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Channel: アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】
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印象派への旅 海運王の夢 バレル・コレクション

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スコットランドの都市・グラスゴー出身の実業家ウィリアム・バレル (1861~1958)
船舶の売買で成功を収め、海賊王・・・もとい、海運王と称された人物です。


ウィリアム・バレル卿(45歳頃) © CSG CIC Glasgow Museums Collection


15歳にして美術作品を収集し始める筋金入りの美術コレクターでもあったバレル。
生涯をかけて収集した美術コレクションは、なんと9000点以上にものぼります。
そのうちの数千点を、バレルは生まれ育ったグラスゴーに寄贈。
それらをもとに、1983年にグラスゴーの郊外にバレル・コレクションという美術館が誕生しました。

そんなバレル・コレクションから、選りすぐりの名品の数々が初来日!
現在、Bunkamuraザ・ミュージアムで開催中の展覧会、
“印象派への旅 海運王の夢 バレル・コレクション” にて公開されています。




この手の 「○○コレクション、初来日!」 は、わりとよく目にするフレーズなので、

“へぇー。また、何かのコレクションが日本に来てるんだァ”

くらいにしか思わない方も、いらっしゃるでしょうが。
実は、バレル・コレクションが来日するのは、かなり奇跡的なこと!
クリムトや当時の仏像曼荼羅が東京で観られるよりも、奇跡的なことなのです。
というのも、バレルがコレクションを寄贈する際に、
『英国外に作品を貸し出さない』 という条件を提示したのだそう。
つまり、普通に考えたら、来日するわけがないコレクションなのです。
しかし、現在、バレル・コレクションが改修工事により閉館していること、
文化財に関する法律が改正されたことから、奇跡的に貸出しが可能になったのだとか。

・・・・・・・・・・・。

今ひとつ、理由はしっくりきませんが (笑)
何はともあれ、貴重なコレクションが日本で観られるのは、本当にありがたい限り!
この特例中の特例が、どうぞバレルさんにバレませんように。
星星


さてさて、そんなバレル・コレクションには、中世のステンドグラスやタペストリー、
さらには、東洋の陶磁や絨毯など、さまざまなジャンルの作品が含まれているそうですが。
今回初来日した73点は、すべて絵画作品です。
地元スコットランドの画家やオランダの画家の作品に加えて、
バレルが特に好んだというフランスの画家の作品を中心に取り揃えられています。


カミーユ・コロー 《フォンテーヌブローの農家》 1865-73年頃、油彩・カンヴァス © CSG CIC Glasgow Museums Collection


エドゥアール・マネ 《シャンパングラスのバラ》 1882年、油彩・カンヴァス © CSG CIC Glasgow Museums Collection


中でも目玉作品は、何といってもドガの 《リハーサル》


エドガー・ドガ 《リハーサル》 1874年頃、油彩・カンヴァス © CSG CIC Glasgow Museums Collection


バレリーナを多く描いたドガ。
その貴重な初期の油彩画の一つです。
リハーサルというタイトルではあるものの、画面全体にはそこまで緊張感は漂っていません。
むしろ、なんともリラックスしたムード。
屋外から差し込む日射しのおかげで、ぽかぽかと心地よい陽気すら感じられる作品でした。
「バレリーナは、がに股になりがち」 というバレリーナあるあるを耳にしたことがありますが。
画面中央の青緑色の服のバレリーナが、まさにそれ。
左右の足の向きが、180度反対となっています。
また、足と言えば、螺旋階段を降りる人物の足元も気になりました。
両方ともに、つま先立ち。
バレリーナを見続けたドガだからこそ描けた小ネタ満載の1枚です。


また、バレル・コレクションの初来日を記念して、同じグラスゴーにある美術館、
ケルヴィングローヴ美術博物館からも、ルノワールやセザンヌなどの絵画が特別出展されています。
計7点ある絵画のうち、特に見逃せないのが、ゴッホ 《アレクサンダー・リードの肖像》 です。


フィンセント・ファン・ゴッホ 《アレクサンダー・リードの肖像》
1887年、油彩・板、ケルヴィングローヴ美術博物館蔵 © CSG CIC Glasgow Museums Collection



描かれているアレクサンダー・リードは、グラスゴー出身の画商。
バレルに良質のフランス絵画作品を勧めた人物です。
ゴッホの弟で、同じく画商をしていたテオと深い交流があり、
パリでは、同じアパルトマンに住んでいたこともあるのだとか。
どことなく菅官房長官に似ているような。
今にも 『令和』 の額を掲げるような気がしてなりません。


ちなみに、今回の展覧会では、
『外洋』 をテーマとした最後の章の一部が写真撮影可能となっています。




『外洋』 がテーマであるはずなのに、なぜか1点だけクールベによる人物画が。




「女は海ってこと?」 と思いきや、よく見たら背景に海辺が描かれていました。
まぁ、外洋を描いた絵と言えば、そうなのでしょうが。
なお、描かれた場所はフランスの港町トゥルーヴィルとのこと。
当時、保養地としてパリっ子の間で人気があり、『浜辺の女王』 と称されていた場所なのだとか。
そんなトゥルーヴィルを描いた作品が、すぐ隣にもう1点展示されていました。




モネの師でもある画家ウジェーヌ・ブーダンによる、
《トゥルーヴィルの海岸の皇后ウジェニー》 です。
ブーダンといえば、『空の王者』 の異名を持つ画家。
王者が女王にいる皇后を描いた絵画。
やんごとなき絵画です (←?)。


余談ですが、『外洋』 をテーマとしたこちらのコーナーで、
個人的に一番印象に残っているのは、ウィリアム・マクタガートによる 《満潮》 という一枚。




これ以上ないくらいに、地味な絵なのに、
これでもかというくらいに、立派な金の額縁。
これぞ、ギャップ萌え。




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くもんの子ども浮世絵コレクション 遊べる浮世絵展

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現在、練馬区立美術館で開催されているのは、
“くもんの子ども浮世絵コレクション 遊べる浮世絵展” という展覧会。


(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております)


こちらは、「やっててよかった公文式!」 でお馴染みの公文教育研究会が、
長年にわたって収集してきた子ども文化に関する歴史資料約3200点の中から、
そのコレクションの中核をなす浮世絵を中心に、選りすぐりの約170点を紹介する展覧会です。


展覧会のタイトルに、“遊べる浮世絵” とあるだけに、
一般的な浮世絵展ではそこまでフィーチャーされない 「おもちゃ絵(※)」 が数多く紹介されています。
(※子供が玩具として遊んだり、絵本として鑑賞したりするために描かれた浮世絵)
例えば、こちらの浮世絵。




折り畳んで、指示通りの切込みを入れると、紋様が現れます。
いわゆる、切り絵遊びが楽しめる浮世絵です。

また、例えば、こちらの浮世絵。




図柄を切り取り、組み立てることで、歌舞伎の舞台や鎧が完成します。
今でいうペーパークラフトです。

他にも、双六が楽しめる浮世絵や、
判じ絵 (=絵に置き換えられた言葉を当てる遊び) など、




江戸時代の子どもたちが楽しんだ浮世絵の数々が紹介されていました。
もちろん令和時代の子どもたちも楽しめるように、
覗き込むタイプの展示ケースの下に、ちゃんと踏み台が用意されていたり、




実際に自分がコマとなって双六を楽しめるコーナーがあったり、




さまざまな工夫が凝らされています。
まさしく、“遊べる浮世絵展” です。

とはいえ、決して、子ども向けの浮世絵展にあらず。
喜多川歌麿や歌川豊国、渓斎英泉ら、
人気浮世絵師が子どもを描いた浮世絵も数多く紹介されています。




浮世絵の展覧会は、これまで数多く鑑賞していますが。
その僕でも、初めて目にする浮世絵が多かったです。
これは貴重で稀有なコレクション。
持っててよかった公文式。
子どもだけでなく、大人も遊べる展覧会です。
星


さてさて、今回出展されていた浮世絵の中で、
特に印象に残ったものを、いくつかご紹介いたしましょう。
まずは、歌川重宣の 《昔はなし一覧図会》




『猿蟹合戦』 や 『かちかち山』、『舌切り雀』 など、
さまざまな昔話のエピソードが、3枚続きの絵の中に散りばめられています。
その中には、『桃太郎』 のあの場面らしきシーンも描き込まれていました。




桃、小っちゃ!!

“どんぶらこっこ” 感 (?) は、一切なし。
これでは、川でおばあちゃんが、ただ桃を見つけただけ。
ただのおばあちゃんのプチラッキーエピソードです。

昔話と言えば、『竹とり物語』 や 『鉢かつぎ姫』 など、
江戸時代に出版された豪華な絵本の数々も展示されていました。




その中に、『ふんしやう』(=文正) という絵本があったのですが。
あらすじが、ある意味で衝撃的なものでした。

 昔、常陸の国に、文正という長者がおったそうな。
 子どもがいなかった文正は、鹿島大明神に願掛けをし、ついに二人の娘を授かったそうな。
 姉妹は読み書きや詩歌にも才能を示し、それはそれは大変美しく成長したんじゃと。
 その噂を聞きつけた都の関白の御子が、常陸の国へとやってきて、姉のほうと恋に落ちたそうな。
 そして、姉は都へと旅立って行ったんじゃ。
 一方、妹のほうは、帝に召され皇子を出産。中宮となったそうな。
 やがて文正夫婦も上京し、宰相の位にまで上り詰めたんじゃ。
 一家全員めでたしめでたし。



・・・・・・・・・・何、そのおもんない話!
お金持ちが、さらにセレブになる。
美人は得する。
人生は不公平、という現実を突きつけられるお伽噺でした。


他に印象的だったのは、のちに2代目歌川広重を襲名する歌川重宣による1枚。
新潟を発祥とする角兵衛獅子を描いた 《かくべ獅子芸尽くし》 です。




獅子舞の芸とあったので、たむらけんじ的なものを想像していたのですが。
思わず二度見、いや三度見!




想像していたものと全然違って、アクロバティックでした。
江戸時代にも、こんなシルクドソレイユみたいな芸があっただなんて!
しかし、アクロバティックな動きと獅子は、まったく関係ないような。。。


最後に紹介したいのは、渓斎英泉による 《浮世二十四好 揚香》 です。




トラ猫が、おもちゃを手にした子どもが追い払われそうになる。
そんなほのぼのとしたシーンが描かれています。
猫と子ども。
「そんなん絶対に可愛いに決まってるじゃん!」 と思ったら・・・




これっぽっちも可愛くなかったです!!
特に子どものほう。
ド変態の目をしていました。




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アートテラー・とに~氏、あの大物ミュージシャンと共演する?!

