現在、サントリー美術館で開催されているのは、
こちらは、2020年に開催されて以来、
久しぶりとなるサントリー美術館のコレクション展で、
「生活の中の美」を基本理念に収集されたそのコレクションが、
「陶磁」や「染織と装身具」など、ジャンルごとに紹介されています。
出展数は、実に約195件!(注:会期中、展示替えあり)
それらの中には、あの北条政子が愛したと伝えられる、
鎌倉時代の手箱の傑作で、国宝の《浮線綾螺鈿蒔絵手箱》や、
南蛮美術の傑作と名高い重要文化財の《泰西王侯騎馬図屛風》といった、
サントリー美術館が誇る「名品」も多く含まれていますが、
それだけでなく、これまでほとんど注目されることが無かった、
そもそも公開されることがあまりなかった「迷品」もまた、多く含まれています。
例えば、冒頭に展示されていたこちら↓
一昔前のバレーボールみたい。
・・・と思ったら、あたらずといえども遠からず。
こちらは、江戸時代に作られた蹴鞠用の鞠と、
それを保管するために作られた木枠と架台だそうです。
ある専門家の見解によれば、日本に現存するもっとも美しい蹴鞠とのこと。
蹴鞠の存在はもちろん知っていましたが、
そう言えば、蹴鞠用の鞠の実物を観たのは初めてかも。
率直な感想としては、思ったより大きかったです。
なんとなくセパタクローのボールくらいの大きさなのかと思ってました。
また例えば、こちらの戸棚のようなモノ。
こちらは「笈」と呼ばれるもので、
修験道の山伏が小さな仏像などを、
中に入れて、持ち運ぶための道具なのだとか。
昔の山伏は、こんなに大きなものを背負い、山々を歩いていたのですね。
竃門禰豆子なら余裕で入りそうです。
名品を紹介する展覧会というのは、
これまでにいろいろな美術館で開催されていますが、
名品と迷品を併せた展覧会は、意外と珍しいような。
名品だらけだと、ちょっと委縮してしまいますが、
迷品もあることで、肩の力を抜いて楽しむことができました。
さてさて、ここからは、
個人的に印象に残った名品をまとめてご紹介いたしましょう。
まずは、伝 小林如泥の《木画蒔絵菊花文透冠棚》。
豪華絢爛な漆工作品に混じって展示されていると、
そこまで派手さはないため、一瞬スルーしそうになりましたが、
キャプションの解説を読んで、思わず天板を二度見してしまいました。
天板に使われていたのは、木片を寄せ集めて描く「木画」という技法。
極小の木片のパーツが、寸分も狂わず組み合わされています。
超絶技巧of超絶技巧。
人間の手わざで作られたとは、にわかに信じられませんでした。
いや、正直に言うと、今もまだ疑っています(笑)。
そんな超絶技巧とは打って変わって、
ゆるい魅力を放っていたのが、《青磁染付葦鷺文皿》。
ゆるいタッチでありながらも、動きは感じられるため、
放送が始まった頃の昭和のアニメを彷彿とさせるものがありました。
初期の『サザエさん』がこんな感じだったような。
続いて紹介したいのも、陶磁作品。
有田の《色絵縞文猪口》です。
ウォーリー専用かはたまた、楳図かずおさん専用か。
江戸時代にこんなポップなデザインの猪口があったことに素直に驚かされました。
なお、本展では日本の美術工芸品だけでなく、
ガラスを中心に、西洋の美術工芸品も紹介されています。
中でもインパクトがあったのは、16世紀ドイツの《シュタンゲングラス》。
酒器として用いられていたグラスです。
何より気になるのは、その表面に付いた突起物。
ツボ押し効果でもあるのかしらと思いきや、
実はこの当時、料理を素手で食べる習慣があったそうで、
肉の脂がついた手で持っても、グラスが滑り落ちないための工夫なのだとか。
なるほど!と一応は納得しましたが、
おしぼりを用意すればいいだけじゃん、とも思いました。
ちなみに。
その隣に展示されていた17世紀ドイツのガラス器、
《ダイヤモンドポイント彫りレーマー杯》にも、やはり突起が付いていました。
こちらは、白ワイン用のグラスとのこと。
その色といい、フォントの雰囲気といい、
パッと見、コカ・コーラの瓶かと思いました。
突起は、王冠に見えました。