この秋、国立新美術館で開催されているのは、
“イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル”という展覧会。
“モードの帝王”と称された世界的デザイナー、
イヴ・サンローランの日本では没後初となる大回顧展です。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を頂いております。)
出展数は、110点のルックに、
アクセサリー、ドローイングなどを加えた262点。
日本初公開のものを多く含むそれらを通じて、
イヴ・サンローランの約40年に及ぶクリエイティブの軌跡を辿る展覧会です。
若き頃より才能を発揮していたイヴ・サンローランは、
わずか19歳にして、クリスチャン・ディオールのアシスタントに抜擢されます。
その数年後、クリスチャン・ディオールが急逝すると、
21歳の若さでディオールのチーフデザイナーを務めることに。
そうして発表されたのが、台形のシルエットが特徴的な「トラぺーズ・ライン」。
「品行方正」シャツ・ドレス イヴ・サンローランによるクリスチャン・ディオールの1958年春
夏「トラペーズ・ライン」オートクチュールコレクション
イヴ・サンローランの出世作とされるコレクションです。
ディオールの後継者として成功を収めた後、
1961年に自身のブランドである「イヴ・サンローラン」を立ち上げます。
その翌年に満を持して発表したのが、こちらのピーコート。
ボーティング・アンサンブル ファースト・ピーコート 1962年春夏オートクチュールコレクション
© Yves Saint Laurent © Alexandre Guirkinger
男性の船乗りの作業着に着想を得たピーコートは、
当時のファッション界に大きな衝撃を与え、注目と賞賛を浴びることに。
それ以後も、イヴ・サンローランは、
タキシードやトレンチコートといった紳士服を、
エレガントにアレンジした女性服を次々と発表していきました。
ちなみに。
こちらは、イヴ・サンローランの代表的なスタイルのサファリ・ルック。
ファースト・サファリ・ジャケット 1968年春夏オートクチュールコレクション
© Yves Saint Laurent © Sophie Carre
紳士服の要素も残しつつも、
ちゃんと女性らしさが全面的に表されています。
しかも、当たり前ですが、
決してコスプレの衣装っぽくはありません。
さすがのセンスです。
イヴ・サンローランは生涯にわたって、
オートクチュールは女性ものしか作らなかったそう。
そのため、展示品はすべて女性モノです。
なので、男が観たところで、そんなに楽しめないかも・・・と危惧していたのですが。
紳士服から着想を得たものが少なくなく、そこは杞憂に終わりました。
また、芸術にも深い造形があったというイヴ・サンローラン。
抽象画家のモンドリアンをオマージュした、
いわゆる「モンドリアン・ルック」は有名ですが。
ショートカクテルドレス – ピート・モンドリアンへのオマージュ 1965年秋冬オートクチュールコレクション
© Yves Saint Laurent © Alexandre Guirkinger
他にも、ピカソやマティス、ボナールといった、
美術界の巨匠たちをオマージュしたファッションを数多く発表していたようです。
その中でも特に印象的だったのが、
ゴッホの《アイリス》をモチーフにした1着。
《アイリス》イヴニング・アンサンブルのジャケット―フィンセント・ファン・ゴッホへのオマージュ
1988年春夏オートクチュールコレクション
こちらは全面に手作業で、びっしりと刺繍が施されています。
まさにゴッホの厚塗りのよう。
なお、この刺繡を完成させるのに、
熟練の職人をもってしてでも約600時間かかったのだとか。
これはもはやただの服ではなく、美術工芸作品の域。
作品が目に飛び込んできた際に、一瞬でも、
大阪のおばちゃんが過ってしまったことを反省したいと思います。
ルックがどれも華やかなので、
当然、会場は華やかな印象なのですが。
プロジェクションマッピングを取り入れることなく、
また、必要以上にゴージャスな舞台を作ることなく。
あくまでファッションを引き立たせるべく、
必要最小限の会場作りをしていたことに好感を持ちました。
ハイブランドのお披露目イベントでは決してなく、
イヴ・サンローランという一芸術家を紹介する美術展。
この秋、見逃せない美術展の一つです。
ちなみに。
印象的なルックは多々ありましたが。
結局、個人的にもっとも印象に残ったのは、
イヴ・サンローランによるウエディング・ガウンです。
「バブーシュカ」ウエディング・ガウン 1965年秋冬オートクチュールコレクション
なんでも、こちらはマトリョーシカから、
インスパイアされたアイテムなのだとか。
もはやちょっとしたゆるキャラのようです。
ただ、それ以上に衝撃だったウエディング・ガウンがこちら↓
ウエディング・ガウン 1999年春夏オートクチュールコレクション
もし、花嫁が一旦退席後、お色直しして、
この姿で出てきたら、お茶と鼻血を噴き出すこと必至。
というか、衣装が気になりすぎて、
この後の披露宴のプログラムが何も入って来なさそうです。
両親の手紙を読まれたところで、感動できるかどうか・・・。
あと、新婦がこの格好だとすると、新郎はどんな格好なのだろう??
いろんな意味でモーソウが膨らむウエディング・ガウンでした。
┃会期:2023年9月20日(水)~12月11日(月)
┃会場:国立新美術館
┃https://ysl2023.jp/