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こんばんは。
令和初のATN (=アートテラーニュース) です。

来月6月4日に、代官山蔦屋書店にて開催されるイベント、
『アジア最大級のダリ美術館 20周年記念トークショー「ダリナイト」』 の詳細が明らかになりました。




こちらは、福島県にある世界3大ダリ美術館の一つ、
諸橋近代美術館の開館20周年を記念して開催される一夜限りのトークショー。
昨年、とに~氏が諸橋近代美術館を訪れた際に・・・

「来年20周年なんですね!
 せっかくなら、福島じゃなくて、東京でドーンとイベントやったらいいんじゃないですか?
 もし、やることになったら、会場見つけておきますよ!」


と、ノリで発言したことが一つの要因となって実現したイベントとのこと。
その責任を取って、とに~氏もトークショーに参戦する運びとなった模様です。
なお、トークショーは2部構成となっており、
とに〜氏は、第1部で諸橋近代美術館の大野方子学芸員とともに、
『ダリのパーソナリティー』 をテーマにトークを繰り広げるとのことです。
とに~氏より、以下のコメントが届いております。

「まさか、思いつきで発言したイベントが本当に実現することになろうとは!
 それも代官山蔦屋書店という素敵な会場で!
 なんだかシュルレアリスムの世界にいるようです (笑)
 メインのトークテーマは、『ダリのパーソナリティー』 ではありますが。
 トークショーのお相手を務める大野学芸員は、まず間違いなく、日本一ダリ愛の強い人物!
 当日は、その強烈なダリ愛、『大野方子のパーソナリティー』 を存分に引き出したいと思います(笑)」



イベントの詳細は、こちらをクリックくださいませ↓
【イベント】アジア最大級のダリ美術館 20周年記念トークショー「ダリナイト」
20世紀を代表する芸術家、ダリは世界屈指の中2病!?やはり天才!?



続いてのニュースです。
現在、国立新美術館で絶賛開催中の展覧会、
“ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道” の関連イベントとして、
6月14日にウィーン・モダンの魅力をテーマにしたトークショーが開催されるとの発表がありました。
トークショーは対談形式となる模様。
とに~氏とともに、ウィーン・モダンの魅力を語るのは、藤井フミヤさん。
言わずと知れた国民的アーティストのあの藤井フミヤさんです。
トークショーのタイトルは、ズバリ・・・

『【トークショー】藤井フミヤ×とに~ クリムト、シーレ ウィーン芸術の魅力』

あまりにビッグネームすぎる人物との共演に、
とに~氏は、いつになく緊張を隠せないようです。

「これまでアートテラーとして、いろんな仕事をさせて頂きましたが。
 今回のオファーは、過去最大級に衝撃的でした!
 トークショーのお相手を伺ったときに、まずドッキリを疑ってしまったほどです(笑)
 しかも、オファーがあってから、1ヶ月近く何の音沙汰もなかったので、やっぱりドッキリなのかと。
 こうして公式HPで応募がスタートしましたが、まだ若干ドッキリを疑っています(笑)
 まさか、自分の人生において、藤井フミヤさんと共演する日が来るだなんて。
 それも、ご一緒にアートのお話が出来るだなんて。
 『とんねるずのみなさんのおかげです』 で観ていた小学生の僕に教えてあげたいです。
 “藤井フミヤ×とに~” というトークショー名に、
 かなりプレッシャーを感じて、まさに “神様ヘルプ” 状態ですが。
 当日は、楽しめるよう頑張ります!」



イベントの詳細は、こちらをクリックくださいませ↓
【トークショー】藤井フミヤ×とに~ クリムト、シーレ ウィーン芸術の魅力




それでは、今夜のATNは、この辺りで。
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スペインの現代写実絵画―MEAM

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日本の写実絵画ブームをけん引する “写実の殿堂” ホキ美術館。
2011年にバルセロナに開館した現代の具象絵画、
つまりフィギュラティブアートを積極的に紹介しているヨーロッパ近代美術館 (通称MEAM)。

そんな世界を代表する2大写実専門美術館が、提携したのは2015年のこと。
以来、写実絵画の2トップ同士で交流を続け、
ついに2018年に、まずはMEAMにて初となる交換展が実現されました。
その際、ホキ美術館コレクションの中から、選りすぐりの60点がMEAMへ!
初めて海外で公開されたホキ美術館コレクションは、
それはそれは、バルセロナの地にて大きな反響を起こしたそうです。

そして、2019年春。
今度はMEAMより、そのお返しとばかりに、
いま第一線で活躍するスペインの写実作家59名による59点が初来日!
現在、ホキ美術館で開催中の “スペインの現代写実絵画―MEAM” で、一挙公開されています。





対象物を写実的に描く写実絵画。
それだけに、日本人であろうが、スペインであろうが、
それほどまでに、大差はないだろうと思っていたのですが。
やはりお国柄というものが、それぞれあるよう。
スペインの写実絵画は、日本の写実絵画とは似て非なるものでした。




まず何と言っても、圧が強い!
日本の写実絵画が “静” なら、スペインの写実絵画は “動”。
全体的に日本の写実絵画は、どこか内向的で、
作品の前に立つと、その世界にスーッと引き込まれるような印象を受けます。
対して、スペインの写実絵画の作品の前に立つと、
画面から溢れる熱いパッションのようなものを浴びせられるような印象。
“奥へ奥へ” の日本に対し、“前へ前へ” のスペインといったところでしょうか。

そんなスペインの写実絵画の中で、とりわけパワーを感じたのが、
ゴルチョ (本名ミゲル・アンヘル・マヨ) の 《眠らない肖像》 という作品です。




老人の生首がゴロンと横たわる、強烈なインパクトの一枚。
こちらに向かって、今にも何かを訴えてきそうな迫力があります。
これが日本の怪談話なら、老人のセリフは 「お前だー!」 で決まりでしょう。
作品全体から近づきがたいオーラがびんびんに発せられていますが。
勇気を出して近づいてみると・・・




画面に大きな傷が走っていたり、
表面がボロボロになっていたり、ダメージ加工 (?) されているのがわかります。
ゴルチョの作品以外にも、画面の表面が特徴的なものがチラホラありました。




日本の写実絵画では、あまり見られない表現。
これもまたスペイン写実絵画の一つの特徴といえそうです。


さてさて、今回の出展作品の中で、
個人的にお気に入りのものをいくつかご紹介いたしましょう。
まずは、ハイメ・ヴァレロの 《ポートレートNo.5》


ハイメ・ヴァレロ 《ポートレートNo.5》 2013年 MEAM


ここ近年は、水に包まれる、水と触れ合う肖像画の制作に挑んでいるという彼の渾身の一枚です。
残念ながら、画像ではほとんど伝わりませんが、
実物は、もっとウエッティーで瑞々しい印象を受けます。
まさに、水も滴るイイ女です。
ゴルチョの作品の老人同様に、この女性も何かを強く訴えているようでした。
「シャワーの温度が上がらないんだけど!」 でしょうか。


訴えかけるといえば、ダヴィッド・ナイローによるこちらの作品も。




タイトルは、《私に話しているのかい!!??》
いやいや、何もそこまでビックリしなくても。
“うわ~・・・途中から全然話聞いてなかった・・・”
そんな焦りが見て取れるようです。


スペインの写実絵画は “動” の印象とは言いましたが、
中には、もちろん “静” のイメージで描く作家もいました。
その代表的な人物が、カルロス・モラゴです。


カルロス・モラゴ 《版画工房》 2013年 MEAM 


描かれているのは、誰もいない版画工房。
誰もいないはずなのに、
どこからともなく、版画を刷る作業の音や職人の話声が聞こえてくるような。
実に不思議な作品でした。


ちなみに。
現在、ホキ美術館のギャラリー1では、
昨年秋のMEAMでの展覧会で先行して公開されたホキ美術館の代表作家の新作も公開されています。




日本とスペイン。
写実絵画界の2強、夢の競演!
絶対に見逃せない戦いがホキにはある。
星星




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ある編集者のユートピア 小野二郎:ウィリアム・モリス、晶文社、高山建築学校

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現在、世田谷美術館で開催されているのは、
“ある編集者のユートピア 小野二郎:ウィリアム・モリス、晶文社、高山建築学校 という展覧会。


(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております)


小野二郎と聞いて、オバマ大統領に寿司を握ったあの職人さんが、頭に浮かびましたが。
どうやら今回の展覧会でフィーチャーされているのは、同姓同名の別の人物。
編集者にして、研究者、教育者、
さらには、思想家でもあったという小野二郎 (1929~1982) が今展の主役です。

展覧会は、全3部で構成されています。
まずは、小野二郎の活動に大きな影響を与えた人物、
19世紀イギリスを代表するデザイナー、ウィリアム・モリスにまつわるコーナーから。




デザイナーとしてのモリスだけでなく、
社会主義者としてのモリスの姿勢に強く感銘を受けた小野二郎。
モリスの構想したユートピア思想を、彼はその生涯をかけて追い求めたのだそうです。
その活動の一環として、小野はモリスに関する書籍を多く出版しています。
モリス研究家ではなく、モリス主義者。
そう自称する彼がいなかったら、日本でのモリスの知名度はもっと低かったかもしれません。


第2部で紹介されているのは、サイのマークでお馴染みのあの出版社。




東大駒場の同期であった中村勝哉氏とともに、
1960年に小野二郎が創業したのが、今なお続く晶文社です。
ベンヤミンやニザンといった哲学者によるお堅い本から、
ジャズやロック、映画といったサブカルチャーを取り上げた本まで。
幅広いジャンルの書籍を出版し、出版界に少なくない影響を与えたという晶文社。
そんな晶文社の書籍を中心に、
会場には、小野二郎に関係する書籍が、ズラリと一堂に会しています。





残念ながら、手に取って読むことは出来ませんでしたが、
思わず読んでみたくなる目を惹く書籍がいくつもありました。
個人的に一番気になったのは、1981年に発行された 『就職しないで生きるには』。
それは、確かにある意味で、ユートピア!
ニートという言葉がまだない時代に、
そんな本が出版されていたとは、驚かされました。


さてさて、第3部で紹介されていたのは、
飛騨高山にあるセルフビルドを学ぶ私塾、高山建築学校です。





毎年、夏に約1か月ほど開校する完全合宿制のセミナーで、
建築学生だけでなく、普通の会社員が参加することもあるかなり自由な校風とのこと。
その授業もかなり自由なもので、建築に限らず思想や哲学の講義もあったのだそう。
小野二郎も、高山建築学校に講師として招かれた人物の一人。
彼が髙山の地で語ったユートピアの思想は、
生徒はもちろん、講師陣にも大きな影響を与えたのだとか。
そのため、52歳という若さで小野が急逝すると、初代校主の倉田康男が、
彼を偲んで、《モリス・テーブル》 なるものを制作したとのこと。


小野二郎を記念した 《モリス・テーブル》 を囲み談笑する高山建築学校の講師たち左から倉田、丸山、大江、木田の各氏【杉全泰氏提供】


展覧会場のラストには、その実際の 《モリス・テーブル》 が展示されていました。




素材といい、色合いといい、フォルムといい。
テーブルというよりは、まるでお墓のよう。
なんだか妙にしんみりしてしまいました。
もし小野二郎が、あと20年、いや10年でも長生きしていたら、
出版や建築の分野を通じて、ユートピアの思想がもっと根付いていたのではないでしょうか。
星





