練馬区立美術館で開催中の “牧野邦夫―写実の精髄” に行ってきました。
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言葉を失ってしまうほどの美術展でした。
これまでに、数々のスマッシュヒットを飛ばしてきた “美術館界のイチロー” こと練馬区立美術館ですが。
(その一例が、こちら)
今回の美術展は、ヒットどころかバックスクリーン越えのホームランという感じ。
「この美術展を見ずにして、2013年のアートは語れない。」
個人的には、それくらいの美術展だと思っています。はい。
さてさて、おそらく多くの方が、
「牧野邦夫?誰??」
と、不安に思っていることでしょう。
しかし、どうぞご安心を。
僕も、この美術展を通じて、初めてその名を耳にしました。
一般的な知名度はないものの、実は、牧野邦夫 (1925~1986) は、知る人ぞ知る天才画家。
美術団体にも属さず、名声を求めることよりも、
自分が納得できる作品を遺すことに、その生涯を捧げた人物だったようです。
牧野邦夫が、どれほどにスゴい画家なのか。
それは、彼の作品を見れば、一発で納得してもらえると思います。
まずは、今回のメインビジュアルに使われている作品をご覧ください。
もちろん、写真作品ではありません。
(注:館内の写真撮影は、特別に許可を頂いております)
ちょっと石田純一に似ているこちらの人物画は、 《ビー玉の自画像》 という作品。
その圧倒的な描写力によって生み出された迫力は、並々ならぬものがありました。
33.5×24.5の小さめの作品とは思えないほどの大きな迫力が迫ってきます。
絵の迫力に飲み込まれないように要注意な一枚です。
ただ、残念ながら、この1点だけでは、彼の描写力の高さしか伝えられません。
このままでは、ただ単に、 “めちゃめちゃ写実的な人物画を描く画家” どまりになってしまいます。
(↑いや、それでも十分にスゴいことなのですが)
牧野邦夫の真骨頂は、こちらの 《海と戦さ》 のような作品に結実しています。
描かれている一人ひとりの人物描写が巧いのは、言わずもがな。
さらに、ズームアップしてみましょう。
すると・・・
単なる服の影に見えた部分にも、人の顔が描かれていることがわかります。
(注:心霊写真ではありません!)
ちょっとグロいので、人によって好き嫌いは別れるところでしょうが。
このように執拗なほどに精密な描写で大画面を埋め尽くし、
どこかグロテスクを感じさせる世界は、これまでに目にしたことがありません。
まさに牧野邦夫独自の世界観。
“こんなスゴい画家が、日本にいたとは。。。”
その衝撃は、伊藤若冲の作品を初めて目にした時に匹敵するほどでした。
ちょっとしたカルチャーショック状態です。
会場には、そんな牧野ワールド全開の作品がびっしり。
このような作品を何点も生み出した牧野邦夫の労力は、相当なモノでしょうが。
それらの作品を鑑賞するのに要する僕らの労力も、それなりに相当なモノです (笑)
あまりに作品1点1点の密度が濃厚過ぎて、
鑑賞中はずっと口をパクパクしていた気がします (←金魚?)
ちなみに、美術展を観終ったときは、12ラウンドを戦い切ったボクサーのようになっていました。
ただ、グロテスクなところがある作品は、
「スゴっ!!」 とは思えど、個人的な好みにはハマりませんでしたが。
《ひん曲がった部屋》 や、
《旅人》 のようなシュルレアリスム的な作品は、
個人的に好みで、疲れも忘れて、ずっと飽きずに眺めていられました。
中でも一番印象に残った作品が、こちらの 《未完成の塔》
タイトルからもわかるように、未完成の塔の絵です。
実は、この絵には、こんなエピソードが。
レンブラント宛に手紙を書き、そのレンブラントから返信も自分で書いてしまった・・・というくらいに、
レンブラントを敬愛してやまなかった牧野邦夫。
そんな彼は、50歳の頃に、
「レンブラントのような絵を描けるようになるためには、
63歳まで生きたレンブラントより30年長く生きなければならない!」
という目標を立てました。
そこで、牧野は、10年ごとに一層ずつ塔を描き、
90歳になった時に五重塔の姿が完成する絵を描こうと思い立ちました。
ところが、牧野は61歳の時にガンで亡くなってしまいます。
だから、この絵は、50代と60代の2層だけしか描かれていないのだとか。
空白の部分には、どんな塔の姿が描かれたのでしょうか。
これほどまでに未完であることが悔しい作品はありません。
ちなみに、この 《未完成の塔》 は、4月27日の 『美の巨人たち』 で取り上げられるとのこと。
放送後に人が殺到する前に行かれることをオススメします。
まだまだまだ他にも、牧野作品についてお話ししたいところはたくさんありますが。
最後に、絞りに絞って一つだけ。
レンブラントが好き過ぎる牧野邦夫は、
レンブラントに憧れて、レンブラントのように自画像をたくさん残しています。
それだけに、会場を見回してみると、あちらこちらに牧野邦夫の姿が。
絵画の世界では、こんなにも自分を前面に押し出す画家なのに。
どうして美術界では、前に出ようとしなかったのか・・・謎です。
ともあれ、今日まで知られざる画家扱いだった牧野邦夫が、
この21年ぶりの回顧展を機に、伊藤若冲や岸田劉生に並ぶような日本美術界のスターになる可能性は大です。
そんなブレイクの瞬間に立ち会える奇跡を、どうぞ皆様も見逃しませぬよう。
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牧野邦夫―写実の精髄
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