現在、国立新美術館で開催されているのは、
“遠距離現在 Universal / Remote”という展覧会。
国立新美術館では実に5年ぶりとなる現代美術のグループ展です。
展覧会タイトルの“遠距離現在 Universal / Remote”は、
本来は万能リモコンを意味する「universal remote」という単語を、
あえてその間にスラッシュで分断したものとのこと。
万能性にくさびを打つことで、ユニバーサル(世界)と、
リモート(遠隔・非対面)を露呈させる狙いがあるのだそうです。
本展では、「Pan- の規模で拡大し続ける社会」と「リモート化する個人」、
その2つの視点から選ばれた、国内外で活躍する9名(組)の作品が紹介されています。
万能リモコンだから、映像。
そんな単純な理由では決してないとは思いますが、
展覧会の全体としては、映像作品が半数を占めていました。
しかも、作品によっては、上映時間が1時間近いものも。
すべてを観尽くしたい方は、時間に余裕を持って訪れることをオススメします。
中でも長尺なのが、中国の現代作家・徐冰(シュ・ビン)による映像作品です。
上映時間は81分。
描かれているのは、チンティンという女性と、
彼女に片思いする男性クー・ファンのラブストーリーです。
それだけ聞くと、ただの映画のように思われますが、
なんと、この映像作品には、一切、役者は登場しません!
さらに、カメラマンも存在していません!
だからといって、アニメーションやCGが使われているわけでもなし。
では、どうやって映像作品が作られているのかといえば、
ネット上に公開されている監視カメラの映像だけで作られているのです。
なんでも、この作品のために、徐と彼の制作チームは、
20台のコンピューターを使い、約11000時間分の映像をダウンロードしたのだそう。
で、それを上手いこと繋ぎ合わせて、1本の映画のような映像作品を作り上げたのです。
まさか自分がこの映像作品の登場人物になっているとは。
監視カメラにたまたま映っただけの人物は知る由もありません。
“監視カメラの映像だけで81分?!”と、
正直、観始めた時には思っていましたが、
気づけば、見入ってしまっている自分がいました。
それくらいクオリティの高い映像作品です。
見入ってしまったと言えば、
井田大介さんの映像作品《誰が為に鐘は鳴る》も。
円環上に設置されたバーナーの上を、
紙飛行機が落ちそうで落ちずに飛び回り続ける。
ただそれだけの映像ながら、謎の中毒性がありました。
ちなみに。
こちらも同じく井田大介さんによる映像作品です。
こちらの映像作品は2人の男性がバーナーで、
ただひたすらブロンズ像を熱し続けるというもの。
当たり前と言えば当たり前ですが、
途中から、ブロンズ像は熱を持ち、赤くなります。
しかし、それ以上に変化をすることはありませんでした。
どんな物でも燃やすバーナーvs絶対に溶けないブロンズ像?
昔フジテレビで放送されていた『ほこ×たて』を思い出してしまいました。
また、映像作品以外で印象に残っているのが、
デンマークのティナ・エングホフによる写真シリーズです。
一見すると、ポップな室内写真のように思えますが、
こちらの「心当たりあるご親族へ」という一連のシリーズ作品は、
孤独死した人たちの自宅や病室を撮影したものなのだとか。
デンマークでは、孤独死した人の情報が、
「心当たりあるご親族へ」と添えられ、新聞に掲載されるそうです。
その情報を頼りに、作者のエングホフは、
孤独死した方の現場を訪れ、撮影し続けたそう。
つまりは、どれも事故物件というわけです。
自分はまったく霊感がないですが、
それでも、なんだかゾワっとくるものがありました。
最後に紹介したいのは、アメリカのエヴァン・ロスのインスタレーション作品です。
ロス曰く、「職業としてはアーティストだが、ハッカーでもあると思う」とのこと。
本作は彼自身のコンピューターのキャッシュに蓄積された画像、
それも、次女が誕生した2016年6月29日以降の画像が用いられています。
その膨大な画像が無作為に、床や壁に敷き詰められていました。
それらの画像の中には、ヒラリーやちょっと若いトランプの姿も。
それ以上に、知らん人の画像が多々ありました。
誰やねん。