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北斎のなりわい大図鑑

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現在、すみだ北斎美術館では、
“北斎のなりわい大図鑑” という展覧会が開催中。


(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております)


江戸時代の生業、つまり、江戸時代の職業に注目し、
北斎とその弟子たちが描いた作品の数々を紹介する展覧会です。





例えば、こちらの 《冨嶽三十六景 尾州不二見原》 という一枚。




ついつい桶の向こうに小さく描かれた富士山に注目してしまいがちですが。
桶職人に注目してみると、槍鉋をかける工程が実にリアルに描かれているのがわかります。
それから、桶の下にもご注目!
木槌がかませてあります。
これは、桶が転がらないのを防ぐためなのだとか。
確かに、この木槌がなかったら・・・・・




ラートみたいなことになりかねませんよね。


また例えば、《冨嶽三十六景 東海道江尻田子の浦略図》 という一枚。




やはり富士山や波の表現に、目が向かいがちですが。
画面手前には、波と格闘しながら、漁に勤しむ人々の姿がリアルに描かれています。
さらに、画面の奥に注目してみると・・・




塩田で働く人々、江戸時代の 「塩軍団」 が、
まるで粒塩のごとく描かれているのが見て取れます。
職業に注目することで、北斎の浮世絵がこれほど新鮮に感じられるとは!
切り口の妙が光る展覧会。
学芸員という “なりわい” の重要性を改めて感じる展覧会でした。
星


さてさて、今回の展覧会の目玉作品となるのは、
すみだ北斎美術館コレクションに新たに加わった肉筆画 《蛤売り図》




絵には、「蜆子 (しじみ) かと思いの外 (ほか) の蛤は げにぐりはまな思ひつき影」 という賛があります。
『ぐりはま』 とは、江戸時代の言葉。
蛤の貝殻は、もともと一緒だった殻同士でないとピッタリと合いません。
そこから、蛤という言葉を業界用語風に逆にした 『ぐりはま』 が、
ピッタリ合わない、食い違うという意味で使われるようになったのだとか。
さてさて、それを踏まえて、賛をざっくり訳すと、
「蜆かと思ったら蛤だったなんて!まさに、『ぐりはま』 だぜと思ったよ」となります。




ところが、何ともややこしいことに、
この 《蛤売り図》 は、ここ最近まで、シジミ売りを描いた絵だと思われていたとのこと。
「シジミ売りかと思ったら、蛤売りだったのかい!」
そんな賛があるシジミ売りの絵と、長年勘違いされていたのだそうです。
あまりにややこしすぎて、
正直なところ、蛤でもシジミでもどっちでもよくなってきました (笑)


展覧会では、他にも珍しい職業が多数紹介されています。
特に印象的だったのは、留女 (とめおんな)




旅人を強引に引き留め、宿に連れ込もうとする職業なのだそう。
旅人のうちの一人は、荷物をガッツリ掴まれています。
歌舞伎町のキャッチよりも、たちが悪いです。

それと、もう一つ印象的だったのが、唐辛子売り。




張り子の巨大な唐辛子を肩からかけ、売り歩く職業とのこと。
この張り子の中に、粉唐辛子の小袋が入っているのだそうです。
ちなみに、下積み時代の北斎は、生活費を稼ぐために、唐辛子売りをしていたのだとか。
世界のHOKUSAIにも、スパイシーな過去があったのですね。




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第百七十五話 国宝ハンター、絶句する!

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前回までのあらすじ~

世の中には2種類の男しか居ない。
国宝ハンターか、国宝ハンター以外か。
その国宝ハンターのほうに含まれる男・とに~は、
これまでに日本全国にある国宝1119件のうち、1009件の国宝をハンティング。
ゴールまであと110件!
宇宙から見える唯一の国宝ハンターは、今日も日本を駆け巡る!



令和初の国宝ハンターの旅は、奈良県の壺阪山駅からスタートしました。




ここから歩いて15分ほどの距離にあるのが、キトラ古墳壁画体験館 「四神の館」。
平成最後に国宝に指定された 《キトラ古墳壁画》 (ジャンル:彫刻) を保存する施設です。




もともとは、当たり前ですが、キトラ古墳内の石室に描かれていた 《キトラ古墳壁画》
しかし、2013年に、保存の観点から、丁寧にぺリペリペリっと漆喰ごと剥ぎ取られました。
以来、キトラ古墳壁画体験館 「四神の館」 内で大切に保存されています。

《キトラ古墳壁画》 は、普段は公開されていませんが、
年に4回ほど、1日700名程度限定、事前申込制で公開しています。
(定員に達していない場合、当日受付あり)
今回は、その令和一発目となる公開のタイミングに合わせての訪問です。

まずは、地階部分へ。
こちらのスペースでは、キトラ古墳に関するあれこれが、
レプリカやパネル、映像などでわかりやすく紹介されています。




「天井に描かれた中国式の天文図は、現存する世界最古の例である」 とか、
「四神の図像全てが揃う古墳壁画は、日本ではキトラ古墳壁画だけ」 とか。
キトラ古墳について、たっぷり詳しくなったところで、いよいよ壁画展示室へ移動します。
壁画展示室は写真撮影不可。携帯電話の使用不可。
見学可能な時間は10分。
10分経つと、アラームが鳴り、強制的に退出となります。

今回、壁画展示室に展示されていたのは、
ガラス小玉などのキトラ古墳出土品と、青龍が描かれた東壁。
東西南北の4つの壁の中で、もっとも東壁が劣化が激しいのだそう。




・・・・・・・。

青龍の姿は、ほとんど確認できませんでした。
かろうじて、ベロンと伸びたベロが確認できるくらいです。
東壁の左下部分に描かれた獣頭人身の十二支のうちの寅の姿は確認できたので、まぁ良しとしましょう。




ところで、《キトラ古墳壁画》 は、国宝にも指定され、
保存や公開のための専用の立派な施設まで建設されたわけですが。
肝心のキトラ古墳そのものは、どうなっているのでしょう?
最後に、歩いてすぐの位置にあるキトラ古墳を訪れてみることに。




想像していたよりも、キトラ古墳の見た目はシンプルでした。
そして、《キトラ古墳壁画》 と比べると、紹介もサラッとしたものでした。
キトラ古墳壁画体験館 「四神の館」 には、あんなにも人がいたのに。
キトラ古墳には、僕以外誰もいませんでした。
お目当ての中身を取ってしまったら、外身はその辺にポイッ (←?)。
まるでビックリマンシールだけ取って、ビックリマンチョコを捨てる。
それに近いものを感じました。


キトラ古墳をあとにし、お次は西大寺へ。
その名前からピンと来た人もいらっしゃるでしょうが、
奈良県を代表する古刹・東大寺と、双璧を成すお寺です。




そんな西大寺の聚宝館なる施設に、まだ見ぬ国宝があるのですが・・・・




明らかに、閉まってます!!

・・・・・いやいや、落ち着け。
確かに、これまで何度か公開日を勘違いするケースはありました。
しかし、人は成長するもの。
同じ失敗は繰り返さないのです。
そんなうっかり野郎は、平成で卒業しました。
令和からの国宝ハンターは、一味違うのです。
その証拠に、ほらこの通り。


(↑西大寺の公式HPの一部をキャプチャしたものです)


聚宝館の開館日は、ちゃんとチェック済。
僕が西大寺を訪れたのは、5月21日。
公開期間内に、余裕で含まれています。
つまり、聚宝館が閉まっているわけがないのです。
きっと他に入り口があるのでしょう。



・・・・・・・・・・が、周囲をぐるりと探索するも、他に入り口らしき場所はなし。
一体どういうことなのでしょう(汗)??
しばらく境内を歩いていると、本堂の近くで、こちらの看板を発見。




その一部に、目が吸い込まれました。




えっ?はっ?どういうこと?!

慌ててお寺の人を捕まえ、事情を聴いてみることに。
すると、こんな答えが返ってきました。

「あらぁ。これはHPのほうが間違ってるわ」
「・・・・・(絶句)」


神も仏もないとは、まさにこのこと。


今現在の国宝ハンティング数 1010/1119




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サムライ・ダンディズム 刀と印籠

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現在、東京富士美術館で開催されているのは、
“サムライ・ダンディズム 刀と印籠 ─ 武士のこだわり” という展覧会。
武士が身に着ける2大オシャレアイテムにスポットを当てた展覧会です。


(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております)


まず紹介されているのは、日本刀。
東京富士美術館が所蔵する名刀の数々が、展覧会の冒頭を飾ります。




東京富士美術館で日本刀といえば、3年前にも大規模な刀剣展が開催されていましたが。
刀身の美しさそのものにフォーカスした3年前の展覧会と違って、
今回の展覧会では、鞘や鍔、柄といった拵 (こしらえ) も併せて紹介されていました。




カモフラ柄っぽい下げ緒があったり。
メタリックなワインレッドの鞘があったり。
思いのほか、現代の感覚から見ても、十二分にオシャレなものでした。
確かに、ダンディズムでござる。


展覧会は、全4章で構成されていますが。
日本刀がフィーチャーされているのは、第1章のみ。
残りの3章で紹介されているのが、武士のもう一つのオシャレアイテム、印籠です。




今展に出展されている印籠の数は、なんと235点!(会期中入替あり)
東京富士美術館が所蔵する印籠だけでなく、
日本各地から名品とされる印籠の数々が集結しているのだそう。
江戸時代にその名を轟かせた印籠の名工による名品から、
明治工芸界のスーパースター柴田是真や白山松哉が制作した印籠まで。
担当学芸員さん曰く、おそらく質・量ともに過去最大規模の印籠が集まっているとのこと。
印籠ファンにとっては、まさに夢の競演。
印籠アベンジャーズ勢ぞろいです。
星星


ところで、そもそも印籠とは、一体何なのでしょうか?
「印」 という字から、かつては印籠入れだったという説もあるそうですが。
江戸時代においては、薬入れ、つまりピルケースとして使われていたそうです。
その証拠となるのが、こちらの2つの印籠。





左の印籠の中からは、収納している薬のラベルが、
右の印籠の中からは、実際に薬そのものが、それぞれ発見されたのだそうです。
さて、薬を保存するということは、
空気が入り込まない密閉された容器でなければなりません。
なおかつ、性質上、すっと取り出し易くなくてもなりません。
つまり、1㎜の狂いもなく制作するという超絶技巧な職人技が必要となるのだそう。
さらに、オシャレな武士にとって、腰からぶら下げる印籠は、こだわるべきオシャレアイテム。
豪華絢爛な蒔絵の外装をオーダーメイドしたのだとか。
そのため、こんな小さなサイズにも関わらず、
印籠の完成までに、数か月から半年かかるのが通例だったそうです。
印籠が、そんなにも技術と贅を尽くしたものだったとは。
あの紋所が目に入らなくても、思わず 「ははぁ~」 となってしまいました。

そうそう。
紋所といえば、家紋がデザイン印籠もあるにはあるそうなのですが。
それは、全印籠のごくごく一部とのこと。
しかも、葵の御紋がドーンと配置されたあの感じではなく・・・




