まずは、こちらの写真作品をご覧頂きましょう。
《浴室》
1997年、C-Print/Diasec© Thomas Demand, VG Bild-Kunst, Bonn / APG-JAA,
Tokyo Courtesy Taka Ishii Gallery, Sprüth Magers, Esther Schipper,Matthew Marks
《洞窟》
2006年、C-Print/Diasec© Thomas Demand, VG Bild-Kunst, Bonn / APG-JAA,
Tokyo Courtesy Taka Ishii Gallery, Sprüth Magers, Esther Schipper, Matthew Marks
《スタジオ》
1997年、C-Print/Diasec© Thomas Demand, VG Bild-Kunst, Bonn / APG-JAA,
Tokyo Courtesy Taka Ishii Gallery, Sprüth Magers, Esther Schipper, Matthew Marks
これらは、ドイツ現代美術界を代表する作家トーマス・デマンド (1964年~) による写真作品。
ただし、洞察力の鋭い方なら、気づかれたかもしれませんが。
単なる写真作品に非ず。
実は、これらの写真作品は、メディアに氾濫する写真をもとに、
トーマス・デマンド氏が、その光景を厚紙で精巧に再現し、それを撮影した写真作品なのです。
“結局、一周回って、写真になってるんじゃん!!”
というのは、至極、まともな反応。
アーティストの考えることは、よくわかりません (笑)
ちなみに、トーマス・デマンドさんにとっては、
あくまで写真という形で表現することが大切なのようで。
撮影後には、一切公開することなく、厚紙による再現物は、廃棄してしまうのだとか。
よく出来ているのに、もったいない。
つくづく、アーティストの考えることは、よくわかりません (笑)
そんなトーマス・デマンドの活動を本格的に紹介する、
日本の美術館では初めての個展 “トーマス・デマンド展” が東京都現代美術館で開催中。
7月8日まで。
さてさて、 「よくわかりません」 とは連呼したものの。
トーマスさんの写真作品を初めて観ましたが、
難しい理屈を抜きにして、純粋に面白かったです。
“へぇ~、これが紙で出来ているのね~”
と、 『TVチャンピオン』 のペーパークラフト王のスゴい作品を、見ているかのような印象。
それを、ペーパークラフトの実物ではなく、
あえて、写真という2次元の表現に還元していることが、不条理で面白い。
それでいて、作りものとわかった上で見ているのに、
その作品の中に、どこか温かみや人の存在を感じられるのです。
無機的なのに、有機的と言いますか。
いや、有機的なのに、無機的と言いますか。
とりあえず、感想を一言で、まとめるのならば、
「どう表現していいかわかりません (ボソッ)」
としか言いようがありません。
まぁ、それもそのはず。
これまで、こういう作風の写真作品を見たことが無いのですから (笑)
ただ誤解を招かないように、付けくわえておきたいのは、
「どう表現していいかわかりません。けど、何かイイ!」
ということ。
作品数はたった30点の美術展ながら、
彼のペーパークラフトの力作の数々に圧倒され、
さらには、新作の映像作品 《パシフィック・サン》 に度肝を抜かれ、満足度は十分。
(何せ映像作品は、コマ撮りで制作されていたのです。しかも、2分の映像作品。途方もない!)
「いやぁ~、面白かった♪」
と、美術展を後にしようとしたところ、
会場の最後に、 『お一人様一部まで』 と記された謎の配布物が。
手に取ってみると、作品の詳細な解説が書かれたリーフレットでした。
その解説を読みつつ、もう1周周ってみることに。
すると、
“へぇ~、これが紙で出来ているのね~”
としか思えなかった1周目とは違って、
作品の奥に秘められた深い意図について想いを巡らせられるようになりました。
どうやら周囲にいた同じリーフレットを持っていた人も、皆一様に思案顔をしています。
反対に、リーフレットを持っていない1周目の人は、何やら純粋に楽しそうでした (笑)
では、リーフレットに、どのようなことが書かれていたのかと云いますと。
実は、トーマス・デマンドが題材にしているのは、主に政治的・社会的事件の現場写真。
リーフレットには、その元となった事件が、簡単に紹介されているのです。
ネタバレになるので、多くを語りませんが。
例えば、冒頭で紹介した 《浴室》 は、
1987年にドイツの有名政治家の変死体が発見されたスイスのホテルの現場がモデル。
そして、新作の映像作品 《パシフィック・サン》 は、
youtubeで100万回以上再生された豪華客船の防犯カメラが捕えた映像がモデルになっています。
また、 《制御室》 という1枚は、
日本人の脳裏には、きっとよぎるところが、それぞれあるであろう光景がモデルになっています。
2011年、C-Print/Diasec© Thomas Demand, VG Bild-Kunst, Bonn / APG-JAA,
Tokyo Courtesy Sprüth Magers Berlin London and PKM Gallery, Seoul
モデルとなっているのは、福島第1原発の中央制御室。
巨大津波の被害を受けて非常用電源も機能しない中、
必死の復旧作業により照明が点灯した様子を、何度もテレビで目にしたのではないでしょうか。
しかし、何度も目にしたはずなのに、その光景に人の姿がないだけで、
ネタばらし (?) されるまで、福島第1原発の中央制御室とは気づきませんでした。
人の記憶は、なんと曖昧なものなのでしょう。
《制御室》 も、とても印象的でしたが、
個人的に、一番印象に残っているのは、 《踊り場》 という作品。
こちらは、2006年にケンブリッジの美術館で起きた、とあるハプニングがモデルとなっています。
まさか事件の張本人は、こんな風に、
トーマス・デマンドの作品にされるとは思っていなかっただろうなぁ (笑)
どんな事件か気になる方は、是非、会場にて!
2順することで、グッと深みの増すトーマス・デマンド展。
1周だったら、1つ星。
でも、2周周って、2つ星。
その演出もさることながら、
そもそも、トーマス・デマンドにスポットを当てた東京都現代美術館に拍手です。
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トーマス・デマンド展
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