日本全体がバブルに沸いていた1991年に、
56歳という若さで突然亡くなったインテリアデザイナー、倉俣史朗。
没後30年を超えた今なお、その人気は衰えず。
2021年に香港に開館したアジア最大の美術館「M+(エムプラス)」に、
倉俣がインテリアデザインを手掛けた新橋の寿司店「きよ友」の内装が、
まるまる移設されたことは、世界中で大きな話題になりました。
そんな伝説のデザイナーの国内では10年ぶりとなる展覧会が、
倉俣が後半生を過ごした世田谷区の美術館で開催されています。
その名も、“倉俣史朗のデザイン―記憶のなかの小宇宙”です。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を頂いております。)
2000年代に突入してからは、
21_21 DESIGN SIGHTや埼玉県立近代美術館で、
倉俣史朗にスポットを当てた展覧会は開催されていますが。
それらの展覧会は倉俣がデザインした作品だけでなく、
周辺のデザイナーや影響を受けたデザイナーの作品も併せて展示されていました。
しかし、本展は倉俣史朗オンリーの展覧会。
100%倉俣史郎展です。
初期の作品から晩年の作品まで。
会場には、倉俣の代表作の数々が一堂に会していました。
彼がデザインするプロダクトはどれも、
一目見ただけで、 「なるほど!」と膝を打ちたくなるような、
胸にストンと落ちるような、一種の爽快感があります。
しかも、せっかく思い付いたアイディアを、何度も使いまわすことはせず。
常に新たなアイディアで勝負。
その球種は実に多様です。
お笑いに例えるならば、バカリズムさんの大喜利といったところでしょうか。
シンプルかつ絶対的。
倉俣史朗のデザインも、バカリズムさんの大喜利の答えも、
一度発表されてしまうと、それ以外の正解は存在しないような気さえしてしまいます。
そんな倉俣史朗の代表作中の代表作が、 《ミス・ブランチ》。
展覧会では国内にある3脚の《ミス・ブランチ》が集結していました。
造花のバラをアクリルに閉じ込めた椅子で、
今やすっかり倉俣史朗の代名詞とも言うべき作品ですが、
意外にも、発表当時はそこまでウケがよくなかったのだとか。
少し時代を先取りしすぎたのかもしれませんね。
ちなみに、作品のタイトルは、テネシー・ウィリアムズによる戯曲、
『欲望という名の電車』のヒロイン、ブランチ・デュボアに由来するとのこと。
エリカ様が復帰後に主演する舞台で演じる役ですね。
さてさて、《ミス・ブランチ》自体は、
これまで何度か目にしたことがありましたが。
今回改めて、マジマジと鑑賞して気づかされたのは、
決して見た目のインパクトを重視した作品なのではなく、
細部に至るまで、美意識が行き届いた作品だということ。
浮かぶ赤いバラについ目が行ってしまいますが、
肘掛けの曲線美や、背もたれの絶妙なカーブなど、
どこを取っても、一切の隙がありません。
それは、メタリックに輝く紫色の脚もしかり。
細さや角度が絶妙に設定されており、
座面の美しさを最大限に引き立てる役割を果たしていました。
そのことに気が付いてから、
再び他のプロダクトも観てみたところ・・・・・
やはりただアイディアが面白いというだけではなく、
どのプロダクトも細部にまでこだわり抜かれていました。
それだけに、今の眼で観ても、十分に新鮮に映ります。
死後30年以上経って、一周回って新しい、のではなく。
発表当時から今の今まで、ずっと新しい。
そんな印象を受けました。
日本が世界に誇る日本人。
オオタニサンもいいですが、
クラマタサンも是非この機会に!
ちなみに。
展覧会では、彼が手掛けたプロダクトだけでなく、
倉俣の蔵書やレコードの一部も紹介されていました。
また、これまでほぼ公開されたことがないという、
倉俣が1980年頃から記録していたという夢日記も。
デザインにあまりにも隙が無さすぎて、
良くも悪くも、人間味のようなものが感じられなかったのですが。
プライベートな所蔵品や自筆の文章の数々を目にして、
倉俣がちゃんと人間であったことを実感でき、なんだかホッとしました(笑)。
┃会期:2023年11月18日(土)~2024年1月28日(日)
┃会場:世田谷美術館
┃https://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/special/detail.php?id=sp00216