ルイ・ヴィトンのモノグラムのように、
オシャレに配置されているものがポピュラーだったそうです。
ルイ・ヴィトンのモノグラムが、日本の家紋をモチーフにしているのは有名な話ですが。
もしかしたら、デザイナーは、家紋がデザインされた印籠を目にしていたのかもしれませんね。


さてさて、今回出展されていた印籠の中で、
特に印象に残っている印籠の数々をご紹介いたしましょう。
まずは、幕府御用蒔絵師だった幸阿弥長孝による 《格子投蒔絵印籠》 から。




スタイリッシュで、普通に 「欲しい!」 と思いました。
バーバリーで売られていても、全く違和感ありません。


続いては、《松梅蒔絵印籠》




表面に、高蒔絵で松と梅が表されています。
そして、印籠そのものは竹製。
松竹梅の揃い踏みです。
一般的な印籠と違って、側面がパッカーンと開くタイプ。
その中には、小さな引出5段が収められていました。
会場には超絶技巧の印籠が多く紹介されていましたが、その中でも屈指の超絶技巧ぶり。
超超絶技巧です。


超絶技巧といえば、富山地方に発達した漆工芸の一種で、
青貝に金銀の切り金を交えた精緻な細工、創始者の名を取って杣田細工も印象的でした。




真っ黒い画面に浮かび上がる赤や緑、青の光。
まるでチームラボの作品を観ているかのようでした。
そういう意味では、若い女性にも受けそうな印籠です。


他にも、なんとなく、とらやの紙袋を連想される印籠や、




地図がデザインされた実用性も兼ね備えた (?) 印籠、




印籠の表面に馬がビッシリ・・・なのに、
「根付は牛なのかよ!」 とツッコミたくなるパターンなど、




印象に残った印籠は多々ありましたが、
最も強く印象に残ったのは、幕府御用印籠師・山田常嘉 (六代) の 《比翼鳥蒔絵印籠》 という印籠。




完全に、すかいらーくでした。




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シュルレアリスムとダリ〜幻想と驚異の超現実〜

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日本最大級、いや、アジア最大級のダリ美術館である諸橋近代美術館が、
福島県の裏磐梯高原の地にオープンして、今年でちょうど20年目となりました。




それを記念し、計3回にわたって、開館20周年企画展が予定されているとのこと。
そのスタートを飾るのが、現在開催中の展覧会、
“シュルレアリスムとダリ〜幻想と驚異の超現実〜” です。


(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております)


諸橋近代美術館では、これまでにも何度か、
「シュルレアリスムとダリ」 というテーマで展覧会を開催しているそうなのですが。
今回は、そのスペシャル版。
展示フロアを全部使って、「シュルレアリスムとダリ」 の関係性を掘り下げています。

展覧会は、全4章で構成。
まず第1章では、ピカビアの作品をはじめ、


フランシス・ピカビア 《アンピトリテ》 1935年頃 広島県立美術館館蔵


シュルレアリスム前夜ともいうべき、ダダイスムの作家の作品が紹介されています。




第一次世界大戦が勃発し、戦禍を目の当たりにした若き芸術家たち。
大きなショックを受けた彼らは、
それまで当たり前に存在していた宗教や社会の常識、つまり 「現実」 に懐疑の念を抱くように。
やがて、「現実」 を破壊するような作品を制作していきました。
それが、ダダイスム。

しかし、破壊だけでは何も生まれません。
それどころか最終的には何もなくなってしまいます。
そこで次に誕生した芸術が、シュルレアリスム。
もっと深いところにあり、誰にも破壊できない 「現実」= 「超現実」。
そう、人間の無意識の世界を描こうと試みたのです。

第2章では、そんなシュルレアリスムを代表する画家たちを紹介。
エルンストやミロ、デルヴォーといった、
シュルレアリスム界のスーパースターの作品が勢ぞろいしています。
もちろんシュルレアリスムといえば、マグリットは外せません。
今展では、諸橋近代美術館史上最大となる4点のマグリットの油彩画が出展されています。




ダリとマグリット。
開館20周年企画展ならではの豪華な競演をお楽しみくださいませ。


さて、続く第3章で、いよいよダリにスポットライトが当たります。
グループの発足以来、無意識の世界を描くために、
無意識の状態を意図的に作り出し、制作に励んでいたシュルレアリスムのメンバーたち。
そこに、一人の男が途中加入します。
それが、ダリ。
彼は自ら編み出した 「偏執狂的=批判的方法」 というスタイルで、一躍グループの中でスターに!


マン・レイ 《シュルレアリストのグループ》 1930年/モダン・プリント 岡崎市美術博物館蔵


こちらは、その頃に撮影された写真なのでしょうか。
途中加入メンバーとは思えないほど、どセンターで写っています。
もはや、ダリとその仲間たち状態 (笑)

ところで、「偏執狂的=批判的方法」 とは、一体どんなものなのでしょうか?
簡単にいえば、妄想や幻想といった無意識化にあるイメージを、
あくまでも意図的に、あえて意識的にビジョン化する方法のことです。

“・・・・・それって、無意識化で制作してないから、シュルレアリスムじゃなくない?”

そう疑問に思った方は、鋭いです。
まさに、それ。
最初は、ダリの画期的なスタイルに一目を置いていた、
シュルレアリスムのオリジナルメンバーたちも、徐々に疑問を持つように。
くわえて、政治的思想の不一致、拝金主義的になっていくダリの態度に、メンバーの不満が爆発!
1934年に、ダリの処遇を問う公開裁判、いわゆる “吊し上げ” がグループ内で行われたのだそうです。
ちなみに、その際に、ダリは体調不良を装い、
あえて何十枚もセーターを着こんでいったのだとか。
そして、リーダーであるアンドレ・ブルトンに叱責されるたび、
1枚ずつ脱ぐというパフォーマンス (?) をして、より反感を買ったとのこと。
さすがは、ダリ (笑)
そのこともあって、1938年にはついに除名処分を受けることとなったのです。


なんとシュルレアリスムをクビ (?) になっていたダリ。
しかし、今ではむしろシュルレアリスムの画家の代名詞として定着しています。
一体、なぜ?
その答えは、展覧会のラストを飾る第4章で明らかになります。





実は、ダリは他のシュルレアリスムの画家よりも先に、ニューヨークに出入りしていたのだそう。
そこで、積極的にメディアに露出し、
自分がシュルレアリスムの代表格であると、大々的にアピールし続けたのだそうです。
なお、除名から4年後に出版された自伝にも、ちゃっかりこんな一文が。




シュルレアリスムのオリジナルメンバーからすれば、たまったものではないですが。
皮肉にもダリという広告塔がいたおかげで、
アメリカでのシュルレアリスム画家たちの社会的地位は高まったのだとか。
ムカつくけど憎めない。
それが、ダリ。
ダリのことがちょっと嫌いになって、ちょっと好きになる展覧会でした。
星星


そうそう、今展に出展されていたダリ作品の中で、
特に印象に残っているのは、画面中央のコラージュ作品です。
(注:大人の事情により、接写していません。あしからず)




こちらは、もともとはオーダスという香水の広告として制作されたもの。
香水瓶の写真や 「Audace」 の文字が画面の右下に配置されています。
もっとも目立つ中央部に、貼り付けられているのは、なんとシャネルの香水瓶の写真。
それ、ライバル社のヤツ!
ちなみに、タイトルは、《大胆な試み》 とのこと。
・・・・・・・大胆にもほどがあります。



最後に、告知を。

【イベント】アジア最大級のダリ美術館 20周年記念トークショー「ダリナイト」20世紀を代表する芸術家、ダリは世界屈指の中2病!?やはり天才!?

が、いよいよ6月4日に迫りました。
大野学芸員のダリ愛を引き出すべく、こんなコーナーを用意しています (笑)




どうぞお楽しみに♪
皆さまのご来場を心よりお待ちしております。




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はじめての古美術鑑賞 絵画のテーマ

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“ドジっ娘はトーストをくわえて登校する” や、
“崖やビルの上で、事件の真相を告白する” など、
漫画やドラマの世界に、たくさんのお約束があるように。

“貴族の女性が雪玉で遊んでいるなら、それはきっと『源氏物語』 のワンシーン” や、


土佐光起 《源氏物語朝顔図》(部分)  絹本着色 日本・江戸時代 17世紀 根津美術館蔵


“中国の儒学者・周茂叔は、蓮とセットで描かれがち” など、


重要美術品 伝小栗宗湛 《周茂叔愛蓮図》(部分)  紙本墨画淡彩 日本・室町時代 15−16世紀


日本の古美術の世界にも、たくさんのお約束があるようです。
そんな日本絵画におけるテーマ (画題) の数々を紹介してくれるのが、
現在、根津美術館で開催中の展覧会、“はじめての古美術鑑賞 絵画のテーマ”
観るだけで、古美術の鑑賞レベルがアップする展覧会です。


(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております)


タイトルに、“はじめての” とはありますが。
決して、初心者のためだけの展覧会ではありません。
日本美術が好きな人の3割しか知らないことを教えてくれるので、中級者や上級者にもオススメ。
ハナタカさんになれること請け合いです。
星


例えば、こちらの水墨画をご覧ください。


伝馬遠 《林和靖観梅図》  絹本墨画淡彩 中国・元時代 14世紀 根津美術館蔵


画面右側に、ハットリくんの頭巾みたいなのをかぶった男性が描かれています。
彼は、一体何者なのか。
名札など付いていないので、特定するのは不可能なような気がします。
しかし、実は、絵の中に十分なヒントが描かれており、
その正体を北宋の詩人・林和靖と特定できるのだそうです。
20年間、深い山でひっそりと孤独に暮らした林和靖。
彼は、庭に梅を植え、鶴を飼っていたとのこと。
確かに、この絵の中には、梅も鶴も描かれていますね。
ちなみに、梅と鶴をこよなく愛した林和靖は、
尋ねてきた役人に対して、こんな発言をしたのだそう。
「梅が妻、鶴が子」。
今風に言えば (?)、「梅は俺の嫁。鶴は俺の娘」 ですね。


また例えば、こちらの伝牧谿の 《蘆蟹図》 をご覧ください。


伝牧谿 《蘆蟹図》  絹本墨画 中国・元~明時代 14世紀 根津美術館蔵


一見すると、蟹と蘆 (あし) が描かれただけの何の変哲もない絵ですが、
実は、この絵には、「合格祈願」「学業成就」 の願いが込められているのだそうです。
かつて中国には、科挙というエリート官僚を選抜する試験がありました。
その上位の合格者は、上から甲、乙、丙と振り分けられます。
トップオブトップである甲に選ばれるのは、たった3名のみ。
甲と言えば、甲羅。甲羅と言えば、蟹。
そう。蟹の絵には、そんな甲への合格祈願の意味が込められているのだとか。
また、科挙の合格者を読み上げる儀式を、伝臚 (でんろ) というのだそうで、
そこから、伝臚の 「臚」 と同じ発音の 「蘆」 が描かれるようになったとのこと。
・・・・・・・・って、連想が回りくどいにもほどがあります。

“蟹と蘆・・・・・あぁ、なるほど!甲と伝臚を掛けているのか!”

