美術展は、1年間のうちに、春と秋の2回だけ。
さらには、開館日は、月・水・金のみという、
激レアな美術館の存在を聞きつけて、祖師ヶ谷大蔵へとやってきました。
かつて、この駅の近くに円谷プロダクションがあったそうで。
そのため、街のあちらこちらに、ウルトラマンの姿が!
そして、商店街の名前も、ウルトラマン商店街と、もはや街を挙げての、ウルトラマン推し。
本当に、このような “ウルトラの街” に、
くだんの美術館があるのだろうかと、少し不安になりながら、砧の住宅街を彷徨いました。
と、歩くこと、3分以上。
(ウルトラマンでしたら、もう地球にはいられませんね)
それらしき建物が見えてきました。
決して、美術館っぽくはないけれども、民家っぽくもない。
週3でしか開いていない美術館と言われれば、そうとしか見えない建物。
そう、こちらが、今回の目的地・福沢一郎記念館です。
元々は、福沢一郎のアトリエだった場所とのこと。
そのため、美術館の床には、
当時の痕跡が、 「これでもかっ!」 と残っております (笑)
(掲載されている写真は、美術館の許可を特別に得て撮影したものです)
さてさて、この記事を読まれている方の中には、
「福沢一郎?誰?タケモトピアノのCMに出てる人だっけ?」
(それは、財津一郎さんです)
と混乱されている方もいらっしゃるようですから、簡単に、福沢一郎についてご紹介を。
福沢一郎 (1898~1994)
日本を代表する洋画家の一人です。
渡仏中に、シュルレアリスムの影響を受け、
帰国後、日本に、シュルレアリスム絵画を本格的に紹介した人物として知られています。
また1936年に開設した福沢一郎絵画研究所は、
シュールレアリスムに取り組む若手の画家たちにとって、サロンのような役割を果たしました。
その若手の画家たちの中には、円谷プロで怪獣製作を手がけた高山良策もいたそうで。
(高山良策展は、今年3月に紹介しましたね)
『ウルトラマン』 に登場する怪獣・シーボーズは、
怪獣46 シーボ-ズ/バンダイ
¥735
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福沢一郎の代表作である 《牛》 を、
(注:今回の美術展では、出展されていません)
モデルにしているのでは?
という指摘もあるのだとか。
福沢一郎は、日本の美術界だけでなく、
特撮界にも大きな影響を与えていたのですね。
と、なんとな~く福沢一郎について、
イメージしていただけたところで、いよいよ本題の美術展へ。
現在開催されているのは、
“福沢一郎の 『ニッポン』” という春の展覧会。
会期は、差し迫っていて、恐縮ですが、明後日6/1まで。
(と言っても、明日は木曜で休館日なので、開館日は明後日6/1のみ)
こちらは、一昨年に新発見され、
修復が終わったばかりの 《題不詳(人ならば浮き名や立たむさ夜ふけて我た枕に通ふ梅ヶ香)》
その初披露を兼ねた美術展。
福沢一郎の代名詞とも言えるシュルレアリスムな作風とは違って、
ニッポン色の強い 《題不詳(人ならば浮き名や立たむさ夜ふけて我た枕に通ふ梅ヶ香)》 。
そこで、この絵を披露するならばと、
福沢一郎の作品の中から、 『ニッポン』 的な作品を中心に展示しているのだとか。
中には、 《餓鬼草紙》 をイメージソースにした作品があったり (写真左)
アイヌっぽい人が描かれた作品があったり、
どことなく日本の原風景を感じさせる、凍った川 (湖?) と花を描いた作品があったり。
フランス帰りのオシャレな文化人という従来のイメージ像とは違う、
ニッポン人画家・福沢一郎という新たな一面を知ることが出来ました。
やはり、目玉は何と言っても、
《題不詳(人ならば浮き名や立たむさ夜ふけて我た枕に通ふ梅ヶ香)》
ニッポン風とは言うものの、そこは、福沢作品。
よく見れば、シュールな光景に満ちています。
