岡本太郎の遺志を継ぎ、「時代を創造する者は誰か」を問うための賞。
それが、岡本太郎現代芸術賞。通称TARO賞です。
プロアマ問わず誰でも応募可能で、国籍・年齢の制限はなし。
さらには、表現の技法も一切制限ありません。
高さ5m×幅5m、奥行き5m以内という規定さえ守れば、
平面でも立体でも何でもありの現代美術界の賞レースです。
前々回が578点、前回が595点の応募数だったのに対し、
今回の第27回はそれを大きく超える621点の応募があったそう。
その激戦を勝ち抜き入選した22点の作品が、
現在、川崎市岡本太郎美術館で一堂に会しています。
前回はグランプリ、準グランプリに当たる、
岡本太郎賞と岡本敏子賞が、どちらも該当者なし、
というTARO賞史に残る波乱の展開となりましたが。
今回は無事にどちらも受賞者が決定しました。
岡本太郎賞を受賞したのは、
つんさんの《今日も「あなぐまち」で生きていく》です。
タイトルにある「あなぐまち」とは、
子ども時代のつんさんが生み出したという、
もう一つの世界なのだそうです。
ダンボールで出来た巨大な団地の中には・・・・・
ガムやロウソク、肉まんといった、
多彩な住人たちがそれぞれの部屋に住んでいます。
また、それらの部屋の中には・・・・・
このような冊子が入っています。
こちらは自由に取り出して読むことが可能です。
内容はそれぞれの住人を主人公にしたミニ絵本となっていました。
膨大な数の住人(=キャラクター)を考え、
それをすべて制作するだけでも途方もないですが、
さらにその上で、全キャラ分の絵本を創作しただなんて。。。
とても一人の仕事量とは思えません。
岡本太郎賞を受賞したのも納得です。
そして、岡本敏子賞を受賞したのが、
三角瞳さんによる《This is a life. This is our life.》という作品。
ガラスで覆われた空間の中に、
老若男女、国籍もバラバラの無数の顔が浮かんでいます。
一瞬、かつて大阪と原宿にあった雑貨屋『ASOKO』を思い浮かべてしまいましたが。
これらの顔はすべて、イラストではなく、なんと刺繍で制作されています。
「人間は遺伝子に束ねられた存在である」というのが、作品のテーマとのこと。
それゆえ、刺繡の裏側には、遺伝子を表す赤い糸を用いているのだとか。
岡本太郎賞を受賞したつんさんの作品と同じく、
岡本敏子を受賞した三角さんの作品も労力がかかっていました。
なお、今回のTARO賞では、
例年の倍以上となる10作品が特別賞を受賞しています。
それらの中で、平面作品だったのは、
小山久美子さんによる《三月、常陸國にて鮟鱇を食ふ》の一点だけ。
あとはすべて、インスタレーション系。
しかも、見るからに労力がかかっている作品ばかりでした。
努力をした人(?)が報われる。
それは決して悪いことではないのですが、
受賞作品に限らず、入選した作品の多くが、
そういった系統のインスタレーションだらけなので。
鑑賞する身としては、正直、疲れました(笑)。
体感的には3つか4つくらいの展覧会を観たくらいにグッタリ。。。
しかも、常設展でたっぷり岡本太郎作品を観た後なので、余計にグッタリしました。。。
もう少しあっさりした作品が選ばれていて欲しいような。
ラーメンでいえば、二郎系の美術賞。
それが、TARO賞です(←太郎なんだか二郎なんだか)
さて、ここからは、個人的に印象に残っている作品をご紹介いたしましょう。
まずは、特別賞を受賞されたフランス人作家、
フロリアン・ガデンの《Anomalies-poétiques/詩的異常》という作品です。
壁一面に貼られているのは、水彩で描かれた日常の光景の数々。
一見すると、何の変哲もない光景なのですが、
よく見ると、妖怪や巨大な生物が描かれていました。
ありえない光景なのに、絵の中の人々は、
それを当たり前のものように受け入れています。
そのシュールさが、じわじわくる作品です。
続いては、鈴木のぞみさんによる《Light of Other Days:吉田理容室》。
かつて前橋市にあったという吉田理容室で、
実際に使われていたと扉や鏡、窓を用いたインスタレーションです。
それらの表面をよく観てみると、
当時、鏡に映っていた光景や、窓から見えた光景が、
写真の原理を用いて、直接定着されていました。
一度も訪れたこともなければ、
その存在すら知らなかった理容室ですが、
この空間に入った時に、不思議と懐かしい気持ちになりました。
こういった形で、建物の記憶を残すことができ、
しかも、それを追体験させられることに、素直に感動。
個人的に賞をあげられるなら、この作品にあげたいと思いました。
ちなみに。
もう一人、賞をあげたいのが、
野村絵梨さんの《垢も身のうち》という作品です。
この空間は、作者の野村さん自身の部屋がモデルとのこと。
室内にあるものを、3DCGでおもちゃのような形にデフォルメし、
それをもとに、スタイロフォーム(発泡スチロールの一種)で制作したそうです。
カップヌードルやヤクルト1000や、
クリニカや泡ハンドソープのキレイキレイなど、
絶妙に身近なものが会場内に溢れていました。
IKEAのバッグとか。
個人的に一番目を引かれたのが、こちら。
脱ぎっぱなしの靴下です。
普段から脱ぎっぱなしていないと
この脱ぎっぱなし感のリアリティは出せません。
脱ぎっぱなし癖のある身としては、大いに共感をしました。
と同時に、脱ぎっぱなしの靴下は、
本当にだらしなく見えることに気づかされました。
人の振り見て我が振り直せ。
野村さんのおかげで、脱いだ靴下をそのままにしないようになりました。
(それが何日続くかわかりませんがw)