そんな風にノーヒントでわかるヤツは、そもそも余裕で科挙に合格できるはずです。


ちなみに。
今回出展されていた中で、特に印象に残っているのが、伝牧谿の 《猿猴図》 という一枚。



伝牧谿 《猿猴図》(部分)  絹本墨画 日本・江戸時代 17世紀 根津美術館蔵


猿・・・なのかも、イマイチ定かではない謎の生物が描かれています。
そして、その表情は、完全に死んでました。
見れば見るほど、逆にこちらの精気を奪われるようでした。
こっちみんな!


表情と言えば、《朱衣達磨図》 も印象的な一枚でした。


江月宗玩賛 《朱衣達磨図》(部分)  絹本着色 日本・室町時代 16世紀 栃木・長林寺蔵


坊主っぽい頭といい、赤系統の服といい。
三遊亭好楽を彷彿とさせるものがあります。
そして、その表情は、大喜利の回答をしたあとのドヤ顔を彷彿とさせるものがありました。

といったところで、本日のブログはお開き。また明日。


 ┃会期:2019年5月25日(土)~7月7日(土)
 ┃会場:根津美術館
 ┃http://www.nezu-muse.or.jp/jp/exhibition/index.html






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クリーニング屋アートの世界2

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なぜ、かくもクリーニング屋の店先には、
独特なセンスのイラストが使われていることが多いのか?

そんな疑問から、クリーニング屋のアートに注目して、早半年。
密かに街中で採集していたものを、
前回、“クリーニング屋アートの世界” として紹介いたしました。
しかし、その記事で紹介できたのは、採取したうちのほんの一部。
まだまだ街中には、珠玉のクリーニング屋アートがあるのです。
そこで今回は、採取したてホヤホヤの新作も含めた第2弾をお届けいたします!
たっぷりとクリーニング屋アートの世界をお楽しみくださいませ。


~ゲシュタルト崩壊するクマ~ (豊島区で採集)




パッと見は、なんとも可愛らしいキャラクターなのですが。
しばらく見ていると、心が妙にざわつきます。
首無くない?耳デカくない?
手がドラえもんみたくなってない?
手と足の大きさのバランスがおかしくない?
というか、腕の生え方おかしくない?
不安がシミのように広がっていきます。


~伸び続ける耳?~ (福井県で採集)





こちらも、パッと見は、なんとも可愛らしいキャラクター。
しかし、気になるのが、耳。
先端部分がグレーになっています。
・・・・・どういうこと?
もしかして、人間の爪のように耳が伸びていって、
ある一定の長さを超えると、細胞が死んでグレーになるのでは?
怖っ。
もう一つ気になるのは、胸元の 『u』 の一字。
もしかして、タトゥー?それとも、痣?
怖っ。


~ダンサブルなシャツ~ (府中市で採集)




ズンチャチャズンチャ タラタタターン!
シャツなのに、ダンスがキレッキレです。
その激しい動きが原因なのでしょうか。
ボタンは上半分3つしか残っていないようです。


~できれば隠したい?~ (豊島区で採集)

以前、あるクリーニング屋の前を通った時、
なかなかインパクトのあるイラストと遭遇しました。
その日は急いでいたため、別の日に改めて訪問。
すると・・・




あのイラストは、無くなっていました。
もしかして、僕が見たものは幻覚だったのか・・・と思ったら。
その面を隠すように、看板が設置されていただけでした。




荻野目ちゃんと若き日の黒柳徹子。
2人を足して2で割ったような女性が、謎のポーズを決めています。
チラ見せのインナーは、プロゴルファー猿を彷彿とさせるものがありました。


~どっちが本物?~ (豊島区で採集)




上の看板、手前の看板。
それぞれにキャラが描かれているのですが、
よく見ると、鼻の形や耳の大きさ、口の開け方など、それぞれが微妙に違います。
ミッキーに寄せている上の看板のほうも、
ファサファサした前髪を持つ手前の看板のほうも、それぞれ心をザワつかせるものがありました。
一体、どっちが正式なキャラクターなのでしょう?
ちなみに、こちらのクリーニング屋さん。
看板だけでなく、店先に貼られたイラストも、心をザワつかせてくれます。




特に 「満足してますか?」 のほう!
こんな服を着こなせるのは、楠田枝里子くらいですよ。


~空を見上げりゃおふくろさん~ (府中市で採集)




家庭では出来ないプロの洗濯を行ってくれるのが、クリーニング屋さんの売りのはずなのに。
むしろ、家庭的であることを前面に押し出しています。
そもそも、このおふくろさんは、洗濯が上手なのでしょうか。
料理は得意そうですが、特に洗濯が得意なようには見えません。。。
ちなみに、クリーニング工場ではなく・・・




どうやら川で洗濯しているようです。
戦前か!



いやぁ、クリーニング屋アートって、本当にいいもんですね~。
それではまた、ご一緒に楽しみましょう。




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板橋区美×千葉市美 日本美術コレクション展―夢のCHITABASHI美術館!?

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板橋区立美術館と千葉市美術館。
どちらも古美術コレクション、特に江戸美術コレクションに定評のある美術館です。
そんな2館のコレクションがコラボした展覧会が、
たったの23日限定で、千葉市美術館で開催されています。
その名も、“板橋区美×千葉市美 日本美術コレクション展―夢のCHITABASHI美術館!?”




・・・・・夢の?誰にとって?
というか、CHITABASHIって何!?

と、いくつか気になるところはありましたが (笑)
そこはグッとこらえて (?)、美術館の中へ。
すると、板橋区立美術館名物のアレがお出迎えしてくれました。





そう。「永遠の穴場」 や 「入っても、すごいんです。」 など、
数々のキラーフレーズを生み出してきた板橋区立美術館の幟です。
ちなみに、館内入り口だけでなく、展示室内にも幟は点在していました (笑)


(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております)


板橋区立美術館ファンにはたまらない演出。
まさに “夢の” 光景といえるでしょう。
なお、余談ですが、展覧会担当の学芸員さんより、
「とに~さんのあの記事も参考にしています」 と仰っていただけました。
こういう形でお役に立てて何よりです (笑)


さてさて、展覧会は全部で4つの章で構成されています。
まずは、『江戸琳派とその周辺』
江戸琳派の祖として知られる酒井抱一の作品を中心に、




その弟子である鈴木其一の作品、




さらに、そのまた弟子である絵師たちの作品が紹介されています。




この章の目玉は何と言っても、鈴木其一の 《芒野図屏風》




銀地にパターン化されたススキが配置されたシンプルかつスタイリッシュな作品です。
どこか、尾形光琳の国宝 《燕子花図屏風》 を彷彿とさせるものがあります。
他館からの貸出オファーが後を絶たない、
千葉市美術館コレクション屈指の人気作品なのですが。
ここ最近は作品保護の観点から、展示を控えていたのだとか。
しかし、今回は板橋区立美術館とのコラボ展とのことで、
展覧会期間中フルで、展示することに決めたのだそうです。
いぶし銀の魅力を目の当たりにできる貴重な機会を、どうぞお見逃しなく!

また、もう一つの目玉といえるのが、
板橋区立美術館のマスコットキャラともいうべき、抱一作の 《大文字屋市兵衛》 です。





描かれているのは、大文字屋市兵衛。
吉原にあった遊郭・大文字屋の初代社長です。
いくらなんでも、ご飯がススムくんみたいな輪郭なわけないだろ・・・と思ったのですが。
なんでも、大文字屋市兵衛は、「かぼちゃ元成」 と呼ばれていたそうな。
どうやら本当にこういう輪郭だったようです。

ちなみに、この章で特に印象に残っているのは、山本光一の 《狐狸図》





狐の目元が、アヴリル・ラヴィーン。


さてさて、続く第2章は、名前からして面白そうな予感がプンプンする 『ちたばし個性派選手権』
雪村や英一蝶など、個性のクセが強い絵師たちの作品が集結しています。





その中で特に見逃せないのが、加藤信清の 《五百羅漢図》




一見すると、ただの羅漢図ですが。
近づいて観てみると、あらビックリ!!




線ではなく、文字で描かれているではないですか。
これらは、ちゃんと経文になっているのだそう。
なお、画面全体にビッシリ描かれた文字は、なんと10万文字とのこと。
気の遠くなるような作品です。


今展のハイライトともいうべきは、第3章。
『幕末・明治の技巧派』 と題して、
板橋区立美術館、千葉市美術館それぞれの “推し” の作家にスポットが当てられています。
板橋区立美術館からは、空前絶後超絶怒涛の漆作家・柴田是真が、


(↑額の中の絵が漆で描かれているのはもちろんのこと、額に見える部分、つまり木目も、実は漆です!)


千葉市美術館からは、特に孔雀の絵を得意とし、「孔雀の秋暉」 と呼ばれた岡本秋暉と、




あのクリムトも大ファンだったという絵師・小原古邨の作品がまとまった形で出品されています。




特に小原古邨は、今もっともキテる絵師。
今年2、3月に太田記念美術館で開催された個展には、
入場規制がかかるほどに、多くの日本美術ファンが詰めかけたそうです。
そんな、まさに “ボクらの時代” な旬の絵師3人の競演。
このコーナーだけでも、千葉市美術館を訪れた甲斐がありました。
星星


さてさて、展覧会のラストを飾るのは、『江戸の洋風画』
小田野直武や司馬江漢らによる、こってりねっとりした江戸時代の洋風画が一堂に会しています。




特にインパクトが強かったのが、石川大浪・孟高の兄弟。






兄の大浪が描いた五月女ケイ子風味な天使の絵も、
弟の孟高が描いた妙にカメラ目線なライオンの絵も、どちらもインパクト大。
この兄弟の作品で展覧会が終わるので、
それまでに観た琳派や小原古邨などの作品の印象が、良くも悪くも消え去ってしまいました (笑)


ちなみに。
これだけ充実した展覧会ながら、入場料はなんとたったの200円でした!
あまりの安さに思考回路がうまく働かず。
この感動を人にどう伝えたらいいのかと考えていたところ、こんな幟が目に飛び込んできました。




それな ( ᐛ )σ




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トム・サックス ティーセレモニー

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プラダのロゴで便器を手作りしたり、
エルメスの包装紙でマクドナルドのバリューセットを手作りしたり。
手作りで既製品を作るアメリカの人気現代アーティスト、トム・サックス。
本人自身も開催を切望していたという日本での初個展が、
現在、東京オペラシティアートギャラリーにて開催されています。




その名も、“トム・サックス ティーセレモニー”
ティーセレモニー、つまり茶道をテーマにした展覧会です。
冒頭のシアターで30分に1回のペースで、映像作品が上映されているそうなのですが、
次の上映まで約20分ほど時間があったので、まずは展覧会場を観てしまうことにしました。




