現在、すみだ北斎美術館では、
“北斎のまく笑いの種”という展覧会が開催中。
葛飾北斎とその門人たちが描いた多様な「笑い」を紹介する展覧会です。
（注:館内の写真撮影は、特別に許可を頂いております。）
展覧会は全3章で構成されています。
1章は、「笑顔いろいろ」。
こちらでは、笑顔を生み出す職業（＝芸人）や、
笑顔を浮かべた人や神様が描かれた作品が紹介されています。
上から葛飾北斎《万歳図》、葛飾北斎『北斎漫画』十二編 笑門に福来る ともにすみだ北斎美術館蔵
2章は、「多種多様な笑い」。
こちらでは、単なる笑顔にとどまらず、
怪しい笑みや嘲笑、照れ笑いといった、
さまざまなタイプの笑い顔が紹介されています。
上から葛飾北斎《百物語 笑ひはんにゃ》、葛飾北斎『錦摺女三十六歌仙』 ともにすみだ北斎美術館蔵
そんな2章で紹介されていた中に、『北斎漫画』のこんなページも。
葛飾北斎『北斎漫画』十二編 麁相
タケノコを掘った勢いで転ぶ人や、
とろろをすっている最中にぶちまけてしまった人、
隠れて食べているつもりが、シルエットでモロバレの人など、
さまざまなオモシロ失敗シーンが描かれています。
思わず、『ドリフ大爆笑』のオープニングを連想してしまいました。
コントの名場面のダイジェストみたいな感じで。
さてさて、展覧会の1章と2章は、
笑いは笑いでも、笑顔にスポットが当てられていましたが。
3章の「北斎と門人が描く戯画の世界」では、
いよいよ、北斎が生み出す笑いにスポットが当てられています。
実は、北斎はその生涯で、滑稽な戯画シリーズをいくつも描いていました。
例えば、「風流おどけ百句」というシリーズ。
画中に記された狂句を鳥羽絵形式でビジュアル化したシリーズです。
葛飾北斎《風流おどけ百句 井戸替に下女くれ／＼゛も銀ながし》 すみだ北斎美術館蔵
鳥羽絵とは、手足は異様に細長く、
目は黒丸などで滑稽に描かれた絵のこと。
鳥羽絵で描かれていたら、それは戯画。
一目でギャグとわかる描き方なのです。
今展では、すみだ北斎美術館が所蔵する、
「風流おどけ百句」全作品が一挙公開されています（前後期展示替えあり）。
初公開のものも多く、どれも印象深かったですが、
とりわけ印象に残っているのは、こちらの一枚です。
葛飾北斎《風流おどけ百句 いやな下女浅間びたひにつくるなり》 すみだ北斎美術館蔵
画中に書かれている狂句は、
「いやな下女浅間びたひにつくるなり」とのこと。
直訳すると、“評判の悪い下女は浅間額に化粧をする”という意味だとか。
初めて知ったのですが、浅間額とは、
美人の象徴「富士額」の反対語なのだそうです。
強烈なブスいじり。
もし、今の時代にこんな絵を描いたら、
ルッキズム的に一発でアウトな気がします(笑)。
それから個人的にイチオシしたいのが、こちらの一枚。
葛飾北斎《炎天にすべるを見れば瓜の皮》 すみだ北斎美術館蔵
書かれた狂句は、「炎天にすべるを見れば瓜の皮」。
つまり、瓜の皮を踏んで盛大に転んだ人が描かれています。
バナナの皮で滑って転ぶ。
この定番のギャグを最初に行ったのは、一般的に、
1915年に公開されたチャップリンの映画とされてきました。
しかし、北斎のこの戯画が刊行されたのは、1811年。
なんとチャップリンよりも100年以上も前に北斎は、
果物の皮で滑って転んで笑いを取るというギャグを発明していたのですね！
この事実はもっと知られるべきなのでは？！
世界のHOKUSAIに、また新たな偉業が加わりました。
ちなみに。
展覧会では、「風流おどけ百句」以外にも、
北斎の他の戯画シリーズも紹介されています。
そのうちの一つが、「謎かけ戯画集」シリーズ。
その名の通り、謎かけをビジュアル化したシリーズです。
例えば、こんな謎かけがありました。
葛飾北斎《謎かけ戯画集 下手な碁とかけて能娘ととく心ハ誰も一もくおしたがる 》 すみだ北斎美術館蔵
下手な碁とかけて、能娘（＝美人）と解く。
その心は、誰もが一目置きたがるでしょう。
まぁ・・・うん・・・。
謎かけに関していえば、
北斎の実力はそこそこのようです。
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