8月20日まで、東京都美術館の企画展示室では、
日本では20年ぶりとなるマティスの大規模な回顧展が絶賛開催中ですが。
ギャラリーA・B・Cでは、ニューヨークを拠点に活動する芸術家、
荒木珠奈さん(1970~)の初となる大規模な回顧展が開催されています。
その名も、“うえののそこから「はじまり、はじまり」 荒木珠奈展”。
なお、こちらの展覧会の会期は、10月9日までとなっています。
さて、展覧会の冒頭で紹介されていたのは、
荒木さんがメキシコ留学時代に、その技法に出逢って以来、
制作活動の柱の一つにしているという版画作品の数々です。
どの作品も、初めて目にするのに、
どこかで目にしたことがあるような・・・と言っても、
誰か他の人の作品のパクリというわけではありません!
遠い昔に目にしたことがあるような。記憶の扉が開くような。
そんな懐かしい感覚になる作品ばかりでした。
版画作品の中で、特に印象に残っているのは、
《Una marcha de los esqueletos (ガイコツの行進)》。
なんとなく、『ひらけ!ポンキッキ』とか、
昔の教育テレビとかを思い出してしまいました。
さて、版画作品だけでなく、立体作品も多く制作している荒木さん。
そちらもまた、もれなく懐かしい気持ちになれました。
さらに、荒木さんの真骨頂ともいえるのが、体験型のインスタレーション作品です。
今展では、新作も含めて数点のインスタレーション作品が発表されています。
例えば、こちらは《Caos poetico(詩的な混沌)》という作品。
薄暗い空間の中に、箱型の何やら、
それも身近なものでできた箱型の何やらが、無数に浮かんでいます。
こちらは、電柱から勝手に電線を引いて、
家や屋台の灯りに使用するというメキシコあるある(?)から、
インスピレーションを受けて作られた作品なのだとか。
なるほど、1つ1つの箱は、家や屋台を表していたのですね。
まるで、メキシコの夜景を観ているようで、
眺めているだけでも十分に楽しいのですが。
こちらの作品では、実際に鑑賞者がこの箱型のものを、
余っているコンセントに差し込むことができるようになっています。
せっかくなので、箱を1つ、コンセントに差してみました。
中の電気が灯って、単純に嬉しいと同時に、
電気窃盗したようで、ちょっぴり背徳感も味わえました(笑)
また例えば、こちらは《うち》という作品。
こちらは、荒木さんが幼い頃に住んでいたという、
団地に着想を得て制作したインスタレーション作品とのこと。
団地で生まれ、団地で20数年育った自分としては、非常に親近感を覚える作品でした。
さて、壁には約100個の箱が設置されています。
そして、それぞれには番号が振られています。
箱の中には、開いているものもあれば、閉まっているものも。
箱が開いているものは、中に人の気配が感じられ、
まるでその暮らしぶりを覗き見しているような、不思議な感覚になりました。
では、閉まっている箱の中身はどうなっているのでしょう?
ふと、会場を見渡すと、たくさんの鍵が目に飛び込んできました。
そう、実は、こちらの作品では、ここから鍵を一つ取って、
その鍵の番号と同じものが記載された箱を開けることができます。
スタッフさんが僕が手渡してくれたのは、403(号室)の鍵。
403と書かれた箱を見つけたので、開けてみることに。
箱の中には、親子のような人影がありました。
人様の団地の部屋を勝手に開けたようで、
これまた、ちょっぴり背徳感の味わえる作品でした(笑)。
ちなみに。
今展の最大のハイライトともいうべきが、
吹き抜けの展示空間を大胆に使ったインスタレーション作品《記憶のそこ》。
こちらは、“上野の記憶”に着想を得た作品だそうで、
空間の一部には、上野のアーカイブフォトがプロジェクションされています。
なお、大きな玉ねぎみたいなオブジェの中には入ることが可能です。
中に入って、上を見上げると・・・・・
無数の鏡が乱反射して、キラキラ光っていました。
美術館の地下に光る玉ねぎ。