展示室に入っていきなり現れたのは、存在感のある謎のオブジェ。
どことなくイサム・ノグチっぽいなァ・・・と思ったら、ずばり正解!
イサム・ノグチの石彫作品をオマージュして制作した作品なのだそうです。
ただし、こちらは段ボール製。
見た目とは裏腹に、ずっと軽い作品なのです。
ちなみに、「古い伝統の真の発展を目指す」 というイサム・ノグチの姿勢に着想を得て、
トム・サックスは、ティーセレモニーを構成する一連の作品を制作するようになったのだとか。
まさに展覧会の出発点を飾るに相応しい作品です。


続いては、左にある小さな一室へ。
こちらは、ヒストリカル・ルーム。
トムがこれまでに制作した作品の一部が紹介されています。
兜的な何やらや、




レッドロブスター的な何やら、




棚にビッシリと収められた茶碗 (しかも、NASAの文字入り!) などなど、




実にシュールな作品の数々が展示されていました。
特にこれといった共通点はないのですが、
不思議と、一目でトム・サックスの作品だとわかります。




しいていえば、どの作品にもアメリカ臭が漂っています。
そして、どの作品もダサい。
と同時に、一周回ったカッコよさも感じられます。
DA PUMPの 『U.S.A.』 に匹敵するくらいのダサかっこよさです。

それを踏まえた上で (?)、メインとなる会場へ。
この門をくぐると、外露地・・・らしきエリアが待ち受けています。




そこには、石灯篭・・・らしきオブジェや、




腰掛待合・・・らしきスペース、




日本庭園には欠かせない池・・・らしきものが配置されていました。




その池の中を覗いてみると、




鯉・・・らしき・・・って、えっ?!マジで泳いでる!!
「そこは本物なんかい!」
トムの謎のこだわりです。


そんな外露地の先に広がっていたのは、もちろん内露地。




こちらには、つくばい・・・らしきものに、




松の木・・・らしきもの、




ティーセレモニーのメインスペースとなる茶室・・・らしきものが配置されています。





どれもこれも、いちいちツッコミどころ満載なのですが、
トム・サックスワールドに浸かりすぎて、免疫ができてしまったのでしょう。
茶室に辿り着く頃には、これはこれで、
そういうものなのだと、すっかり素直に受け入れている自分がいました。


この後も展覧会のラストまで、
トム・サックスによるクレイジーな茶道な世界は続くのですが。
むしろこっちの世界観に慣れ過ぎて、
普通の茶道の世界が思い出せなくなってしまったほどでした。
わびさび、って何かね?




僕としては、とても楽しかったですが。
トム・サックスが、〇千家の人に怒られないかだけが心配です (笑)


さてさて、時間になったので、冒頭のシアターへ。
こちらで上映されていたのは、茶会の準備からお点前まで、
トム・サックス自身が独自に解釈した茶会の様子を映した映像作品です。
この映像作品を観て初めて、会場に配置されていた謎のオブジェの意味が判明!
なるほど。そういう用途で使われるものだったのですね!
確かに、姿かたちや素材はヘンテコかもしれませんが、
実は、どのオブジェも茶道の形式には忠実に制作されていました。
間違いなく、僕を含むそこら辺の日本人よりも、
トム・サックスのほうが茶道の知識は深いようです。


そんな映像を観てから、改めて会場の作品を目にしてみると、
ふざけたYoutuber的アメリカ人がナンチャッテ茶道をしているわけでは、決してなく、
茶道の文化を取り入れて、それをトム・サックス流にアウトプットしているのが、よくわかりました。




正直なところ、最初にトム・サックスの茶筅を目にしたときは、
「茶筅にモーターを装備するだなんてwww」 と、鼻で嗤ってしまいましたが。
もし、現代に千利休が生きていたなら、
案外、この茶筅を見て、これは便利だと思うかもしれません。
『伝統を守る=新しく考えることを放棄する』 のではなく、
根っこの部分は大事にしつつ、アップグレードするところはアップグレードする。
それぞまさに、イサム・ノグチの言っていた 「古い伝統の真の発展を目指す」 ではないでしょうか。

そんな大切なことを、トム・サックスに教わった展覧会です。
結構なお手前でした。
星




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生誕110年 浜口陽三銅版画展 憧れ―伊豆と浜口陽三―

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今年2019年は、国際的に活躍した銅版画家・浜口陽三の生誕110年という節目の年。
それを記念して、現在、彼の個人美術館であるミュゼ浜口陽三ヤマサコレクションでは、
“生誕110年 浜口陽三銅版画展 憧れ―伊豆と浜口陽三―” という展覧会が開催されています。


(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております)


こちらは、展覧会のサブタイトルにあるように、
「伊豆と浜口陽三」 をキーワードにした展覧会です。

和歌山県に生まれた浜口陽三。
幼少期は、浜田家と関わりの深い千葉県銚子市で過ごし、
東京美術学校 (現・東京藝術大学) 中退後はパリへと渡航。
版画家として名声を得てからは、パリやブラジル、サンフランシスコで過ごしました。

・・・・・と、これらの情報はすべて、
浜口陽三のWikipedia欄に記載されていますが。
伊豆という地名に関しては、一切彼のWikipedia欄に登場していません。
しかし、Wikipediaもスルーする伊豆こそが、浜口陽三にとっての 「アナザースカイ」 だった?!
そんな新事実が明らかになる展覧会です。

東京美術学校中退後にパリへと渡航した浜口陽三は、その後、10年ほどパリに滞在しました。
しかし、第二次世界大戦を機に帰国。
フランス語が話せるという理由で、陸軍の通訳として、
フランス領だったラオスへと同行し、そこでマラリアに感染してしまいました。
命からがら日本へ帰国した浜口は、伊豆半島にある蓮台寺温泉へ。
病気療養のために約2年ほど滞在し、
その飾らない人柄で、地元の人々と親しく交流したのだそうです。

展覧会の冒頭で紹介されているのは、そんな蓮台寺滞在時代の貴重な作品の数々。
時に、細密で写実的な鉛筆画を描いたり、




時に、どことなくモンパルナスの画家の絵を彷彿とさせるパステル画を描いたり、




時に、どことなく岡崎京子の絵を彷彿とさせる90年代風のスタイリッシュな油彩画を描いたり、




さらには、これまで描いたことがなかった日本画にも挑戦してみたり。




蓮台寺の地にて、アーティストとして再起を図ろうとした浜口。
マラリアで療養していた期間を取り戻すべく、
実に貪欲なまでに、さまざまな作風にチャレンジしていたのです。
そんな試行錯誤の日々の中で、ついに出逢った表現が、銅版画。




つまり、蓮台寺は、国際的銅版画家・浜口陽三の誕生の地。
もし蓮台寺に滞在していなければ、
浜口陽三は美術史に名を残していなかったのかもしれないのです。

事実、パリで国際的に成功した後も、浜口は伊豆の地をたびたび訪れていたのだそう。
また、蓮台寺滞在時代に親交を深めた村上三郎氏に、浜口はパリから作品を送り続けていたのだそう。
その数、実に70点以上。
そんな村上氏のコレクションをもとに、
1980年に、伊豆の地にて、浜口陽三の展覧会が3つも開催されたのだとか。
そのうちの一つが、池田20世紀美術館で開催された浜口の回顧展 “浜口陽三名作展” です。




浜口の回顧展は、これまでに何度も日本で開催されていますが。
実は何を隠そう、この池田20世紀美術館での展覧会こそが、日本初となる浜口陽三の回顧展。
そう、伊豆は、国際的銅版画家・浜口陽三の誕生の地であり、
国際的銅版画家・浜口陽三の回顧展の誕生の地でもあったのです!


若き日の浜口のチャレンジ精神にもグッときましたし、もちろん彼の作品にもグッときたのですが。
それ以上に、これまで知られていなかった浜口に関する新事実、
それも、重要な事実を調べ上げた学芸員さんのプロフェッショナルぶりにグッとくる展覧会でした。
星


さてさて。
そんな浅見光彦なみの調査力を誇る (?) 学芸員さんの手にかかれば、
浜口陽三の 《雲》 という作品に隠されたとある意外な真実も、白日のもとに。




一見すると、水平線に雲が浮かんでいる風景に見えますが。
実は、海に見える部分は、もともとアスパラガスを描いたものだったのだとか。
制作している途中で、アスパラガスから海景へと変わってしまったのだそう。
確かに、言われてみれば、アスパラガスの袴のようなものが見て取れます。海なのに。
とはいえ、もともとアスパラガスだったとすると、さすがに長すぎる気もします。
串揚げにしたら、だいぶ食べ応えがありそうです。


ちなみに、今回出展されていた中で、個人的に印象的だったのは、
蓮台寺から再びパリへと渡ったその直後に制作したという、こちらの一枚。




《スペイン風油入れ》 です。
作品がどうこうではなく (←?)、スペイン風油入れなるものに興味津々。
なぜ二股なのか?
丸い底で自立するのか?
油をどこから足すのか?
油入れでさえ、こんな奇妙な形状。
スペインからダリやガウディが生まれたのも、妙に納得です。




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ちょっとだけ蘇るという奇跡。

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美術の世界には、奇跡を起こしたヒーローが数多く存在する。
もしも、そんな彼らにヒーローインタビューを行ったなら・・・?



インタビュアー (以下:イ) 「放送席、放送席。
                 こちらには、釈迦さんにお越し頂いております」

釈迦 (以下:釈) 「釈迦でございます。本日はよろしくお願いいたします」




イ 「入滅後に見せたあの奇跡。本当に素晴らしかったです。感動いたしました!」

釈 「ありがとうございます」

イ 「あのー、そもそもなんですが、何が原因で入滅されたんですか?」

釈 「旅先で、スーカラマッタヴァという料理を口にしましてね」

イ 「スーカラマッタヴァ?どんな料理なんですか?」

釈 「豚肉料理だったような・・・キノコ料理だったような・・・」

イ 「アバウトですね」

釈 「とにかくそのよくわからない料理を食べたら、
  お腹が痛くなってしまい、それが原因でコロリと・・・」

イ 「なんか、意外な理由ですね。
  とはいえ、やはり釈迦さんが入滅したとなると、多くの人々が悲しんだのではないですか?」

釈 「はい。おかげさまで、弟子を含む多くの人々、
  それから、菩薩様や動物たちまでもが、私の周りに集まり、泣いて悲しんでくださいました」

英一蝶《涅槃図》
英一蝶 《涅槃図》


イ 「もしかして、この右上の雲に乗って、釈迦さんのもとへと向かっているのが・・・?」

釈 「はい。母の摩耶夫人です。
  私の入滅を知り、天上から急ぎ駆けつけてくれたようです」

イ 「しかし、死に目には間に合わなかったと」

釈 「そうなんです。それで、地上に降り立った母が、
  あまりに嘆き悲しむものですから、金棺から出ることにしたのです」

イ 「つまり、蘇った・・・と」

釈 「そうなりますね」

【本日のハイライトシーン】


《釈迦金棺出現図》


イ 「さらっと奇跡を起こしたのですね!もちろん、お母様は喜ばれましたよね?」

釈 「喜んでくれたと思いますよ。で、とっておきの説法をしました」




イ 「周りの皆様の反応は、どんな感じでしたか?」

釈 「相当ビックリしていたようです。ほぼ全員泣き止んでいました。
  何というか、『蘇られるんかい!』 みたいな空気を感じましたね。
  死にたくなるほど気まずかったです (笑)」




