今年2024年は、第1回の印象派展が開催されてから、ちょうど150周年の節目の年。
それを記念して、フランスでは印象派関連のイベントが大々的に開催されるようです。
都内では現在、東京都美術館を舞台に、
“印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵”が開催され、人気を博しています。
と、19世紀後半の美術界は、
印象派が席巻していたかのように思われがちですが、
いえいえ、その当時も主流はアカデミーの画家たちでした。
フランスにおいては王立絵画彫刻アカデミー、
イギリスにおいてはアカデミー・オブ・アーツに所属した画家たちが、
古典的な絵画を描き、美術界の主流を占めていたのです。
ただし、社会の急速な近代化によって、
アカデミーの権威と伝統は揺らぎつつあり、全盛期のピークは過ぎていました。
そんな微妙な時代のアカデミーの画家たちにスポットを当てた画期的な小企画展が、
現在、東京都美術館のほど近くにある国立西洋美術館にてひっそりと開催されています。
その名も、“もうひとつの19世紀 ―ブーグロー、ミレイとアカデミーの画家たち”です。
ちなみに。
会場は、新館の版画素描展示室ですが、
この小企画展に関しては、版画や素描ではなく、
油彩画がメインの展覧会となっています。
さて、本展の主役の一人が、ウィリアム・アドルフ・ブーグロー。
フランスのアカデミーを代表する画家です。
本展では、国立西洋美術館が所蔵する、
あるいは、寄託されたブーグロー作品がすべて出展されています。
それらの中には初公開作品も含まれているとのこと。
当時は王道にして主流派ながらも、時代が経つにつれ、
すっかり印象派の画家たちの影に隠れてしまったブーグロー。
ここにきてようやく再び、日の目を浴びる時が来ました。
令和はアカデミーの時代になるかもしれません。
なお、アカデミーの画家ゆえ、
やはりブーグローの作品からは古典的な印象を受けます。
例えば、こちらの作品は、
タイトルこそ《純潔》と、宗教画の雰囲気はないですが。
誰がどう見ても、聖母マリアと、
幼きキリストを想起させる作品となっています。
子羊を赤ちゃんを一緒に抱く人なんて、聖母マリアくらいなものです。
本展のメインビジュアルになっている《小川のほとり》は、
一見すると、そこまで古典的な印象はないような気がしますが。
この少女のポーズを、当時のアート好きが観たなら、
“あぁ、《棘を抜く少年》(※)のオマージュね!”と、ピンときたのだとか。
(※古代ローマの有名なブロンズ像の一つ)
現代的な格好をしつつも、古典的要素は忘れない。
それがブーグローです。
なお、紹介されていたブーグロー作品の中で、
個人的に一番印象に残っているのが、こちらの一枚。
タイトルは、《姉弟》とのこと。
弟君が姉の左肩に腰掛ける姿は、
『幽☆遊☆白書』の戸愚呂兄弟を彷彿とさせるものがありました。
さてさて、本展でもう一人フィーチャーされているのが、
《オフィーリア》でお馴染みのジョン・エヴァレット・ミレイです。
幼き頃より絵の才能に秀でていた彼は、なんと11歳にして、
史上最年少でロイヤル・アカデミーに入学するという快挙を成し遂げます。
しかし、アカデミーに入りながらも、ロセッティら学生仲間とともに、
当時のアカデミーがルネサンス期のラファエロを信望していたことに反発。
ラファエロ(=ラファエル)より前に戻ろうと、「ラファエル前派」を立ち上げ、
当時のアカデミーの画家たちが描かなかった中世の伝説や文学を主題とした絵を描きました。
ただ、ミレーはのちに、ラファエル前派を離れ、
アカデミーの中で順当に出世を重ねていきます。
そして、最終的には会長にまで上り詰めました。
Mr.アカデミーともいうべき人物です。
そんなラファエル前派以降のミレイは、ファンシー・ピクチャーで人気を博しました。
ファンシー・ピクチャーとは、ざっくり言えば、
子どもたちの愛らしい姿を物語的、空想的に描くもの。
アカデミーの先人であったレノルズや、
ゲインズバラが得意とした古典的なジャンルです。
若い頃は、アナーキーなスタンスだったのに(?)、
最終的には、子どもの可愛らしい姿を描くようになったミレイ。
若い時は全然興味ないのに、ある程度の年齢になると、
『はじめてのおつかい』が面白いと感じられるようになった。
あれに近いものがあるのかも知れません。
ちなみに。
展覧会では、ブーグローとミレイだけでなく、
黒田清輝の師でもお馴染みのラファエル・コランをはじめ、
フランス、イギリスの他のアカデミーの画家の作品も紹介されています。
その中で個人的にもっとも印象に残っているのが、
ジャン・ジャック・エンネルの《ノエツラン夫人の肖像》という一枚。
ココリコの田中さんに、そこはかとなく似ているような。
一度そう思ってしまったら、それにしか見えなくなってしまいました。