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Channel: アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】
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Book:13 『花鳥の夢』

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今回ご紹介するのは、天才絵師・狩野永徳を主人公にした小説です。

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-花鳥の夢


■花鳥の夢

 作者:山本兼一
 出版社:文藝春秋
 発売日: 2013/4/26
 ページ数:483ページ

天才絵師・狩野永徳の恍惚と不安。稀代の名作『洛中洛外図』を描き、時代を席巻した永徳。
―あの男は、どうしておれを苛立たせるのか。
長谷川等伯への嫉妬に身悶えしながら、画境の極みを目指す。絵師の業を極限まで描く、傑作長編。
(「BOOK」データベースより)


「以前紹介した 『等伯』 (星5つ!) にも、狩野永徳は重要な役どころで登場しています。
 その 『等伯』 が直木賞を受賞した直後に、
 狩野永徳を主人公にした 『花鳥の夢』 が発売されたので、あまりのタイミングの良さに驚かされました。
 しかも、作者は、 『利休にたずねよ』 で直木賞を受賞している山本兼一さん。
 これは、期待せずにはいられません!


 『等伯』 では、長谷川等伯のライバルとして、かなりイヤな奴として描かれていましたが。
 今回の 『花鳥の夢』 でも、同じくらいに、等伯に対してはイヤな奴として描かれています (笑)
 ただ、それは、長谷川等伯の才能に嫉妬するがゆえ。
 嫉妬の炎に苦しみながら、つい嫌味な発言や行動を取ってしまい、そんな自分に、また苦しむ。
 小説の全体を通して、悩む永徳の姿が描かれます。
 
 小説として面白かったのは、ライバルである等伯が得体の知れない人物として描かれていること。
 要所要所で、永徳の前に現れては、その絵の才能を発揮して、永徳を苦しめます。
 セリフも当然あるのですが、決して等伯の口からは本心が語られません。
 何を考えているかわからない謎の男という位置づけです。
 その不気味さが、より永徳を苦しめていた気がします。

 とにかく永徳は悩みまくっているので、
 彼の前に、笑ゥせぇるすまんが現れたら、その誘いに簡単に乗ってしまうはず (笑)


 ただ、小説として悲しいのは、その姿に、あまり共感や同情ができないこと。
 基本的に、小説の永徳は、自分が天才であることを疑わないので (まぁ、実際、天才ですからね) 、
 僕のような凡人では、正直、永徳の悩みが共感できないのです。
 自分の才能を信じてるのに関わらず、世間との評価のギャップに悶えている。
 そんな人にはピッタリの小説と言えましょう。

 
 もう一つ残念だったのが、最後の尻切れトンボ感。
 作者の山本兼一さんは、一体、この小説を通じて、狩野永徳の何を描きたかったのだろうか。
 こんなにもカタルシスのない小説は初めて読みました (笑)


 ちなみに。
 今年の秋にトーハクで開催される “特別展「京都―洛中洛外図と障壁画の美」” にも出展される・・・

 アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-洛中洛外図右


 《洛中洛外図》 に挑む若き永徳のチャレンジの様子は、読んでいて、かなり熱くなりました。
 秋にトーハクで出合うのが楽しみです♪
 京都展に行かれる予定の方は、 『花鳥の夢』 を読んでおいた方がいいかもしれません。


スター スター スター ほし ほし(星3つ)」


~小説に登場する名画~

《檜図屏風》

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-檜図屏風


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