イ 「まぁ、確かに、泣いていた人や動物からしたら、そうなりますよね。
  ところで、お母様に説法した後は、どうされたのですか?」

釈 「え~っと、すぐに金棺の蓋を閉じました」

イ 「あっさりしてますね。一緒にご飯とか食べたりすればよかったのに」

釈 「まぁ、また天上の世界で逢えるでしょうし」

イ 「・・・・・・・ん?お母様って、天上からやってきたんですよね?
  ということは、お母様も蘇ったってことですよね?そっちのが奇跡的じゃないですか?」

釈 「そうですか?僕の奇跡のほうが、スゴいと思いますけど。
  うちの母に限らず、母親って、大体そういうものじゃないですか?
  脇を痛めて産んだ子供のことになると、奇跡のような力が生まれるんですよ」

イ 「あの・・・今何と?脇を痛めて?お腹を痛めて、ではなくて?」

釈 「インタビュアーさん、何を言ってるんですか?
  子どもは、普通、母親の脇から生まれてくるじゃないですか」


《摩耶夫人および天人像 》


イ 「いやいやいや。それ、釈迦さんだけですから!
  脇から子供を産むだなんて。やっぱりお母様の奇跡のほうがインパクトあるなァ」

釈 「・・・・・・・・・・・・(パタン)」

イ 「あれっ、釈迦さん!どうしたんです?棺から出てきてくださいよ!
  困ったなぁ。一旦、放送席さんにお返しします!」




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江戸の凸凹 ― 高低差を歩く

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現在、太田記念美術館で開催されているのは、“江戸の凸凹 ― 高低差を歩く” という展覧会です。




こちらは、台地や谷や、低地といった江戸 (東京) の凸凹、
つまり、地形の高低差に焦点を当てたユニークな浮世絵展です。
『ブラタモリ』 ファン必見の展覧会と言えましょう。
星


西側には武蔵野台地が、東側には低地が広がり、
実は日本でも、いや、世界でも屈指の凸凹タウンである東京。
今ではすっかり、ビルなどの高い建物が乱立し、
地形の起伏はあまり感じられないかもしれませんが。
高低差を意識して描かれた浮世絵を観れば、その凸凹っぷりを実感せざるを得ません。



(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております)


しかも、神田に目黒に品川に王子にエトセトラに、
実に都内のあちらこちらに、凸凹な地形は点在しています。
東京には、“何でもある” と言いますが、まさかこれほどまでに高低差もあったとは。
東京の新たな一面を知れる展覧会でもありました。


なぜ、凸凹を描くのか?
「そこに凸凹があるから」 というような、
特に深い理由もなく描かれたであろう浮世絵もありましたが。
中には、昇亭北寿の 《東都芝愛宕山 遠望品川海》 や、




葛飾北斎の 《諸国瀧廻 東都葵ヶ丘の滝》 のように、




まず間違いなく、凸凹を意図的に描いた作品も多く存在していました。
とりわけ凸凹愛 (?) を感じたのが、
歌川広重の 《名所江戸百景 品川御殿やま》 という一枚です。




黒船に備え、急きょお台場を建設することになった江戸幕府。
そのため、大量の土砂が必要となり、御殿山一体の地形をごっそりと削り取りました。
その削り取られたあとの姿を描いたのが、この一枚。
正直なところ、風景としては全く味気がありません (笑)
しかし、あえてこの風景を描いた広重。
もしかしたら、元祖地形マニアだったのかもしれませんね。

ちなみに、そんな広重は、タモさんよりも 『全力坂』 よりも先に、
東京の坂をフィーチャーした 《東都名所坂つくし》 なるシリーズも手掛けていたのだそう。




やはり地形マニアであった可能性は濃厚です。


さてさて、今回出展されていた中で、
印象的だった浮世絵をいくつかご紹介いたしましょう。
まずは、北尾政美の 《浮繪東都中洲夕涼之景》 という一枚。




夜空にリボンのような謎の飛行物体が飛んでいるのかと思いきや。
あのリンゴの皮を剥いたようなのは、花火なのだそうです。
江戸の花火大会は、今よりも相当に地味だったのかもしれませんね。


続いては、歌川豊春の 《江戸名所 上野仁王門之図》




上野の大通りから、いわゆる上野の山 (上野恩寵公園) を望むアングルで描かれた作品です。
注目すべきは、手前に描かれた3つの橋。
これは不忍池から流れる川にかけられた橋なのだそう。
さて、現在、その橋は3つとも残っていませんが、
橋があった場所で、行列のできる老舗の甘味処が営業をしています。
その名は、あんみつ みはし。
そう、三つの橋があった場所にあったから、店名が 「みはし」 なのだそうです。
あんみつ みはしで使える蘊蓄です。


最後に紹介したいのは、歌川広重の 《江都名所》 シリーズ。
担当した学芸員さん曰く、
「こういう展覧会でないと展示する機会がない広重屈指の地味なシリーズ」 とのことです。




確かに、全体的に華や見どころのない地味な絵でした。
広重自身も、このシリーズにそこまで思い入れがないのでしょうか。
タイトル部分のデザインが、雑にもほどがありました。




80年代のB級ゾンビ映画のようなセンスです。




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ゆかた 浴衣 YUKATA すずしさのデザイン、いまむかし

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花火大会に、盆踊りに、怪談に。
日本の夏に欠かせないファッションアイテムといえが、そう、ゆかたです。
そんなゆかたをフィーチャーした夏にピッタリの展覧会が、現在、泉屋博古館分館で開催中。
その名も、“ゆかた 浴衣 YUKATA すずしさのデザイン、いまむかし” という展覧会です。




展覧会で紹介されているのは、大きく分けて主に3つ。
一つは、岡田三郎助の 《五葉蔦》 をはじめとする・・・


岡田三郎助 《五葉蔦》 明治42年(1909) 泉屋博古館分館


ゆかた美人 (もしくは、ゆかたダンディ) が描かれた絵画作品。


(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております)


一つは、職人の技と粋が詰まったゆかたの型紙。




そして、もう一つはもちろん、ゆかたそのもの。
江戸時代から現代まで、貴重なゆかたの数々が一堂に会しています。
星
さぞかし目にも鮮やか、カラフルな会場なのだろうと思いきや・・・・・




基本的には、白と藍の2色のみ!

色味に関していえば、ゆかたはゆかたでも、
夏祭りで見かけるような 「ゆかた」 ではなく、
温泉旅館やビジネスホテルで部屋着として身に着ける、いわゆる 「浴衣」 のそれでした。

・・・というのも、実は、「ゆかた」 も 「浴衣」 も、
その源流は、室町時代に誕生した 「ゆかたびら(湯帷子)」 なのだそう。
当時のお風呂は、今のように湯に浸かる形式でなく、スチーム状の湯を浴びる蒸し風呂スタイル。
お風呂の中で裸体を晒さないため、
そして、入浴後の汗を吸い取るため、「ゆかたびら」 を着用していたのだそうです。
江戸時代の中頃になって、町風呂 (銭湯) が誕生したことで、全裸での入浴が主流に。
ゆかたびら、改め、ゆかたは、浴後の汗取りという用途で着られるようになります。
また、町風呂の二階などでくつろぐ際も、ゆかた。
いうなれば、ゆかたはバスローブとしての役割も兼ねるようになったのです。
さらに時代が経て、江戸時代の後期になってようやく、
夕涼みや花火見学などの行楽の際にも、ゆかたでおでかけするスタイルが定着したとのこと。
その後、明治、大正、昭和と “ゆかた=白と藍” のイメージは変わらず。
僕らがイメージするカラフルなゆかたは、
意外にも、ここ最近になって登場するようになったものなのだそうです。


さてさて、カラーバリエーションこそ、乏しかったのですが。
むしろ基本的に白と藍の2色しかないからこそ、
紋様のバリエーションは、想像以上に豊かなものがありました。


《紺木綿地団扇模様浴衣》 大正~昭和時代(20世紀前半) 東京都江戸東京博物館


個人的に一番印象に残っているのは、こちらの浴衣。




離れて見る分には、何の紋様なのかイマイチわかりませんでしたが。
ずずずーっと近づいて観てみると・・・




杢目 (木を縦に切った時に現れる紋様) が、
ゆかたの全面にびっしりとデザインされていました。
あまりにも紋様が細かいので、モアレ必至。
お風呂上りに見たら、確実にのぼせそうです。


ちなみに。
ユニクロやしまむらでも、ゆかたが買える現代とは違って、
江戸時代はもちろん、ゆかたも自作かオーダーメイドだったそう。


三代歌川豊国(国貞) 《六玉川乃内 高野》 江戸時代 弘化元年(1844) 錦絵 大判 個人蔵 [通期展示]


こちらの浮世絵に描かれている女性は、
今まさに、新たなゆかたや着物を仕立てようとしているところ。
手にした染め模様の見本帳 (カタログ) に見入っています。
今も昔も、服を選ぶときの女性は真剣勝負。
きっと中腰の体勢も気にならないくらい集中しているのでしょう。

なお、展覧会では、その当時使われていた実際の見本帳や、




見本裂も紹介されていました。




いろんな模様が一堂に会した見本裂。
いっそのこと、これでゆかたを作っちゃえばいいのに・・・などと考えていたら、




まさしく、そうやって仕立てられた服も紹介されていました。
考えることは、今も昔も一緒のようです。




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家畜 ―愛で、育て、屠る―

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8月10日より長期休館が予定されている東京大学総合研究博物館。
その休館前ラストの特別展示として開催されているのは、「家畜」 をテーマにした展覧会です。
その名も、“家畜 ―愛で、育て、屠る―”




愛で、育て、屠る (ほふる)
なんとも攻めた展覧会タイトルです。
どこか妖しげで、どこか艶めかしさすら感じるフレーズ。
壇蜜に声に出して読んでもらいたい日本語です (←?)。

と、そんな展覧会タイトルと同じくらいに、気になってしまったのが・・・




「展示監督作品」 という馴染みのないフレーズ。
展覧会ではなく、一つの作品ということなのでしょうか??
ちなみに、展示監督の遠藤秀紀教授は、動物の解剖のスペシャリストで、
あまりの熱血ぶりから、過去には 『クレイジージャーニー』 にも出演したこともあるのだそう。
この段階で、今回の展覧会が、普通の展示でないことを確信しました (笑)


さてさて、会場に入ってまず展示されていたのは、大量の頭蓋骨。




ゾウやキリン、サイやシカなどの頭蓋骨が床置きされていました。
しかし、これらの動物は、家畜ではありません。
遠藤教授曰く、家畜とは、「繁殖を人為的にコントロールされている動物集団」 とのこと。




参考として、鵜飼用の鵜の剥製も展示されていましたが。
鵜匠の方々は、野生の鵜を捕まえるものの、繁殖はさせないそう。
つまり、鵜は家畜ではないそうです。
それを踏まえた上で、冒頭での展示に戻りましょう。
実は、1つだけ家畜が紹介されていました。
正解は、右のテーブルの上に乗せられたブタです。




なお、左のテーブルの上に乗っているのは、ブタの祖先であるイノシシ。
人間が、イノシシを改良したことで、家畜であるブタが誕生したのです。
頭蓋骨を見比べてみると、その違いは歴然。
人間の手にかかると、生物はこんなにも大きく姿を変化させられてしまうのですね。


大きく姿を変えられたといえば、こちらの馬も。
(正確には、小さく姿を変えられたですが)




ファラベラという世界最小の品種の馬の剥製です。
手前に置かれているのは、一般的な馬の頭蓋骨。
大きさが全然違います。
ファラベラはあまりに小さいので、子どもを上に乗せるのがやっと。
基本的には、愛玩用として飼育されているそうです。
ちなみに、この2頭のファラベラは、
1979年に、アルゼンチン大統領から当時の皇太子に贈られたものとのこと。
黒いほうにはファルーチョ、茶色と白のほうにはガルーチョという名前が付けられており、
2014年と2015年に、それぞれ老衰のため、約35年という長い天寿を全うしたのだそうです。


そんな世界最小の馬に驚いたあとに、目の前に現れたのは・・・




巨大な牛!

