目白台にある隠れ家系ミュージアム、永青文庫。
旧熊本藩主である細川家伝来の美術品や、
歴史資料を収蔵し、一般公開している美術館です。
そんな永青文庫で、現在開催されているのが、
“細川護立の愛した画家たち―ポール・セザンヌ 梅原龍三郎 安井曾太郎―”という展覧会。
細川家第16代当主で永青文庫の設立者でもある、
細川護立が蒐集した近代絵画コレクションを紹介する展覧会です。
(注:記事に使用している画像は、永青文庫より提供いただいたものです。)
それらの中には、護立と深い交流のあった、
安井曾太郎や梅原龍三郎といった洋画家の巨匠の作品や、
安井曾太郎《承徳の喇嘛廟》 昭和12年(1937)、永青文庫蔵
これまであまり公開する機会がなかったという藤島武二の作品など、
藤島武二《婦人像》 永青文庫蔵
貴重な絵画作品が数多く含まれています。
それらを観るだけでも、十分に足を運ぶ価値はありますが。
今展のハイライトともいうべきは何と言っても、
やはり10数年ぶりの展示となるセザンヌの《登り道》でしょう。
こちらは、護立が大正15年にパリで購入したもので、
セザンヌが28歳の時に描いたとされる貴重な初期作です。
ポール・セザンヌ《登り道》 1867年、永青文庫蔵
残念ながら(?)、この《登り道》という作品が、
日本人が初めて購入したセザンヌの絵画、というわけではないようですが。
セザンヌの水彩画というのも珍しければ、
印象派に出会う前のセザンヌの初期作自体も珍しいです。
この作品に対して、護立はこんな言葉を残しています。
「驚くべき年若き時代の作なるに似ず
真に大セザンヌとして驚異に値する傑作中の傑作と思われる。」
ちなみに。
護立は、この《登り道》よりも前に、
セザンヌの作品を1点購入しているそうです。
護立の友人だった武者小路実篤が、
白樺美術館の設立を構想していた時のこと、
ゴッホやセザンヌを買いたいと思っていたところ、
ちょうどセザンヌの絵画が2万円(当時)で売りに出たのだそう。
(大正時代の1円は、現代の4000円に相当するようなので、単純計算すると8000万円!)
白樺美術館での財力ではとても買えないので、
武者小路実篤は、護立にセザンヌの購入を勧めたそうです。
その購入した作品というのが、《帽子をかぶった自画像》。
現在は、アーティゾン美術館の所蔵となっているあの作品です。
実は、護立は《帽子をかぶった自画像》以外にも、
所有していた西洋画の多くを、後年に手放しているのだとか。
つまり、手元に残した《登り道》は、
それほどまでに大切にしていた作品なのです。
さて、気になる《登り道》の購入金額ですが、
細川家の記録によると、「金弐萬壱千七百参拾九円拾参銭」とのこと。
《帽子をかぶった自画像》とほぼ同額!
なお、《登り道》を観た武者小路実篤は、
護立への手紙でこんな感想を述べています。
「セザンヌの一生の仕事が、あの内にふくまれてゐる、
いゝものを手に入れたもと思ふ。」
目利きだった護立や、武者小路実篤が、
そこまで絶賛するほどの逸品が日本にあったとは!
西洋美術ファンであれば、この機会を是非お見逃しなく!!
┃会期:2023年7月29日(土)~ 9月24日(日)
┃会場:永青文庫
┃https://www.eiseibunko.com/