3年ぶりに礫川浮世絵美術館に行ってまいりました。
現在開催されているのは、 “松井英男・晴江コレクションの45年” という展覧会。
元バイオ研究者、元杏林大学医学部教授にして、
浮世絵好きが高じて、自前で浮世絵の美術館を作ってしまった松井英男氏と、
その奥様である晴江氏の自慢の浮世絵コレクションの中からベストofベストが紹介されています。
とにかく数を集める。シリーズものを完全にコンプリートする。
浮世絵コレクターにも、さまざまなポリシーがあるそうですが。
松井英男氏のポリシーは、可能な限り、初刷りの浮世絵を蒐集することでした。
「浮世絵って、全部同じじゃないの??」
と思ってしまいそうなものですが。
よくよく考えれば、摺れば摺るほど、版木は摩耗していくので、線が潰れていくのは、自明のこと。
また、版を重ねるということは、それだけ需要があるということなので、
丁寧に作ることよりも、数を多く作ることに重きが置かれ、多少なりとも作りが雑になるのも当然です。
例えば、こちらは、礫川浮世絵美術館が所蔵する 《富嶽三十六景 凱風快晴》
そして、こちらは、某博物館が所蔵する 《富嶽三十六景 凱風快晴》
見比べてみれば、その差は一目瞭然。
礫川浮世絵美術館が所蔵するほうのが、グラデーションが鮮やかですし、輪郭線も繊細です。
このように見比べてみることで初めて、
浮世絵は絵師に加えて、彫師と摺師による技の競演の賜物であることが実感させられました。
さらに、こんなにも素晴らしい美術品 (もはや工芸品?) が、
江戸時代には、天ぷら蕎麦1杯分ほどの値段で売られていたという事実に、ただただ驚愕するばかりです。
松井英男氏が、初刷りに徹底的にこだわり、
礫川浮世絵美術館を作って伝えたかったのは、そんな本来の浮世絵が放つ純粋な魅力でした。
これまで展覧会で浮世絵を見ても、ピンと来なかった方もいらっしゃるでしょうが。
それは、もしかしたら、大量生産された方の浮世絵しか観ていなかったからに過ぎないのかもしれません。
(実際、各地で開催されている浮世絵展に展示されているものの多くは、初刷りではないそうです。
先日まで、某博物館で開催されていた大規模な浮世絵展もしかり)
そういう意味では、浮世絵ファンにはもちろんのこと、
浮世絵に興味が持てなかった方にこそ、オススメしたい美術館です。
僕自身も、3年前に、この美術館を訪れ、
生前の松井館長に、直々に解説頂いてなかったら、いまほど浮世絵に興味を持っていなかった気がします。
“生前の” と書きましたが、
実は、昨年の12月暮れに、松井英男館長は83歳でこの世を去られました。
そのため、こちらの礫川浮世絵美術館は、今月25日をもって閉館が決定してしまっています。
(公式HPは、すでに閉鎖)
松井英男夫妻が集めた浮世絵コレクションが、
今後どのような形で再び公開される機会が、現在は何も決まっていないとのことです。
「また遊びに来ますね」 とお別れしてから、
本人にもう一度お会いすることは適いませんでしたが。
その素晴らしい浮世絵コレクションとは、何とか再会することが出来ました。
松井館長の浮世絵コレクションを眺めて、改めて、故人の浮世絵愛が偲ばれました。
どうか安らかにお眠りください・・・と言っても、
松井館長のことですから、天国でも浮世絵コレクションを精力的に続けるのでしょうね。
礫川浮世絵美術館に行ったことがある方も、無い方も。
どうぞ、これで見納めです。
ちなみに、今回出展されていた作品の中で、
もっとも印象に残ったのが、歌川広重の 《近江八景之内 堅田落雁》 という一枚。
この初期の摺り (おそらく初刷り?) は、世界でも1点しか確認されていない貴重なものなのだとか。
こちらも、某博物館が所蔵している遅い摺りのver.と見比べてみましょう。
繊細さが、全然違います。
浮世絵の線って、こんなに美しいものなのかと、震えてしまうくらいに感動的な一枚でした。
ただ、初期の作品ゆえに、ちょっとしたミスプリント (?) も。
画面右の帆船にご注目。
帆船の帆よりも、水平線のほうが上に摺られてしまっているのです。
そこは、初刷りゆえの御愛嬌 (笑)
5位以内を目指して、ランキングに挑戦中!(現在10位です)
下のボタンをポチッと押して頂けると嬉しいです!
↧
松井英男・晴江コレクションの45年
↧