■満つる月の如し: 仏師・定朝
作者:澤田瞳子
出版社:徳間書店
発売日:2014/10/3
ページ数:476ページ
時は藤原道長が権勢を誇る平安時代。
若き仏師・定朝はその才能を早くも発揮していた。
道長をはじめとする顕官はもちろん、一般庶民も定朝の仏像を心の拠り所とすがった。
が、定朝は煩悶していた。貧困、疫病が渦巻く現実を前に、仏像づくりにどんな意味があるのか、と。
華やかでありながら権謀術数が渦巻く平安貴族の世界と、
渦中に巻き込まれた定朝の清々しいまでの生涯を鮮やかに描き出した傑作。
(出版社からのコメント)
「“生誕300年記念 若冲展” が開催されているのに合わせて、澤田瞳子さんの 『若冲』 を再読。
そして、再感心。
いやぁ、つくづく良く練られた小説でした。
ということで、熱が冷めないうちに、他の澤田瞳子小説も読んでみることにしました。
今作の主人公は、定朝。
平安時代後期に活躍した伝説的な仏師です。
顔は丸顔で、表情は温和、胸が平たく、
衣のひだは浅いという定朝が新しく確立した仏像表現は、
多くのフォロワーを産み、そのスタイルは、「定朝様」 と呼ばれています。
それだけの人物でありながら、お寺が焼けてしまったりなんなりで、
現存する確実な定朝の作品は、実は平等院鳳凰堂の 《木造阿弥陀如来坐像》 一躯のみです。
たった一躯しか仏像が残っていない人物を描くことなんて、果たして可能なのでしょうか?
という心配は杞憂でした。
仏像を作る才能を自認するも、仏の存在を信じられず、仏像を彫るということに意味を見いだせない。
そんな悩みから、日々鬱屈としている青年仏師というキャラクターが、定朝に与えられています。
様々な登場人物と出会うことで、仏師として成長していく定朝。
そして、ラストは、芥川龍之介の 『地獄変』 を彷彿とさせるほどの制作への凄味を見せるまでに。
《木造阿弥陀如来坐像》 に、こんな悲しく壮絶なドラマがあったとは!
もちろん、フィクションとは理解して読んでいますが、
こういうドラマが、実際にはあったのかもと、思わず納得させられます。
それが、澤田瞳子マジック。
定朝以外にも、多くの人物が登場し、
それぞれのキャラクターのドラマや人物造形も、丁寧に描かれていました。
その分、ストーリーが横に広がりすぎて、まとまりがなかったような気も。
平安時代の文化に馴染みが無いことも加わって、全体手には、やや読みづらい印象でした。
(星4つ)」
~小説に登場する名彫刻~
《木造阿弥陀如来坐像》
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Book:21 『満つる月の如し: 仏師・定朝』
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