この夏、世田谷美術館で開催されているのは、
“マルク・シャガール 版にしるした光の詩”という展覧会です。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
「色彩の魔術師」にして「愛の画家」、マルク・シャガール。
実は意外と知られていませんが、
彼は絵画だけでなく、版画の制作にも熱心に取り組んでいました。
その生涯で残した版画作品は、なんと約2000点(!)。
その膨大な版画作品の中から選りすぐった、
6つの版画集、約140点を紹介する展覧会です。
それらの中には、非売品20部のうちの1つという超貴重な『ダフニスとクロエ』や、
これまであまり公開される機会のなかったという『馬の日記』も!
貴重なシャガールの版画作品をまとめて観れる絶好の機会です。
“なんだ油彩画は無いのかァ・・・・・”
と、食指が動かなかった方もいらっしゃるでしょうが、
これを機に、シャガールの版画沼にハマってみてはいかがでしょうか?
なお、紹介されているシャガールの版画作品は、
すべて神奈川県立近代美術館の所蔵品とのこと。
あれ?そういえば、確か・・・
先日まで世田谷美術館で開催されていた展覧会、
神奈川県立近代美術館が所蔵する作品がまとめて出展されていたはず。
世田谷美術館と神奈川県立近代美術館の間には、ただならぬ関係があるようです(←?)。
と、それはさておき。
今回紹介されていた版画集の中で、
特に印象に残っているのが、『ラ・フォンテーヌ寓話集』。
17世紀のフランスの詩人ラ・フォンテーヌが、
30年にわたって書き綴った『寓話集』の中から、
シャガールが100篇の詩を選び、その挿絵を手掛けたものです。
どの寓話も興味深かったですが、
個人的に気になったのが、『樵とメルキュール』というお話。
こちらはおそらく『金の斧』のもとになったお話です。
ただ、『金の斧』と比べて、ラストがハードでした。
ひとりの樵が斧をなくしてしまった。
探しても見つからず、樵は泣いた。
「ああ、私のかわいい斧よ。ジュピターさま、私にあれを返してください。」
樵の嘆きはオリンポスまで届き、メルキュールがやってきた。
「斧はなくなったのではない。お前は自分の斧をよく覚えているか?」
そう言って、メルキュールは金の斧を見せる。
樵は答えた。「こういうものはいりません。」
次に出されたのは銀の斧。樵は受け取らない。
最後に木の斧。「ああ、これが私のです。」
メルキュールは「三つともお前にやろう。正直者への褒美だ。」
話はすぐに広まって、樵たちは皆、斧をなくして泣き叫んだ。
メルキュールは再びやってきて、樵たちひとりひとりに金の斧を見せる。
樵たちは「これです!」と答える。
メルキュールは金の斧をやるかわりに、彼らの頭を力いっぱい殴ってやった。
ただ殴るだけじゃなく、力いっぱい殴る。
体罰じゃん!
それから、もう一つ印象に残っているのが、『狐とこうのとり』というお話。
その内容はこうです。
狐がこうのとりを昼食に招待した。
狐はスープをこしらえ、お皿に盛って出した。
くちばしの長いこうのとりは全くスープを飲むことができず、全部狐が食べてしまった。
しばらくして、こうのとりはかたきをとろうと、狐を食事に招待した。
美味しそうな肉の匂い。
けれども料理は、口の狭い瓶に入れて出された。
こうのとりはくちばしを差し込んで料理を食べたが、
狐は一口も食べられず、空きっ腹を抱えて退散した。
人をだます連中は、自分も同じ目にあうものだ。
・・・・・・・・・・・・・・・。
いや、食べさせる気がないなら、
お互い、昼食に招待しなきゃいいだけの話じゃん!