現在、ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクションでは、
“浜口陽三展 3つの小説で出会うメゾチント”が開催されています。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を頂いております。)
こちらは、国際的に有名な銅版画家・浜口陽三の作品とともに、
メゾチント作品を題材にした小説を紹介する展覧会とのことです。
・・・・・・・・・って、そんなニッチな小説があるの?!
銅版画というだけでもニッチなのに、
エッチングでもなく、ドライポイントでもなく、
メゾチントの作品が登場する小説だなんて、ニッチにもほどがあります。
まず紹介されていたのは、北村薫さんの『ターン』です。
この小説の主人公は、売れないメゾチント作家とのことで、
作中で、メゾチントの制作過程が詳細に描かれているようです。
とはいえ、芸術家のリアルな生き様を描いた小説というよりは、
ひょんなことから、同じ1日を何度も繰り返すことになるタイムリープものとのこと。
そもそもメゾチントの制作自体が、
コツコツと地道な作業を繰り返す必要があるわけで。
普段からタイムリープのような毎日を過ごしているような。
そういう意味では、一般の人よりは、タイムリープに耐性があるのかもしれません。
続いて紹介されていたのは、
「英国が生んだ最高の怪談作家」の異名を持つ、
モンタギュー・ローズ・ジェイムズの短編小説『銅版画』です。
その内容を要約すると、以下のような感じです↓
ある日、大学美術館で働く主人公が、
馴染みの古美術商より、1枚のメゾチントを薦められました。
とりあえず注文してみたところ、届いた実物を見て、ガッカリ。
というのも、どこにでもありそうな屋敷が描かれただけの平凡なメゾチントだったのです。
その日の夕方、訪ねてきた友人と改めて、
メゾチントを見てみると、何より人影のようなものがあることに気が付きます。
さらに、その夜半過ぎに、再びメゾチントを見ると、
人影は、屋敷のそばの芝生の上に出現していたのです。
それも、四つん這いで屋敷ににじり寄っているかのような姿で。
貞子じゃん!
呪いのビデオならぬ、呪いのメゾチントじゃん!
もしかしたら、この短編小説が『リング』の元ネタになったのかもしれません。
そして、最後に紹介されていたのが、
歌人でもある塚本邦雄の『七星天道虫』。
塚本邦雄と浜口陽三は交流があったそうで、
展覧会では、浜口のメゾチント作品をモチーフに、
塚本が詠んだ短歌の数々も紹介されていました。
本展で紹介されていた3つの小説の中に、
浜口陽三の名前は直接登場はしないのですが。
メゾチントが登場する小説の一節を読んだ後に、
浜口陽三の作品を観ると、不思議と共鳴するものがありました。
浜口陽三の作品世界が、より深く感じられたといいましょうか。
浜口陽三のメゾチントと、文学作品との相性の良さに気づかされる展覧会でした。
ただし、相性が良すぎるあまりの弊害(?)も。
それは、こちらの《くるみ》という作品を観ていたときのこと。
これまでは、この作品を観るたびに、
クルミが浮かぶ黒の画面に、スーッと引き寄せられていましたが。
『ターン』や『銅版画』を読んだ後に観たら、
この黒の画面の奥に、人の気配のようなものを感じてしまいました。
で、もし、その人にこちらの存在を気づかれてしまったら、
メゾチントの画面の中に引きずり込まれて、閉じ込められてしまうのでは?
そして、同じ一日を何度も繰り返すことになるのでは?!
そんなモーソウが頭をよぎり、鳥肌が立ってしまいました。。。
(実際は展示室内にいた他のお客さんの影がアクリルケースに映り込んだだけ)