しかも、特殊な品種ではなく、ホルスタインとのこと。
あれ?牧場で見かけるホルスタインは、ここまで大きくなかったような・・・。
遠近法のせい??
実は、こちらはホルスタインのオス。
牧場でよく目にするのは、ほぼ100%メスなのだそう。
高性能のメスを残すことに特化したオスは、
日本全国で、わずか約400頭ほどしか飼育されていないのだそうです。
対して、メスの数は約200万頭。
単純計算して、オス1頭につき、お相手となるメスは5000頭 (!)。
ホルスタインのオスは、馬車馬のように頑張っているのですね。


さてさて、ここまででも充分驚きの連発でしたが、
展覧会のラストに最大級のサプライズが待ち受けていました。




『king of 家畜』 ともいうべき、ニワトリが大集合。
その数、実に57品種171体。
圧巻を通り越して、軽く悪夢めいた光景でした (笑)
もはや展示というよりも、インスタレーション作品。
なるほど。「展示監督作品」 と銘打つのも納得です。

171体の中には、もちろん見慣れた姿形のタイプのニワトリもいましたが。




内田裕也を彷彿とさせるニワトリ (ポーリッシュ) や、




『ジュラシック・パーク』 に出てた気もする1m越えのニワトリ (インディオ・ギガンテ) 、




足元が天狗の団扇みたくなっているニワトリ (ブラマ) などなど、




初めて目にする奇妙なニワトリも多く含まれていました。
どうしてこのような品種改良をしたのでしょうか。
人間の家畜への探求心には、並々ならぬものがあるようです。
星

ちなみに、数々のニワトリの中で、
最もインパクトがあったのは、北ベトナムのニワトリ・ドンタオ。




足の太さが尋常ではありません。
そんなわけないだろうと思い、
何度見かしましたが、どうやら僕の見間違いではなかったようです。
「カモシカのような足」 の対義語は、「ドンタオのような足」 ですね。


最後に、もう一つインパクトがあった鳥の剥製をご紹介いたしましょう。
鴨を家畜化したのが、アヒル。
その中でも国内ではレアだというクレステッドという品種が展示されていました。




完全に、おばあちゃん。
語尾は間違いなく、「ざます」。




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素晴らしきミュージアムショップの世界 商品番号125

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本日は、日本科学未来館のミュージアムショップ、
「Miraikan Shop」 が猛プッシュしていた (?) 商品をご紹介。
売り場だけでなく、いわゆるレジ横でも販売中の宇宙おにぎり 鮭です。




国際宇宙ステーション (ISS) 長期滞在用の食事として、特別に開発された鮭おにぎりとのこと。
お湯か水を注ぐだけで美味しいおにぎりが、出来上がるのだとか。

まずは、このカピカピ状態のお米にお湯を注ぎます。




お湯が線の部分に達したら、チャックを閉めて・・・




中身を混ぜるため、よーく振ります。




おわっ、熱っっっ!!!

熱湯を注いだばかりということを失念していました。
鮭おにぎりを作るのに、こんな危険が潜んでいるとは。
宇宙飛行士の皆さま、お疲れさまです。


15分後。
先ほどはあんなにカピカピだったお米が、ふっくらしているような。




それでは、開封してみましょう。
切込みは3か所。
それぞれを切ると、ちゃんとおにぎり型になっていました。




・・・・・・・・ただ、正直なところ、あまり美味しくはなさそうです。
完全に見た目が、ねっちょり。
パッケージに記載されているものとは、だいぶ違う仕上がりです。
どうやら持ち前の不器用さが、今回も発揮されてしまったのかも (汗)

とりあえず一口食べてみることに。
いただきます。




こ・・・これは・・・おにぎりじゃないんだな。
あ・・・味の薄い・・・ぞ・・・雑炊なんだな。

食感はもちもちではなく、ねちょねちょ。




食が進まないので、まったく食べ終わる気配がありません。
口に運んでも無くならない無限地獄。
そこに宇宙を感じました。
まさに、宇宙おにぎり。


・・・・・とはいえ、そんなこともあろうかと (←?)。
他にも気になる宇宙食を購入しておいたのでした。
まずは、お好み焼き。




パッケージには、「宇宙を見据えて軽やかになった、なにわの定番。」 とあります。
宇宙でもお好み焼きが食べたい。
そんな大阪人のロマンが詰まった宇宙食です。




袋を開けた瞬間、ソースの匂いがふわりと香りました。
このお好み焼きを食べた日には、宇宙船内もソースの香りが充満することでしょう。
では、早速、一口。




硬っっ!!

ボリッボリした食感です。
ラスクをもう二段階ほど硬くした感じでしょうか。
食べるのに一苦労はしますが、味は完全にお好み焼き。
うん。不味くはないです。


〆は、デザート。
宇宙食のプリンです。




「甘さひかえめ、とろけるようななめらかさ、初体験。」 とありますが。
袋から出てきたのは・・・




とろける感やなめらか感の欠片もないシロモノ。
これがプリンだとは、誰が想像できましょう。
とりあえず、一口食べてみます。




食べ始めは、シャクシャクシャク。
しばらくすると、口の中の水分と混じって、ジュクジュクジュク。
確かにこれまでにない初体験の食感でした。
口にしたことは無いですが、おそらくバブを食べたら、これに近いのではないでしょうか。
味は、プリンと言われれば、プリンのような。
ババロアと言われれば、ババロアのような。
カラメルが無いため、今一つプリン感はありませんでした。



・・・・・・・・宇宙は、当分行かなくていいや。




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写実絵画のいまむかし

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現在、笠間日動美術館の企画展示室では、
今なおブームが続く写実絵画をテーマにした展覧会、“写実絵画のいまむかし” が開催中です。




展覧会は、大きく分けて2部構成。
まず第1会場で紹介されているのは、「いま (=現代)」 の写実絵画です。




上皇ご夫妻の肖像画を描いたことでも知られる写実絵画の巨匠・野田弘志さんや、




購入希望者が多いため抽選販売がマストという超人気写実画家・山本大貴さんといった、




写実絵画界のレジェンドやトップランナーの作品はもちろんのこと。
施設や工場など建築物の廃墟を得意とする若手の注目株・橋本大輔さんをはじめ、




写実絵画界でのこれからの活躍が期待されるネクストブレイク候補の作品も紹介されていました。
まさに写実絵画の 「いま」 が凝縮された展示会場です。

本物そっくりに描かれた写実絵画を観ると、
ついつい 「写真みたい!」 と口にしてしまいがちですが。
多くの写実画家たちが目指しているのは、写真のような絵を描くことでありません。
写真には写らない美しさ、存在感のようなものを描こう、
3次元の世界を、2次元のキャンバスの中に可能な限り再現しようとしているのです。
そんな作品たちの中で、一つ異彩を放っていたのが、
1984年生まれの山本隆博さんの 《無題(西洋の少女)》 という作品でした。




こちらは、古い肖像写真をモチーフにした作品なのだとか。
もともと2次元のものを、2次元で忠実に写し取った作品です。
さらに、ただ図像を写し取るだけでなく、




写真に付いた傷や折れ目、汚れなども、忠実に再現しているとのこと。
その執拗さ (?) には、ちょっと・・・いや、かなりゾワっとするものがありました。
この西洋の少女には、何の罪もありませんが。
お願いだから、夢には出てきて欲しくないものです。


ちなみに、もう1点印象的だったのが、
安西大さんの 《飾られた絵画(パンと果実)》 という一枚。




パッと見は、わりとオーソドックスな静物画。
しかし、よく見ると、その表面のガラスが割れています。
(一部は、マスキングテープ的なもので留められています)
「大丈夫なの??」 と心配になりますが、もちろんそれも含めての絵画作品。
いやぁ、まんまとダマされました。ちゃんちゃん・・・と思いきや。
その静物画を飾る額縁も、さらにその周囲の少し破れが目立つ壁紙も、実物ではなく絵。
二重ドッキリの構造を持つ複雑なだまし絵です。
もはや、この絵画の背後の本物の壁さえも、
「描かれたものなのでは?」 と疑いたくなるほどでした (←混乱)。


さてさて、続く第2会場では、「むかし」 といっても、
大昔ではなく、ちょっと昔、近代の写実絵画が紹介されています。





特にフィーチャーされていたのが、『近代洋画の父』 こと高橋由一。




自画像や風景画を含む5点の貴重な高橋由一作品が紹介されていました。
それらの中には、由一の代表作ともいうべき、《鮭図》 も。




東京芸術大学が所蔵する重要文化財の 《鮭図》 と、まったく同じように思えますが。
実は、かなり違います。

(注:本展にはこちらの 《鮭図》 は出展されていません)


笠間日動美術館の 《鮭図》 は、だいぶ身が食べられてしまっているのです。
新巻鮭ビフォーアフター。


また、由一と同時期に活躍した洋画界の華麗なる一族、
五姓田一家にも、大きくスポットが当てられていました。




特に必見なのは、五姓田一家の星・五姓田義松の傑作 《人形の着物》




こちらは、フランスの官展 (サロン) にて、
なんと油彩画で日本人として初めて入選を果たした記念すべき作品なのだそう。
左下には、フランス語でのサインが、右下には日本語でのサインが添えられています。
子どもの顔はそんなに可愛くなかったですが、
床でスヤスヤ眠る猫の可愛らしさに、思わず頬が緩んでしまいました。
星星


ちなみに、「むかし」 の写実絵画の中で、
個人的に一番印象に残ったのは、渡部審也による 《供侍図》 です。




主人がなかなか戻ってこないのでしょう。
待ちくたびすぎて、露骨なくらいにテンションが下がっています。
「あぁ~早く帰りて~よ~」 という心の声がダダ洩れしているかのよう。
奥に描かれた赤い服の彼は、もはや感情がゼロ。
表情が完全に死んでいました。
今も昔もブラックな職場はあるようです。




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