特に気になるのは、遊女の後ろに描かれている甲冑の男性。
なぜ、ウンコ座りなのか。
なぜ、右手は、自転車のハンドサイン (=停止) をしているのか。
てか、遠近法を差し引いたとしても、小柄じゃないのか (推定1メートルくらい)
いろいろと謎が多い一枚です。
もしかしたら、遊女を金縛りに合わせるために現れた落ち武者なのかもしれませんね。
そして、もう一点印象に強く残ったのが、《世相群像》 という作品。
こちらは、終戦の1年後に描かれた作品とのこと。
画面の右側には、バラック小屋やサーベル、
食糧を求めて探し求める女性などなど、暗いモチーフが描かれています。
が、一転して、左側に、目をやると、
楽しげな人々や、水辺、花など、明るいモチーフが描かれているのがわかります。
暗い世の中から、明るい世の中へ。
復興する人々の力や逞しさを描いた作品なのではないでしょうか。
そう見ると、まさに、未曽有の大震災から一年が経った現在に相応しい作品と言えるでしょう。
ちなみに、この作品を前にした時、
パッと頭に浮かんだのが、ロココ時代の画家ヴァトーの 《シテール島への船出》
色合いや、人の密集具合、
画面の右から左にかけて、幸せ度が増していく様子などが、なんとなく似ているなと。
もしかしたら、福沢一郎は、
このヴァトーの絵をイメージソースにしたかもしれませんし、してないかもしれません。
その答えは、画面下に描かれた謎の読書人のみぞ知る?!
さてさて、美術展を観終わった後のこと。
美術館の方から、お茶の用意があるので、
ゆっくりして行ってくださいと、奥の部屋に案内されました。
しばらく待っていると、コーヒーと、手作りのシフォンケーキが!
そして、このシフォンケーキが、美味しい♪
美味しいコーヒーとシフォンケーキを頂きつつ、
美術館の方や他のお客さんとの話を楽しみました。
“はっ!この談話のある光景は、まさに、現代の福沢一郎絵画研究所!”
ついつい長居してしまって、気づけば、2時間の滞在。
この美術館の居心地の良さは、尋常ではありません。
常連さんらしき人が多かったのも、納得です。
コーヒーやシフォンケーキのおもてなしに、
福沢一郎の美術作品まで付いて (←いやいや、むしろ、こっちがメイン!) 、
入館料は、たったの300円。
これは、行くしかありません。
ちなみに。
美術館の方に、
「今回の美術展の企画者が来てるので、
良かったら、いろいろ福沢一郎について聞いてみてください」
と、ご紹介された方が、何を隠そう福沢一郎の息子さん。
福沢一郎についての四方山話や、
この福沢一郎記念館に関して、いろいろと教えてくださいました。
その一連の会話の中で、
「ところで、どうして、月・水・金しか開けないのですか?」
と、質問してみたところ、
「いやぁ、他の日は、遊びたいでしょ (笑)」
と、ストレートな回答を頂きました。
ごもっとも。
ただ、裏を返せば、
それだけ、開館している日は、頑張ってくださっているということ。
父・福沢一郎への愛が、伝わってきました。
ここまで、お世話になったので、
僕も、この場を借りまして、告知のお手伝いを。
来る6月13日水曜日。
福沢一郎記念館主催のバスツアーが開催されるそうです。
群馬県にある福沢一郎記念美術館を中心に、
藤村記念館や小山敬三美術館付近を巡るそうです。
参加費用は、入場料・ランチ代・旅行保険を含んで、9700円。
8時に新宿西口出発だそうです。
毎年人気企画とのことで、そろそろ定員が埋まりそうとのこと。
興味がある方は、詳細の問い合わせなど、こちらまで。
http://fukuzmm.wordpress.com/contact/
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福沢一郎の『ニッポン』
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