現在、DIC川村記念美術館で開催されているのは、
“カール・アンドレ 彫刻と詩、その間”という展覧会です。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を頂いております。)
「ミニマル・アート」を代表するアメリカの作家で、
今年1月末に惜しくも88歳で亡くなったカール・アンドレ。
その日本の美術館では初となる大規模個展です。
芸術家として活動を始めた初期こそは、
ブランクーシから影響を受け、普通に(?)木彫作品を制作していましたが、
やがて、できるだけ木や鉄といった素材に手を加えない彫刻表現を見出します。
しかも、立方体や直方体などの形状をした同一のユニットを反復させるだけ。
あるいは、規則正しく並べてみるだけ。
そんなシンプルにもほどがある彫刻作品を数多く制作しました。
なお、アンドレは、自身の作品を、
“置かれる周りの空間に作用するもの”と考えていたようで、
それを「場としての彫刻」と言う言葉で表していたそうです。
ただ、いくらシンプルで、誰でもできそうだと言っても、
もちろんアンドレの中では、制作に対してポリシーはあるようで。
まず何より、素材となるユニットは、
アンドレ自身が持ち運べる重さや大きさでなくてはならなかったそうです。
また、スタジオを持たないアーティストであったアンドレは、
展示する地でユニットとなる素材を調達し、展示場所で作品を制作しました。
その素材は、混じり気のない金属や無垢の木材など、
純粋なものを用いることに強いこだわりを持っていたそうです。
料理人に例えるならば(←?)、
目利きに定評のある出張料理人といったところでしょうか。
さてさて、展覧会の会場には、国内外より、
そんなアンドレの代表的な大型彫刻作品が13点も集結しています。
13点と聞いて、「少なっ!」と思った方もいらっしゃるかもしれませんが。
例えば、米杉の角材を21本積み上げた《メリーマウント》(1980年)は、
高さと幅がそれぞれ約1.8メートル、そして、奥行きも90㎝ほどあります。
また例えば、本展最大級となる《上昇》(2011年)は、
高さと幅は約185㎝、さらに、全長は15mにも及びます。
圧倒的スケール感!
《上昇》(2011年)にいたっては、彫刻を観ているというよりも、
工場や工事現場を見学しているような感覚に陥りました。
なお、《上昇》(2011年)をはじめ、床置きされた作品のうち、
半分を超える作品が、なんと、その上を歩くことができます!
踏みしめてみると、靴越しではありますが、
素材の感覚が少なからず足から伝わってきました。
目だけで観るのではなく、足でも鑑賞することで、
作品の持つ存在感みたいなものを実感できたような。
さらに、不思議なもので、作品を意識することで、
その作品の上に立つ自分自身の存在を感じることもできました。
これこそまさに、アンドレの言う「場としての彫刻」なのかもしれません。
ちなみに。
展覧会では、アンドレの大型彫刻作品だけでなく、
大型彫刻作品引退後に作られた<小さな彫刻>の数々も紹介。
さらには、アンドレによる詩の数々も紹介されています。
彫刻家として知られる前のアンドレは、
実は、詩の制作を勢力的に行っていたのだとか。
その生涯のうちに書いた詩は、2000編以上!
とりわけ、「視覚詩」とも訳されるコンクリート・ポエトリーに取り組んでいたそうです。
家庭用タイプライターで打ち込まれたというそれらの詩は、
あいにく自分は英語が苦手なため、内容はわかりませんでしたが、
意図的に形状が構築されているため、観ているだけでもなんか楽しかったです。
のちの彫刻の制作スタイルをどこか彷彿とさせるものがありました。
カール・アンドレの大型彫刻作品も、
そして、壁や展示ケースに並べられた詩も、
ハッキリ言って、見た目の華やかさはありません(笑)。
森美術館での現代アート展や、
地方の芸術祭で目にするような、映える作品とは真逆の作風です。
そんな展覧会をあえて開催したところに、
ミニマル・アートをはじめとするアメリカ現代美術に特に力を入れてきた、
DIC川村記念美術館の本気、覚悟のようなものを見た気がします。
地味だけど地味なだけじゃない展覧会です。