今年2023年にめでたく開館40周年を迎えた東京都庭園美術館。
それを記念して、現在開催されているのが、
“装飾の庭 朝香宮邸のアール・デコと庭園芸術”という展覧会。
アール・デコ時代の「庭園芸術」にスポットを当てた日本初の展覧会です。
かつてヨーロッパにおける庭園は、英国式のものが主流でした。
しかし、イギリスの永遠のライバル・フランスは、
20世紀に入ると、フランス式の新しい庭園造りを目指すように。
そして、1925年にパリで開催されたアール・デコ博覧会では、
国際博覧会史上初めて、庭園を装飾芸術の一つとして取り上げるまでになりました。
そんなアール・デコ時代の庭園芸術にまつわる作品や、
写真・資料の数々が、新館スペースを使って紹介されています。
紹介されていた庭園の数々は、
現代の眼で観ても、十分にモダンで新鮮でした。
と同時に、アヴァンギャルドゆえに、
自分の家の庭に採用したいとは思わないものばかりでした(笑)。
庭は落ち着くものであってほしい。
日本人にはそんなDNAが組み込まれているのかもしれません。
ちなみに。
新館で展示されていた作品の中で、
一番印象に残っているのが、こちらの一枚。
アール・デコを代表する画家ジャン・デュパによる《パリスの審判》です。
今からちょうど100年前の1923年に描かれたものとのことですが。
そう言われなければ、CGで作られたコラージュ作品かと思いました。
それもあえてチープに作ったクソコラのような。
ここ近年の日清のCMのテイストを彷彿とさせるものがあります。
さてさて、「庭園芸術」にフォーカスした新館ももちろん見ごたえがありますが。
東京都“庭園”美術館とはいうものの、やはりメインとなるのは、
日本屈指のアール・デコ建築である朝香宮邸(現・東京都庭園美術館本館)です。
本展では、朝香宮ご夫妻が住んでいた当時になるべく近づけるべく、
可能な限り、カーテンを開き、外からの光を取り入れるようにしています。
そんな朝香宮邸内でも、実はいくつも庭園芸術が観られるそうで。
その1つが、3階に位置し、普段は非公開のウインターガーデンです。
ウインターガーデンとはもともと、
冬の寒さが厳しい北欧や北米において、
冬季の植物を生育する場として発展した室内庭園とのこと。
ということで、庭園をテーマにした本展で、
久しぶりにウインターガーデンが公開されています。
しかも、イミテーショングリーンを用いた特別な演出付きで。
そして、本展でもう一つ注目したいのが、
フランス人装飾芸術家アンリ・ラパンによって描かれた装飾画です。
こちらは、小客室に描かれた装飾画。
描かれているのは森林の風景です。
その風景のいたるところに滝や湖といった水が描かれています。
それも、銀彩で。
観る角度によって、キラキラ光るようになっていたのですね。
これまで何度も美術館を訪れているのに、
今回指摘されて初めてこのことに気が付きました。
さらに、大客室の装飾画にも注目してみると、
水飲み場や噴水など、こちらにも水が登場しています。
大客室から続く大食堂の装飾画にも、やはり水が描かれていました。
それも、水のある庭園風景が描かれています。
朝香宮邸が竣工したのは、1933年。
その頃には、この建物が美術館として使われる日が来ようとは、
ましてや、東京都庭園美術館という名称になろうとは、誰も思っていなかったはず。
しかし、アンリ・ラパンだけは、それを見越して、
邸宅内に庭園風景を描き込んでいたのかもしれませんね。
そんな壮大な伏線を回収したような展覧会でした。