現在、東京ステーションギャラリーでは、“アドルフ・ヴェルフリ 二萬五千頁の王国” という展覧会が開催中。
日本初となるアドルフ・ヴェルフリ (1864~1930) の大規模な個展で、
初期の作品やこれまで門外不出とされてきた貴重な作品など、約75点で構成されています。
・・・・・と、サラッと紹介されたところで、
「あぁ、あのアドルフ・ヴェルフリね!」 とはならないでしょうから、まずは簡単にご紹介を。
自室に積み重ねられた本の横に立つアドルフ・ヴェルフリ、1921年
ベルン美術館 アドルフ・ヴェルフリ財団蔵 ©Adolf Wölfli Foundation, Museum of Fine Arts Bern
スイスのベルン近郊の貧しい家庭に生まれたアドルフ・ヴェルフリ。
その幼少期は、絵に描いたように、それはそれは壮絶で悲惨なものでした。
青年期には、数々の失恋を経験、職も転々とし、ついには性犯罪 (未遂) で逮捕。
精神鑑定の結果、統合失調症と診断され、31歳で精神科病院に収容されることに。
以後、66歳で亡くなるまで、精神科病院の一室で過ごしました。
その間、一心不乱に絵を描き続けたのだそうです。
その生涯に描いた分量は、全45冊!
ページ数にして、実に25000ページ!
展覧会タイトルの “二萬五千頁” とは、アドルフ・ヴェルフリの仕事量のことだったのですね。
生前は、ごく一部の人にしか知られていない存在でしたが、
死後から15年、フランスの画家ジャン・デュビュッフェによって見出され、評価されました。
今では、アール・ブリュットないしは、
アウトサイダー・アートを代表する芸術家として位置づけられています。
画家でもあり、作曲家でもあったヴェルフリ。
作品にはたびたび 「アドルフ・ヴェルフリ、シャングナウの作曲家」 と署名していたそうです。
ちなみに、それらの作品は 『絵画』 ではなく、『楽譜』 と呼んでいたとのこと。
それゆえ、五線譜 (実際は六線譜!) や音符がたびたび登場します。
アドルフ・ヴェルフリ 《氷湖の=ハル〔響き〕.巨大=都市》 1911年
ベルン美術館 アドルフ・ヴェルフリ財団蔵 ©Adolf Wölfli Foundation, Museum of Fine Arts Bern
アール・ブリュット作品あるある (?) で、画面はみっちり埋まりがち。
五線譜や音符以外にも、文字や幾何学文様、
フォーゲリと名付けられたゆるキャラ的な小鳥たちが、画面全体を埋め尽くしていました。
アドルフ・ヴェルフリ 《ホテル-シュテルン〔星〕》 1905年
ベルン美術館 アドルフ・ヴェルフリ財団蔵 ©Adolf Wölfli Foundation, Museum of Fine Arts Bern
アドルフ・ヴェルフリ 《小鳥=揺りかご.田舎の=警察官.聖アドルフⅡ世., 1866年, 不幸な災=難》 1916年
ベルン美術館 アドルフ・ヴェルフリ財団蔵 ©Adolf Wölfli Foundation, Museum of Fine Arts Bern
ちなみに、たびたびヴェルフリの作品に登場する顔は、自画像とのこと。
初期から晩年の作品まで、一貫して無表情でした。
それが怖いのなんのって。。。
また、作品を生み出すだけにとどまらず、世界中の土地を買い占めて、
聖アドルフ大帝国の領土を拡大していく世界征服計画を立てていたというヴェルフリ。
ゆくゆくは宇宙への進出も視野に入れ、まじめに資産運用のことも考えていたようです。
そんな膨大な金利計算で画面がみっちり埋め尽くされた作品も紹介されていました。
冷静と妄想のあいだ。
ずっと見ていたら、二度とこっちの世界に戻ってこられないような印象を受けました。
これまでに見たことがない唯一無二の世界観に出会った驚き。
見てはいけない世界を覗いてしまったような怖さと不安感。
普通の展覧会とは一味も二味も違うスパイシーな展覧会でした (←?)
最後に、一番印象に残ったコラージュ作品をご紹介いたしましょう。
アドルフ・ヴェルフリ 《無題(キャンベル・トマト・スープ)》 1929年
ベルン美術館 アドルフ・ヴェルフリ財団蔵 ©Adolf Wölfli Foundation, Museum of Fine Arts Bern
画面でアクセントとなっているのは、ご存じキャンベルスープ缶。
キャンベルスープ缶を作品に取り入れたのは、
実は、アンディ・ウォーホルが最初ではなかったようです。
この路線でヴェルフリが作品を発表していたら、世界征服も夢でなかったのかも。
┃会期:2017年4月29日(土・祝)~6月18日(日)
┃会場:東京ステーションギャラリー
┃http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/201704_adolfwolfli.html
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