この春、ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクションでは、
“南桂子銅版画展 ― 春”という展覧会が開催されています。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を頂いております。)
こちらは、カラーメゾチントの祖である浜口陽三の妻で、
国際的に活躍した銅版画家・南桂子にスポットを当てた展覧会で、
春を感じられる優しい色彩の作品を中心に約50点を紹介するものです。
ちなみに、出展作品の中には、
ユニセフのクリスマス・カードにも採用された・・・・・
《平和の木》の原画もありました。
改めて観てみると、クリスマスというよりは、
どこか春を感じさせる絵柄である気がします。
なお、本展では銅版画作品だけでなく、
銅版画家に転向する前の貴重な油彩画も紹介されていました。
シュルレアリスムっぽい作品もあれば、
ヴォルスの絵画っぽい作品もありました。
南桂子の世界観を確立する前、
いうなれば、南桂子エピソード0といった印象です。
さてさて、これまでミュゼ浜口陽三では、
毎年1回ほどのペースで、さまざまな切り口で、
南桂子の作品に迫る展覧会を開催してきました。
ここ近年に開催されたものは、ほぼ網羅しているので、
個人的には、南桂子作品を観尽くした気でいたのですが。
本展で(おそらく)初めて目にした作品も、ままありました。
例えば、こちらの《春の野原》。
何を表しているのか、イマイチよくわからないのもありますが、
それもひっくるめて、楽しげでパッチワークのような作品でした。
個人的には特にカエルがお気に入り。
また例えば、こちらの版画作品。
タイトルは、《日本の茂み》とのこと。
“茂み”と言うほど、茂みではないですし、
“日本の”とあるものの、日本は特に感じられません。
本当にこのタイトルであっているのか、非常に気になるところです。
また、本展を通じて、改めて、南桂子作品を観ていたところ、
背景全体に、独特のかすれ(?)があることに気が付きました。
どこかリネン生地っぽいといいましょうか。
触ったら心地よい肌触りがしそうな印象を受けます。
一体どうやってこの独特の風合いは生まれているのでしょうか?
そう疑問に思っていたら、ちょうど運よく、
南桂子の銅版画の版を再現したものが紹介されていました。
どうやら南桂子は、背景だけの版も制作していたようで。
あの独特の風合いの背景を作るために、
サンドペーパーを使って銅板に傷を付けていたのだとか。
このひと手間が、南桂子作品の味を出していたのですね。
モチーフが可愛らしいので、
ついついモチーフばかりに目が行きがちでしたが。
これからは、背景もじっくり味わいたいと思います。
また、本展を鑑賞している際に、
背景とは別にもう一つ気が付いたことがありました。
南桂子がよく描くモチーフの一つである少女。
これまで自分は、少女の顔ばかりに関心を示していました。
やれ川口春奈に似ているだとか。
やれ長澤まさみに似ているだとか。
人中(=鼻と口の間にある溝)が気になるだとか。
しかし、こちらの《少女とシャボン玉》の鑑賞中、
右下に描かれたゆるカワイイ犬が妙に気になって、
足元に目を向けたところ、気が付いてしまったのです。
南桂子が描く少女は、ほぼ間違いなく、
歌唱中の鬼束ちひろや一青窈のように、裸足であるということに。
しかも、つま先がとんでもなく尖っていました。
もはや凶器。
南桂子の描く少女たちには、
蹴られないように気を付けましょう(←?)。