かつて壁や防塁に囲まれていた城砦都市パリ。
しかし、19世紀後半から20世紀にかけて、人口は劇的に増加し、
都市の周縁に移民や貧困者が住み着いたことで、その光景は一変します。
そんな都市の周縁部や郊外、つまり境界線の風景に視点を向けた芸術家たちに焦点を当てたのが、
ポーラ美術館で開催中の “ルソー、フジタ、写真家アジェのパリ―境界線への視線” という展覧会です。
(注:館内の写真撮影は、特別に許可を頂いております。)
ピカソやユトリロ、ヴラマンク、里見勝蔵といった画家たちの作品も紹介されていますが。
今回の展覧会で特にフィーチャーされているのは、3人の芸術家です。
まず一人目は、アンリ・ルソー。
税関吏の職につきながら、日曜画家として精力的に活動した、偉大なる素人画家です。
これまで、あまり意識したことは無かったですが。
確かに、こうして指摘されてみると、ルソーの描く風景画は、
都市の中心部ではなく、郊外の風景を描いたものが多いようです。
森の中からエッフェル塔が生えてしまっている 《エッフェル塔とトロカデロ宮殿の眺望》 や、
アンリ・ルソー 《エッフェル塔とトロカデロ宮殿の眺望》 1896-1898年 油彩_カンヴァス ポーラ美術館蔵
「空に浮かんでいるものが、どう見ても未確認飛行物体!」 な、
《飛行船「レピュブリック号」とライト飛行機のある風景》 をはじめ、
アンリ・ルソー 《飛行船「レピュブリック号」とライト飛行機のある風景》 1909年 油彩_カンヴァス ポーラ美術館蔵
出展作はどれも、あいかわらずヘタウマで愛おしいルソーの世界観が全開でしたが。
変わりゆくパリの郊外を描いた作品というフィルターを通じて観てみると、
どこか寂しげで、どこかセンチメンタルな気配が漂う光景にも思えてきました。
アンリ・ルソーの絵を前にして、こんなに切ない気持ちになったのは初めてです。
と同時に、ただのヘンな画家じゃなかったんだという心強さも感じました。
・・・・・ハッ!
恋しさとせつなさと心強さと、が偶然にも揃いました (←だから、何!)
続いてフィーチャーされているアーティストは、
パリに1913年に到着した越境者レオナール・フジタこと藤田嗣治です。
実は、国内最大級の藤田嗣治コレクションを有しているポーラ美術館。
今回の展覧会では、そのほとんどが贅沢にも出展されていました。
藤田の作品で満たされた展示空間は圧巻も圧巻。
是非、皆様に写真で紹介したいところですが、著作権という大人の問題がありまして。
引きで撮った写真くらいなら大丈夫だとは思うのですが、
著作権料が発生するかもしれないという境界線は、さすがに超える勇気がありません (笑)
あしからず。
さてさて、3人目にフィーチャーされているのが、写真家のウジェーヌ・アジェです。
俳優を目指すも最終的には劇団を解雇。
画家を目指すも挫折。
驚くほどにパッとしない人生ですが、41歳になってから職業写真家へ転向。
失われつつあった19世紀パリの古き良き時代の姿を、丹念に記録し続けます。
30年の職業写真家人生で撮影した写真の数は、実に8000枚!
最晩年には、その愚直でひたむきな姿勢が、シュルレアリストの芸術家たちに注目されることに。
そして、その死後、『近代写真の父』 と呼ばれるまでになるのです。
いやぁ、人生ってわからないものですね。
ウジェーヌ・アジェ 《古い館、サン=ソヴール通り79番地、パリ2区》 1910年 鶏卵紙 東京都写真美術館蔵蔵
(注:展示期間は9/10から12/5まで)
ちなみに、ウジェーヌ・アジェには、
アンリ・ルソーに例えて、『写真家の税関吏ルソー』 との異名も。
・・・・・・・・・。
写真家なのか税関吏なのか。
そこは、『写真家のアンリ・ルソー』 でいいんじゃないの?
と、それはさておき。
やはり、アンリ・ルソーに例えられるだけあって、
ウジェーヌ・アジェの写真は、いい意味でどこか素人臭さがありました。
ウジェーヌ・アジェ 《ランプシェード売り》 1899-1900年 ゼラチン・シルバー・プリント 川崎市市民ミュージアム蔵
(注:展示期間は9/10から10/23まで)
なんというか、遊び心が無いと言いましょうか。
生真面目さが漂っていると言いましょうか。
でも、好きで写真を撮っている感じは伝わってきました。
ちなみに、会場には、ウジェーヌ・アジェの絵画作品も出展されていました。
実は、画家を挫折しただけあって、ウジェーヌ・アジェの絵画作品は極めて少なく。
今回出展されている東京都写真美術館蔵の作品と、
MOMAが所蔵している作品くらいしか確認されていないのだとか。
左はアンリ・ルソーの作品で、右がウジェーヌ・アジェの作品です。
一目見た瞬間に、「ハイ、画家を辞めて正解!」 と思いました (笑)
上手くもなく、かといって下手でもアンリ・ルソーのように味があるわけでもなく。
無味無臭にもほどがあります。
ルソー、フジタ、アジェ。
『ボクらの時代』 のような展覧会でした。
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ルソー、フジタ、写真家アジェのパリ―境界線への視線
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