この夏、サントリー美術館では、
“虫めづる日本の人々”という展覧会が開催されています。
（注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を頂いております。）
こちらは、サントリー美術館では初となる、
虫をモチーフにした日本美術に焦点を当てる展覧会です。
一口に、虫モチーフといっても、
そのバリエーションは多種多様です。
虫がデザインされた工芸品もあれば、
鈴虫蒔絵銚子 一口 江戸時代 17世紀 サントリー美術館 【全期間展示】
虫をモチーフにした江戸絵画や、
百蝶図 松本交山 江戸時代19世紀 神田の家 井政 【展示期間：7//22~8/21】
擬人化された虫が登場する絵巻などもあります。
きりぎりす絵巻（部分） 住吉如慶 二巻のうち 江戸時代 17世紀 細見美術館
【全期間展示】（ただし場面替えあり）
虫をモチーフにした美術が日本に多いことに、
これまで特に何の違和感を覚えたこともありませんでしたが。
改めて考えてみたら、西洋美術ではそこまで虫のモチーフは見かけないような。
実は、虫の声を「声」として認識できるのは、
世界でも日本人とポリネシア人だけなのだとか。
どちらかといえば、自分は虫が苦手なので、
虫を“めづる”感覚は持ち合わせていないと思っていましたが、
日本人という時点で、海外の人よりは虫と親密な関係だったのですね。
なるほど。日本人が虫をモチーフにした美術品を多く制作してきたのも納得です。
さて、展覧会では幅広いジャンルの美術品が紹介されていますが、
その中でもとりわけ今回スポットが当てられていたのが、草虫図でした。
（右から）草虫図 謝百里 元時代 14世紀 一幅 個人蔵
草虫図 呂敬甫 明時代 15世紀 一幅 東京国立博物館
草花図 伝 紅白川 朝鮮時代 16世紀 一幅 個人蔵 いずれも【展示期間：7/22～8/21】
草虫図とは、中国で成立したおめでたい画題で、
画面の中に、草花と虫がひしめき合うように描かれたものです。
日本へと伝来した草虫図の多くは、
時の将軍や大名といった権力者たちに珍重されました。
どの草虫図も貴重ですが、中でも見逃せないのが、
8月21日まで期間限定で出展される重要文化財の伝 趙昌《竹虫図》。
重要文化財 竹虫図 伝 趙昌 一幅 南宋時代 13世紀 東京国立博物館
Image: TNM Image Archives 【展示期間：7/22～８/21】
足利6代将軍・義教が所蔵していたとされる、
日本国内に現存する草虫図の中でも屈指の名品です。
なお、この作品は古くから「趙昌の曲り竹」として知られているそう。
画面中央辺りの噓みたいにしなった竹の描写にもご注目ください。
展覧会的に、つい虫にばかり目が向いてしまいますが、
《竹虫図》に関しては、竹もめでて頂けましたら幸いです。
さて、そんな中国で生まれた草虫図が、
江戸時代に入ると、博物図譜が制作されたこともあって、
日本で独自の進化を遂げるようになります。
草虫図という枠組みを越えた虫の絵が制作されるようになるのです。
（右）四季草花虫図 市川其融 江戸時代 19世紀 個人蔵 【展示期間：7/22～8/21】
（中央）垣豆群虫図 伊藤若冲 江戸時代 寛政2年（1790）頃 個人蔵 【展示期間：7/22～8/21】
中でも今展の目玉といえるのが、伊藤若冲による《菜蟲譜》。
上下とも野重要文化財 菜蟲譜（部分） 伊藤若冲 一巻 寛政2年（1790）頃 佐野市立吉澤記念美術館
【展示期間：8/9～9/18】（場面替えあり）
若冲晩年の代表作で、11メートルもの巻物に、
100種類を超える野菜や果物と、50種類もの虫や蛙が描かれています。
《動植綵絵》にもたくさんの虫やカエルが登場する絵がありますが、
それと比べると、《菜蟲譜》の虫やカエルは写実的というよりも、ゆるキャラ的。
特に巻末に登場するカエルは、ムックのような顔立ちをしています。
また、今展の隠し玉というべきが、
美人画の名手・喜多川歌麿による『画本虫撰』です。
画本虫撰（部分） 喜多川歌麿 二冊のうち下 天明8年（1788） 千葉市美術館
【全期間展示】（ただし場面替えあり）
実は、虫好きだったという歌麿。
そんな歌麿が描いた虫だけに、
心なしか虫のくせに（？）艶っぽい印象を受けました。
なお、画面内に虫や植物とともに掲載されているのは、狂歌。
その流麗なグラフィックとは裏腹に、
きわどい内容の狂歌が多々収録されているそうです。
そう言えば、今回の展覧会、
夏休みの子ども向けの内容かと思いきや、
秘めたる恋だとか、二股をかける男性だとか、
わりと、大人の恋愛事情がちょくちょく登場していたような。
まぁ、浮気も虫の仕業ですからね。
┃会期：2023年7月22日(土)～9月18日(月・祝)
┃会場：サントリー美術館
┃https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2023_3/
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