。
日本画や洋画家、彫塑家の染織図案も興味深かったですが、
完成度に関して言えば、図案家の染織図案が頭1つ2つ抜けていました。
今の目で見ても、斬新ですし。
ところで、展覧会のサブタイトルは、“その思いを今につむぐ”。
今回の展覧会では、これらの染織図案をもとに、
現代の着物作家や、今なお続く老舗の呉服屋が制作した着物も展示されています。
例えば、朝倉文夫の《瀬戸の波》という図案は、
創業115年を迎えた西陣まいづるによって織物に仕立てられました。
また、京都の日本画家・猪飼嘯谷の《防人の図》という染織図案は・・・・・
京友禅作家の弐代 上野為二さんによって、このように仕立てられていました。
一般的には、作家が制作した装飾図案には、
線の1本も引いてはいけない、手を加えてはいけないというルールがありますが、
あかね會の場合、職人にまかせている作家が多かったそうで、
着物全体にちりばめたり、ワンポイントで使ったり、職人のセンスも問われていたようです。
上野さんの場合も、猪飼嘯谷の装飾図案を、
ただ忠実に再現するのではなく、全体的に散らしていますし、
オリジナルにはない白馬も何頭も登場しています。
さらに、防人の顔立ちも、猪飼嘯谷のものとは違う感じに・・・。
ぴんから兄弟みたいな顔立ちになっていました。
オリジナルにもほどがあります。
この自由さが、あかね會なのですね。