■若冲
作者:澤田瞳子
出版社:文藝春秋
発売日: 2015/4/22
ページ数:358ページ
「世に二つとない絵を描く」画人、その名は伊藤若冲―
池大雅、円山応挙、与謝蕪村、谷文晁、市川君圭…絵師たちの運命が京の都で交錯する。
著者渾身!至高の芸術小説。
(「BOOK」データベースより)
「最近の伊藤若冲人気に乗っかった小説かぁ・・・と、高を括っていましたが。
澤田さん、ごめんなさい。
そんなブームに乗っかっただけの安い小説では、決してありませんでした。
これまで、このシリーズで全20冊の小説を紹介してきたわけですが。
今回の 『若冲』 が、ぶっちぎりで一番面白かったです。
なんなら、読み終わったばかりですが、今からもう一回読み直したいくらいです。
確かに、実は、若冲には、姑との不仲から自殺した妻がいて、
その罪悪感から絵の世界に没頭したという設定に、面食らいました。
さらに、その妻の弟が、若冲の贋作を描いた絵師・市川君圭だったという設定に、輪をかけて面食らいました。
市川君圭 《牡丹孔雀図》
現段階の若冲研究では、フィクションもフィクションの設定です。
が、しかし!
詠み進めていくうちに、徐々にこの設定に慣れていきました。
というか、むしろ、この設定が正しいような気さえしてきました。
なぜなら、ストーリー全体に破綻が無いだけでなく。
《『動植綵絵』 雪中鴛鴦図》 や、
《果蔬涅槃図》 といった、
若冲の代表作の澤田流解釈が、非常に説得力があるのです。
そう指摘されてみれば、確かに!
若冲を巡る複雑な環境ゆえに、生み出された名作なのかもしれません。
特に感銘を受けたのが、 《鳥獣草花図屏風》 と 《樹花鳥獣図屏風》 に関しての解釈。
どうして、若冲は似たような作品を2つ残したのか。
その謎に答えを出しただけでなく、
片方は若冲の筆ではないとされる現在の説にも、きちんと対応した答えになっていました。
“引きこもりの天才” という従来の若冲像 (?) とは掛け離れた姿で若冲が描かれているので。
おそらく若冲ファンには、受け入れられないかもしれません。
しかし、きっとその反応も見越した上で、澤田さんはこの小説を書かれたのでしょう。
その攻めの姿勢にアッパレ。
若冲はもちろん、池大雅、円山応挙、谷文晁といった、
江戸を代表する絵師たちが次々に登場するのも嬉しいところ。
接点が無かったとされる与謝蕪村との絡みがあるのも、フィクションならではで面白かったです。
(星5つ)」
~小説に登場する名画~
《石灯籠図屏風》
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Book:20 『若冲』
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